新たな異形人類を創生してみよう♪

楠本恵士

第1話・マッドな屋敷に今日も雷鳴が轟く!?

 山の中腹にある。江戸時代から続く、マッドな科学者家系【久留田家】の屋敷──煙突からモクモクと噴出している人工雲から、雷鳴が轟き雨風が屋敷の窓を激しく叩く。


 人工の雨雲の領域から離れた町は晴天で、のどかな午後の時間が過ぎていた。

 館の実験室では、白衣コート姿の双子の兄と妹。

 高校生のような姿をした兄の『久留田 未雷くるた みらい

 中学生のような姿をした妹の『久留田 過子くるた かこ』の二人は、細長いプリンのような小宇宙空間に浮かぶ、楕円形小星雲を眺めていた。

 ゆっくりと回転している人工小星雲と、小星団はマッドな兄妹きょうだいの、マッドな祖父が原型を作ったモノだった。

 箱庭好きだった祖父は生前、木箱に入った人工宇宙の星雲を幼い兄妹に、嬉しそうに見せて話してくれた。


「どうだ、おじいちゃんが作った人工宇宙だぞ……人工空間に指を入れたら指が切断されて、大変なコトになるぞ……はははっ」

 孫を愛でる祖父……一般的には、孫に自慢の盆栽を見せているような感覚なのだろうが──マッドな家系の感覚は、どこか歪んでいる。

 マッドな祖父は、趣味の箱庭で、目で見えるサイズに大きくした微生物が動き回る、ミニチュアの日本庭園などを未雷と過子の兄妹に見せてくれた。

 水族館や動物園の箱庭には、免疫細胞の白血球やマクロファージ……細菌の類いが動物や魚の代わりに動いている。


「どうだ未雷、指以外のモノを人工宇宙に突っ込んで、どうなるか観察してみるか?」

 祖父の言葉に好奇心旺盛だった兄の未雷は飼っていた食用ピラニアを、人工宇宙の木箱に頭から差し込む。

 ビキッビキッと暴れていたピラニアが、大人しくなったので引き抜いて見ると、ピラニアの頭はスパッと切断されたように消えていた。

「すごいねおじいちゃん、ピラニアの頭がなくなっちゃった」

「そうだろう、そうだろう」

 マッドな祖父は兄妹に、先祖のマッドな科学者のコトをよく語っていた。


「うちのマッドな科学者家系の中で伝わっている、一番古い功績は江戸時代に城内で倒れて急死した老中を、当時の最新技術のエレキテルを使って動かして数日間、生きているように見せたコトじゃ……当時は久留田家の禁断科学は【場亜屁留ばーへる科学】と呼ばれていてな……」


 祖父が見せた絵巻には、亡くなった老中を背後から脊髄に電極を刺して繋いだエレキテルで、操り動かしている武士の姿がユーモラスに描かれていた。

「儂も亡くなったら、遺体は実験材料にして甦らせて、使用人として好きなように、こき使ってくれ……孫にこき使われるなら本望だ、はははっ」


 祖父の遺言通り、遺体は火葬されるコトなく、ツギハギだらけの知性が無い肌の色がゾンビ色の人造人間として甦り、不眠不休で雑用をやらされた。


 木箱に入っていた人工宇宙を今のオープンな型に改良したのは、兄妹のマッドな父親だった。

「どうだ、この方が観察しやすいだろう……わたしができるのはココまでだ、わたしには研究途中の実験があるからな……あひひひっ」


 父親は『人体の透明化』を研究していたが……ある日を境に行方不明になってしまった。

 久留田兄妹は父親が姿を消してから、数日後に屋敷を自家用車に乗って訪ねてきたマッドな叔父が、屋敷の前で何かに激突する音を聞いた。

 車を止めた叔父は、凹んだバンパーを見て首をかしげた。

「今、何かに激突して……何かをいたような気がしたが? 何も無いよな? あひひ」

 数日後──叔父の車が何かを轢いた場所からは、小雨の中で肉が腐敗する異臭がしていた。


 伸ばしたプリン型の人工宇宙に、さらに手を加えたのは叔父だった。

 叔父はVRゴーグルを使って、人工宇宙を仮想現実と直結させて自由に扱えるように改良した。

 人工宇宙の一部の星域から抜き出した、数個の天体をパチンコ玉のような金属球に変えた叔父は、VRゴーグルで同じ光景を見ている兄妹に言った。


「これで、好きなように惑星や恒星を作り替えられる……いいか、見ていろよ。あひひ」

 叔父が何も、現実世界では無い空間を手さぐりすると、バーチャル宇宙空間に中身が無い果物皮のような惑星外皮が現れた。


「この惑星外皮を、金属球のコアに、こうやって被せると。ほらっ、地球型惑星の完成だ。外すときは果物の皮を剥くように……ほらっ、剥けた簡単だろう。あひひ」

 叔父は地球型惑星の外皮をペロッと、裏返して剥いて金属球のコア惑星にもどす。


「恒星も炎外皮を被せれば完成だ……触っても熱くないから大丈夫だからな、おじさんが出来るのはココまでだ。中断していた研究をこの屋敷で完成させなければならないから……あとは、二人で自由に人工宇宙を使って遊んでくれ……あひひひっ」


 数日後──屋敷の実験室にこもって実験を続けていた叔父が行方不明になった。

 マッドな妹の過子は朝食のコーンフレークをスプーンですくって食べた時に、叔父の小さな悲鳴と口の中に血肉の味が拡がったコトに首をかしげる。

「あれ? このコーンフレークなんか変な味がする?」

 過子は、少し気にしながらも……そのまま、口に入れた血肉の味がするコーンフレークを飲み込んだ。


 さらに数日後──『人体の縮小化』を研究していたマッドな叔父が、屋敷内で失踪してから。

 叔父の連れ合いのマッドな科学者の奥さんが、開発した【霊界通信機】で叔父の死亡が確認され。

 屋敷に残されていた叔父の遺品を兄妹が整理していると、先祖が残した江戸時代の絵巻物が出てきた。

 広げてみると、絵巻には解説文と異体の生物を分け〔解剖〕した図が描かれていた。


 なんとか、墨字で書かれていた解説文を読むと。江戸時代に闇医者をやっていた先祖の医師が、江戸城に現れて捕獲された小人の肉人〔小型宇宙人グレイ〕を、公開される前の見世物小屋から買い取って。

 解剖した記録らしかった。

 高校生の姿をした未雷は、改めて先祖のマッドな偉業に感心した。

「すごいなぁ、バベル科学の先祖はこんなコトもやっていたんだ……先日はタイムマシンを作った、幕末の先祖がタイムマシンに乗って屋敷に現れたし……わたしたちも、ガンバらないと」

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