15.エリナの決意

 結ばれることのない愛なら、いっそのこと、二度と会えないほど遠くへ離れてしまいたい。


 想うだけで胸が張り裂けそうなら、記憶から消してしまいたい。


 それが出来ないのなら、違う形でお兄様を愛そう。


 例え、お兄様の愛情に背くことになったとしても。


 お兄様は何よりも、私を優先してくださる。


 御自分の、恋すらも顧みずに。


 お兄様に好意を抱く女性は多い。


 当然だ。


 クランベル家の長男、ルーク・クランベルは、私が愛し、尊敬するお兄様なのだから。


 美しい容姿に合わせるように備わった品性、誰よりも人を思いやる気持ちに、皆を引っ張て行く行動力。


 魅了されない乙女などいないわけが無い。


 唯一、エマだけは違った目で見ているような気がするけど……。


 縁談の話だって、私よりも遥かに多く来ている。


 遠方からお兄様の噂を聞きつけ、会いに来て下さる方もいる。


 なのに、


『悪いけど、エリナが幸せになるまで僕は誰とも恋なんてしないよ』


 本当に、本当に胸が張り裂ける思いです。


 私なんかの為に、どうしてお兄様はそこまでされるのですか?


 そんなお兄様がいる限り、私は幸せになどなりません。


 だからこそ、お兄様には幸せになって欲しい。


 だからこそ、私を見限って欲しい。


 エリナ・クランベルは、お兄様が思うような人間には育たなかったと。


 元より、人を想う気持ちなど、欠片も持たぬ悪女だったと。


 お兄様が私に愛想を尽かし、御自分の幸せを求めるまで、私は仮面を被ろうと思う。


 出来の悪い、妹の仮面を。


 お兄様が想い人を見つけ、御自分の幸せを掴むまで、私は演じよう。


 悪の、令嬢を――

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