紫の国 第一章

erst-vodka

序章

第1話 成功なのか失敗なのか

そっと目を開ける。


見慣れない風景が飛び込んでくる。

ここはあきらかに私のいた世界ではない。

造形物が違う。こういった景色も見たことがない。

それに少ないながらも居る人々が身に着けている

衣服を私は見たことがない。学者でもある私がだ。


成功した・・・のか・・。


いや、まて。体がない・・。

意識?魂?だけが転移したのか・・。


まて・・・冷静になれ、俺。

可能性を考えよう。大きく分けて2つある。

まずは、うん。死んだ可能性。だって体ないし。

次に術が中途半端で魂のみ転移してしまった可能性。


そもそも死んだことがないので死後の世界の事は知らない。

ここは魂のみが転移してしまったと考えてみる。


というかそう思いたい。だって死んだなんて考えたくもない。


いままで幾人もの魔導士や学者が転移の術を行った。

ほぼ全ての者たちは肉体ごと魔方陣の中に消えたというが・・・。


もちろん全員が私のように肉体と魂が分離しているかもしれない。


うーん。よくわかんないので、とりあえずこの辺りを探索してみるか。


ここは公園か?でっかい樹木だな、それも2本。それにあの建築物。

ここは原始か・・・・。木で作った古い建物。

ん?皆が祈り?を捧げているな。教会っぽい何かなのか。


海の香りがするな・・・。香り?魂だけなのに香りがわかる。

その香りの方に目を向けると


うわぁ、なんという景色。これぞ異世界(のはず)。

ん?建物が違うな。先ほどのものとは全く違う。


どれもこれも同じものはないのだな。石造りでもない。

あとで近くに行って見ることにしよう。まずは・・・


おもいっきり人の前に出てみる。

うむ・・・。気づかれない。

やはり意識のみ、魂のみの存在なのだな、私は。


あれ?何を喋っているかわかるぞ。言語は同じなのか。

そのあたりもあとで考えてみよう。


なるほど、ここは神社というところか。

神様を祀っているのだな、どこの世界も神様はいるものなのだな。


しかし言葉がわかるのはありがたい。

情報収集といこうか。




うーん。情報収集も何も他愛のない話ばかりだな。


さて、どうしたものか・・・。


「そこの幽霊君。」


ふむ、幽霊。この世界にも幽霊が居るものだな。

ということは精霊も存在するのかな。


「それとも精霊君かな」


ふむ、やはり精霊は存在するのだな。

ん?私か!私が見えているのか!


振り向くと(振り向くというより回転だな・・)

そこには、ちょっと綺麗なお姉さんが私を見つめていた。


私が見えるのか?と喋ろうとしたが声にできない。

そりゃそうだ、体がないので口がない・・・。


「見えるよ」


なんと!私が喋ろうとしたことがわかるのか。

考えることもわかるのかな・・。

(姉さん綺麗だね、お茶しない?)


・・・・。返事がない。少しホッとした。


「あなた、その辺の幽霊とは違う感じがする。なんというか

 アニメっぽく言うと精霊」


アニメってよくわかんないが精霊はわかる。そうか、

わたしは精霊っぽい何かでこちらに転移したのか・・・。


とりあえずこの綺麗なお姉さんと色々と話をしてみよう。




同日同刻 とあるマンションにて


母が作ったゲームをしていると奥の部屋から呼ぶ声がする。

母は病気で床に伏していたが、この時は珍しく起き上がり

優しいほほえみを私に向けた。

そしてこう話しかけた。


「この時を待ち続けていたわ。あちら側からの使者を」


うん・・・。母は相変わらずの厨二だ。





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