どらから! ~El doraco de CARAJO~

宮ちゃん♪

プロローグ

0:「序」


 逃げる。逃げる。逃げ続ける。

 一体なにから逃げるのか。一体、誰から逃げるのか。

 そんなことすら分からずに、ひたすら彼は翔け続けた。

 深い夜空に軌跡を残して。白い残影を糸のように引きながら、一直線に飛翔するその様は、地上からはどう見えているのだろうか。

 ある者はそれを流星と見たのかもしれない。またある者は、航空機が識別灯を光らせながら、高速飛行しているのだと認識しただろう。

 無垢な子供は夜空を指さし、未確認飛行物体の発見に歓喜の声を上げたのかもしれない。それを見た大人は苦笑交じりに、あれは人工衛星が地球の周りを回っているだけだ、と無感動に諭している光景も、また存在したかもしれない。

 しかし空を横切る当人は、そんなことには思考を向ける余裕もなく、必死に自らの肉体を運び続けるだけだ。

 時間と空間を自由に行き来して、時代という概念すら理解せずに、気ままに世界に顕現していた自分が今、空間に縛られて疲弊しながら移動している。その矛盾に気付くこともできずに、ただただどこかを目指して、光の尾を空中に描き出しているのだ。

 彼の頭の中には、かつてあった記憶の残影。決して昔のことではないが、時を解せぬが故に、いつの事かは分からない。それでも彼にとって頼れる存在は、在りし日の光景に、焼き付いているのだ。

 いま、混乱の極みにある彼の中には、そこに行かねばならない、という焦燥感で溢れている。

 あの人の所へ行かねばならない。あの人の元へと行きたいのだ。

 それだけを。ただただ、それだけを願いながら、暗い夜空を翔ける小さな光源。

 深い刻に沈む世界。多くの人々が眠りに耽る夜闇の中を、彼はひたすら、飛び続けた。

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