幼馴染と義妹の中身が入れ替わったら……? 二人とも距離感がバグった。

緒二葉 ガガガ文庫ママ友と育てるラブコメ

一章 幼馴染と義妹の入れ替わり

第1話 入れ替わり①

彰人あきと冬子ふゆこ、早く行くよ! おみくじなくなっちゃう」


 初詣客でごった返す神社で、幼馴染の恋ヶ窪こいがくぼ菜月なつきが、ぴょんぴょん跳ねながら急かした。

 明るい色のポニーテールが一緒に跳ねる。


「さっむ……。なんでお前はそんなに元気なんだよ、菜月」

「おみくじはなくならないと思います。ゆっくり行きましょう」


 コートのポケットに手を突っ込みながら、少しでも温もりを求めて肩を丸める。


 隣を歩く妹の冬子も、同じように寒がりながらマフラーに顔を埋めた。

 色素の薄いアッシュグレーの長髪も、マフラーに挟まれ窮屈そうに膨らんでいる。


「冬子、なんで冬生まれなのに寒いの苦手なの?」

「私は菜月ちゃんみたいに無駄な脂肪を蓄えてないので」

「あ、ひっどい。私は冬子と違って胸が大きいだけで、お腹は痩せてるもん」


 ほら、と両手でニットを引っ張って、お腹をアピールする。


 本人としては、お腹の細さを証明したかっのだろう。

 しかし、それで強調されたのは豊満な胸部の方だった。


「胸……」


 冬子はぺたぺたと手のひらで確認する。

 一切の膨らみが確認できないのは、たぶん厚手のコートのせいだ。……そういうことにしておこう。


「一つしか年変わらないのに……」

「昔から、身長も私のほうが高かったもんねー」

「……いいんです。兄さんは昔から、小さくて可愛いって言ってくれますから」


 冬子がちらりと視線を向けてくる。


 俺は腕を組んで、大きく頷いた。

 妹の期待には応えないとな!


「ああ、もちろん。冬子は小さくて可愛いぞ」

「うわ、妹の胸に向かって何言ってるの……?」

「身長の話な!?」


 菜月がドン引きしたように、顔を引き攣らせる。


 冬子を見ると、えへへ、と顔を綻ばせていた。妹には引かれなくてよかった。


 冬子は150cmと高校一年生にしては低めだ。


 菜月は165cmほどあり、実に15cmの差が付いていた。

 色んな意味で対象的な二人である。


「ふーん、でもそっかぁ。彰人は小さい子が好みなんだね。私みたいなタイプはダメなんだ。……ロリコン」

「おい、謂れのない中傷はやめろ。もちろん、グラマラスな大人の女性も好きだ」

「最低、女の子に向かってそんなこと言うなんて、セクハラだよ?」

「どうしろと? つーか、幼馴染なんだから今さら女の子扱いしろと言われても……」


 そう言うと、菜月は不服そうに、ふんっ、とそっぽを向いた。


 怒ったのかと心配する必要はない。昔から気分屋なのだ。どうせ、五分もすればまたハイテンションに戻る。


「兄さんは大人な女性が好きなんですね。菜月ちゃんは幼馴染だし可愛いし、きっと恋してます。……羨ましい」

「してないんだよなぁ……」


 だって、菜月だぞ?


 たしかに今は、クラスでも話題になるくらい美人になったし、こういう目で見るのもどうかと思うけど身体も成長した。


 でも、幼少期から家が隣でずっと一緒に遊んだりしてるし、今さら女性として意識することはない。

 昔はガキ大将で、元気が有り余ってるからよく振り回されたものだ。……それは今もそうか。


「むむむ……なんか二人、距離近くない?」


 冬子が自然なそぶりで俺の腕に手を回すと、菜月が眉を顰めた。


「兄妹ですから」

「まあ兄妹だし」


 妹と腕を組むくらい……普通だよな?

 たしかに俺と冬子は仲がいいほうだけど、あくまで普通の兄妹の範疇だと思う。


「ふーん。私とはそんなことしないくせにー」

「お前は妹じゃないだろ……」

「あーあ、私も妹だったらなー」

「無茶言うな」


 あと嫌だわ、こんな喧しい妹。


 鳥居をくぐり、人の流れに乗って進んでいく。


「あ、見て、あそこ! 玉手箱あるよ!」

「賽銭箱な……あと、普通は鈴のほうに注目すると思う」

「細かいことはいいじゃん。ねね、お願い事していこうよ」

「そうだな、せっかくだし」


 三人で順番待ちをして、ついに俺たちの番になったので階段を上がる。


 お賽銭を入れて、お辞儀をした。


(たしか、二礼二拍手一礼……)


 手順を思い出しながら、拝礼をする。


 たしか、二拍手のあとにお願いごとを言うんだよな。


(えーっと、神様いつもありがとうございます。えー、それで……)


 なにかを願おうと思ったけど、特に思いつかなかった。

 特に生活に不満はないし、自分の力で成し遂げたいタイプなので神頼みもあまりしない。


 数秒考えても、やっぱり出てこない。


(二人の願いが叶いますように)


 結局、菜月と冬子の願いをサポートすることにした。


 菜月は食欲も物欲もすごいので、きっといくつもお願いしているはずだ。二人分の願いでもまだ足りなそう。


「よし、そろそろ行くか」


 最後に深々と一礼してから、二人に声をかけた。


「菜月はどうせ食べ物だろ? あ、もしくは期末テストの点数とかか?」


 菜月をからかいながら、階段を降りる。


「ちょっと、私をなんだと思ってるの! これでも乙女なんだけど?」

「……ん? なんで冬子が答えたんだ?」

「え?」


 二人の声を俺が聞き間違えるはずがない。


 振り返ると、冬子らしからぬ豊かな……悪く言えばアホっぽい表情で首を傾げた。


「兄さん、なにを言ってるんですか? 冬子は私です」


 ……と、菜月が答えた。

 普段はだらしなく緩んでいる頬が、今はキリッとしている。落ち着いた雰囲気だ。


「二人とも、どうしたんだ……? 突然モノマネでも始めたのか? 妙にクオリティが高いな……」


 まるで互いに相手の真似をしているかのように、そっくりな仕草だった。


「彰人、私はモノマネなんて……あれ?」

「そうですよ兄さん。……え?」


 俺を見ていた二人が、顔を見合わせる。


 二人とも一斉に驚愕の表情を浮かべ、互いに指を差した。


「な、ななななな」

「私が、菜月ちゃんになってて、菜月ちゃんが私に……もしかして」


 ただただ戸惑う冬子に、冷静な菜月。


 そして、同時に叫んだ。


「入れ替ってるーー!!」

「入れ替わってる?」

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