出会い

どうやら、もうすぐ生理があがりそうな気がする。


42歳の私は、完全に子供を諦めて仕事をする事に決めた。


「足、気をつけて。無理しないようにな」


「わかってる」


私は、左足首に装具をつけている。


妊活の為に、42歳まで専業主婦をしていた。


長時間立ってるのも、辛いので働きたくなかったってのも本音。


不妊とわかってすぐに、治療をした。


初めてすぐに、タイミングがあって妊娠する事が出来たけれど、流産した。


それから、5年間必死にしがみついた。


だけど、一度も妊娠はしなかった。


ステップアップもしなかった。


怖かった。


排卵誘発剤の副作用が強く出る体質の私は、それ以上先に進むことはやめてしまった。


続ければ、出来たかもしれない。


諦めずに治療をして、赤ちゃんを授かれた知人を見ては、涙を流した。


続ければ、よかったのかな…。


治療をやめたけれど、赤ちゃんを諦めたわけではなかった。


自然妊娠をする事を願って、頑張ってはいた。


だけど、出来なかった。


42歳、私は赤ちゃんを授かる事を諦めた。


「今日から、よろしくね。大河内さん」


「はい、よろしくお願いします。」


私は、新しい世界に羽ばたいた。


ここのオーナーは、足の事を話したけれど、快く雇ってくれた。


私は、42歳で、25年ぶりのコンビニのバイトを始めた。


「いらっしゃいませ」


初めてのバイトは、コンビニだった。


あの楽しさを42歳で、また味わえている。


ちなみに、シフトは二十歳の学生さんと同じだった。


毎日が、新鮮だ。


家に籠って、妊活に励んでいた時とはまるで違った景色だった。


ただ、猫のミカエルだけが気がかりだった。


私は、一時から五時まで働いていた。


「いらっしゃいませ」


「これ下さい」


「はい」


ピッ…


小さな男の子は、いつもガムを一つだけ買って行く。


「ありがとうございました。」


「はい」


可愛い。


「小学生ですね」


「ですね。」


「大河内さん、笑顔素敵ですよね」


「いえいえ」


「今度、一緒に遊びに行きませんか?」


「いいんですか」


牧瀬緑ちゃんは、今時の可愛らしい女の子だ。


20歳も歳の離れたおばちゃんと遊んでくれるなんて、嬉しい。


バイトが終わってから、連絡先を交換した。


「お疲れさまです」


「お疲れさまです」


毎日が、新鮮で楽しくて、あっという間に3ヶ月が経った。


あっ!


そう言えば、生理きてない。


最後にしようと決めた日から、丸3ヶ月生理がきていなかった。


もしかしたら!!!


毎日が、楽しくてストレスフリーな状態だから妊娠したんじゃないだろうか?


「ただいま」


そんな事を考えてると主人が帰宅してきた。


「優生、おかえり」


「ただいま」


「今日はね、シチュー。ほったらかし調理して作ったんだよ」


「へぇー。凄いね」


「すぐ、用意するから。お風呂沸いてる」


「うん、ありがとう」


優生が、お風呂に入ってる間に、サラダを用意した。


あがる頃には、全部を食卓に並べ終えた。


「お水」


「ありがとう」


「じゃあ、食べようか」


「うん、いただきます」


私と優生は、シチューを食べた。


食べ終わったタイミングで、優生に話した。


「あのさ」


「うん」


「生理こないから、検査薬しようかなって思って」


「どれくらいきてないの?」


「3ヶ月」


「期待してる?」


「うん」


「怖いの?」


「怖いよ、すごく」


そう言った私の手を優生は、握りしめた。


「休みの日にする?」


「その方が、いいかも」


「わかった」


私は、その日に検査をするのはやめた。


次の日も、コンビニバイトを楽しくして帰宅した。


明日は、休みだった。


朝一番で、検査薬をした。


怖くて、放置したままトイレを出た。


いつものように優生が、確認をしてくれた。


「どうだった?」


優生は、首を横にふった。


私も、トイレに入った。


真っ白な検査薬を見つめて、ゴミ箱に捨てた。


「やっぱり、駄目だね」


「理名のせいじゃないよ」


私は、泣いた。


【排卵しにくい体質で、ほとんど排卵してないですから、自然妊娠は難しいと思いますよ。】


お医者さんの言うことは、聞くものね。


その日、一日泣いた。


泣いて泣いて、眠った。



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