第18話
目黒 修:「具合はどうですか?」
よく冷えたコップ一杯のミネラルウォーターを飲み干し、少し落ち着いた小山るうに尋ねる。
小山 るう:「なんとかぁ……。目黒せんせぇ、お恥ずかしいぃところぉを見せてしまってしゅみましぇん」
会った時より酔いが回っているらしく、あまり呂律が回らない小山るうは頭を下げた。
目黒 修:「意外でしたね、小山さんが……」
僕は苦笑いをした。
小山 るう:「目黒せんせー?……面白い部屋ですねぇ」
酔っている小山るうには僕の声は聞こえなかったのだろうか。
小山るうは焦点が定まらない状態で部屋を見回した。
今、僕等が居るのは地下室にある硝子部屋だ。
目黒 修:「それより、あんなに酔いつぶれちゃうのはいつもなんですか?」
僕はあえて部屋の話には触れなかった。
小山 るう:「初めて行ったバーだったんですけどぉ……。つい調子に乗っちゃってぇ」
小山るうは片手で口元を押さえ大きなあくびをした。
目黒 修:「今夜は泊まっていって下さい」
小山 るう:「えぇ、迷惑じゃ……」
目黒 修:「小山さんをご自宅に送る方が大変ですから」
小山 るう:「あぁ……じゃぁ、一晩だけお願いしましゅ」
まだ酔いの醒めない小山るうを硝子部屋に残し、僕は地上に上がった。
タオルケットを持って地下室に戻ると小山るうは既に夢の中だった。
目黒 修:「風邪ひきますよ」
横向きになっている小山るうは無防備に脚を曲げて寝ているので、タイトスカートがせり上がり赤いTバックが露わになっていた。
僕は下着を隠すように、タオルケットを華奢な体にかけてやる。
それから僕は小山るうの近くに転がっていたブランド物の黒のクラッチバッグに手を伸ばす。
僕はこのクラッチバックを使う意味が分からなかった。
肩に掛ける紐が無く、文字通り手で持つバッグだ。
両手が空かず、クラッチバッグは既に手荷物になるので、コンビニなのでの少量の買い物ですら邪魔になる。
イマドキの人たちの流行りなのかは知らないが『流行り=お洒落』とは限らない。
大人になった自分が当時の写真を見ても恥ずかしくないよう、ちゃんと自分に合うファッションを取り入れるべきだ。
小山るうは若者らしく流行りに敏感な様で、黒のクラッチバッグは栞が読んでいた今月号のファッション雑誌に載っていたものだった。
その黒のクラッチバッグの中から香水やルージュ、ハンカチや手鏡ともみくしゃになっているスマホを取り出した。
当然、スマホにはロックがかかっているが、それを解除する‟鍵”は目の前で眠っている。
僕はタオルケットに包まって寝ている小山るうの顔の前にスマホをかざした。
最近のスマホは進化しているが、こんな状況ではロックなど何の役にも立たない。
顔認証システムは本人さえいれば、大したロックではないのだ。
目黒 修:「……ちょろいなぁ」
僕が一階に居た数分の間に誰かと連絡を取っていないか、最近開いたアプリを確認する。
カメラアプリやSNSのアプリ、メールやメッセージアプリの他に、世界中で話題になったモンスターを捕まえるゲームアプリなど使用していた形跡があった。
誰かと連絡が取れるアプリは全て開き、電話の発着信、メールやメッセージの送受信、SNSの書き込みやコメントなどを全て確認した。
だが、どれも僕と会う前のもので、内容も誰かと会う約束をしているものでは無かった。
きっと僕が出て行ってすぐ眠りについたのだろう。
スマホを含め、黒のクラッチバッグは没収することにした。
僕は一階のキッチンに向かい、香水やハンカチなどはゴミ箱に捨て、黒のクラッチバッグはカッターで切り刻み、布切れに変えてからゴミ箱に放り投げた。
スマホは手帳型のケースから外し、ハンマーで叩いて破壊した。
金曜日の明日は小山るうの定休日。
僕はいつも通り仕事に出掛ける。
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