第26話
栞が来るまで、あと二時間ほど。
それまで何をしていようか考える。
今夜の夕食は久々に栞と二人で作ることになっている。
なので夕食を作る必要は無い。
なら何をしようか。
掃除でもするか?
それとも読書をしようか?
……今はどれも気分ではない。
目黒 修:「あ、そうだ……」
ひとつだけ、気が向いた。
地下にある展示室で僕のコレクションを眺めながらビールを飲もう。
本当は赤ワインを飲みたいのだが、赤ワインは栞と飲みたいので今回は止めておく。
さて、そうと決まったら急いで地下に行こう。
缶ビールを二缶とおつまみのミックスナッツを持って階段を下りる。
目黒 修:「あ……」
小山るうと目が合ってしまった。
まだ懲りていないようだ。
小山るうは、わざと胸の谷間が見えるように前屈みになって僕を見つめている。
僕が冷めた目で見つめ返すと、小山るうの視線は僕の顔から滑るように落ちて行った。
僕はその視線を辿る。
目黒 修:「あぁ、これか」
その視線の先には、僕が持っている缶ビールがあった。
確か、地下室に招待した日、小山るうは千鳥足になるほど酔っていた。
そんなになるほど飲むのだから、相当の酒好きなのだろう。
仕方ないな。
監禁してから少量の食事は与えていたが、胃に食べ物があまり入っていない状態でアルコールは良くない。
だが、この缶ビールが小山るうにとって最後の酒になるだろう。
僕は硝子部屋の扉を開けた。
小山 るう:「目黒せんせぇ、寂しかったぁ」
甘ったるい声を出して、小山るうは体を淫らに動かしながら僕に近付いてくる。
脱出を諦めていないようだった。
目黒 修:「これあげます」
僕は優しく微笑み、水滴が垂れる缶ビールを差し出した。
小山 るう:「嬉しぃ! ありがとぉ」
首を傾げ、にっこりと笑う。
目黒 修:「それじゃぁ、僕は用事があるので」
僕は小山るうに背を向け、来た道を戻る。
小山 るう:「行っちゃヤダぁ……」
服の裾を掴まれた。
僕は振り返る。
小山 るう:「一緒に飲も?」
潤んだ瞳で僕を見上げる。
目黒 修:「……いいですよ」
展示室に行くのは、 小山るうをコレクションに加えた時しよう。
僕らは部屋の中央、鎖と床の結合部分を囲むように腰を下ろした。
小山るうはプルタブに指を引っ掛け、 ぷしゅっと良い音を立てて開けた。
ゴクゴクと喉を鳴らして、ビールで喉を潤す。
小山 るう:「あ〜、おいしぃ」
上目で僕を見つめながら、上唇に付いた泡をぺろりと舐め取った。
ひとつひとつの仕草が、小悪魔を意識しているようだが、好きな女でないと下品な行動にしか見えない。
僕はそんな媚びる小山るうを無視して、缶ビールを開けた。
ぷしゅっと喉が渇く音が部屋に響く。
小山るうは缶ビールをくわえながら、相変わらず僕を上目で見つめている。
何も話すことが無いので、ただ時間が無駄に過ぎる。
僕はビールをちびちびと飲み続ける。
小山 るう:「やっぱ素敵だなぁ」
僕は口から缶を離し、上唇に少しついたビールを親指の腹で拭った。
目黒 修:「なにが、ですか?」
僕を見つめ続ける小山るうに問う。
小山 るう:「喉仏が上下に動くところぉ」
とろんっとした目で微笑む。
普通の男なら、こんな顔をして見せる小山るうを床に組み敷いて、欲望のままに抱くだろう。
目黒 修:「そんな顔しても、僕は小山さんを抱きませんよ」
横目で小山るうの様子を窺いながら、再び缶ビールを口元に運ぶ。
小山 るう:「目黒先生は落ちないかぁ」
残念そうに下を向いて笑う。
そして小山るうは大の字になって床に倒れた。
短いタイトスカートがせり上がり、赤い下着が見えた。
とても長い沈黙だった。
小山 るう:「殺すなら早く殺して……」
消え入りそうな小山るうの声が、僕の鼓膜を微かに震わせた。
振り向くと小山るうは天井を見つめていた。
小山 るう:「ねぇ、無視しないで」
肘をついて、上半身を起こし、僕を見つめた。
小山 るう:「……いつ殺すの?」
目黒 修:「明後日」
僕の即答に、小山るうは再び仰向けに倒れ、両目から大粒の涙を流した。
僕は自分の飲みかけの缶ビールと、小山るうの空き缶を持って部屋を出た。
未開封のミックスナッツは置いて行くことにする。
小山るうは、残りの時間をあの硝子部屋で、どう過ごすのだろうか。
自ら命を絶つのだけは困る。
小山るうが生きて明後日を迎えられる事を願いながら階段を上がる。
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