一角獣の幻像

信野木常

プロローグ

Ptolemaic Gears

 July/18th/2024 Australis NEWCASTLE Blocked Area-13 1:52


 曇天の真夜中になお暗く、咆ゆるものどもが押し寄せる。異形の巨体に押された波が、瓦礫の岸を洗って砕けた。

 ベルナルドは右目に嵌めた片眼鏡の縁に触れると、レンズアーカイブの一枚〈サフォワの瞳〉を有効化した。暗闇の視界が一気に拓け、海面を埋めるように集う巨大な異形の群れを、四肢を備えた両棲類様の奇怪な生物の姿を映し出す。

「フム。あの〈深きものディープワン〉どもが、変われば変わるものだ」

 ベルナルドは思い出す。かつては、そう、大海嘯以前の〈深きもの〉であれば、その大きさは確認できた最大の個体でも3メートルには届かなかった。知能も低く、敵や獲物と認識した存在には、ただ闇雲に突っ込んでくるだけ。水棲人ギルマンの司祭個体に誘導されれば、いくらか組織だった行動ができる。その程度だった。

 それが今は、頭部から尾まで全長6メートルをゆうに超え、司祭個体もなしに群れを分けて連携し、時に退き、時に攻め寄せてくる。

 人間と在り様は異なれども、彼らもまた知性体。人間が〈旧き民エルダーピープル〉や〈神秘の種族ミスティックレイス〉と接触して変容しつつあるように、彼らもまた何らかの変容を起こしつつある、のかもしれない。「人類は、この星の生物種は、新たな地質年代、第五紀を迎えたのだ」などと言う同僚もいる。

 ベルナルド自身も研究者として、興味深いテーマだとは思う。現にブリタニアやEU、ニホン、バラタ藩王連合はゼウスプログラムを軌道に乗せ、新たな時代に適応した新人類ともいうべき世代を造り始めている。英雄、新時代を拓く超人となることを期待された人造の子らを。母国アメリゴ合衆国USAはこの点で、〈神秘の種族〉の協力を得られず一歩も二歩も出遅れていた。ゼウスプログラムでは胎児の遺伝子を改造する。生命倫理に基づく市民の抵抗も、自由と人権の国として決して無視はできなかった。

「一度、〈旧き民の博士エルダー・ドクター〉と議論したいものだが……」

 それにしてもまずはこの場を、ひいては四年後に予想されるルルイエの浮上をどうにかせねば、研究はおろか人類の未来もない。

 ぬるい風が吹き、腐った魚臭が鼻を衝く。ベルナルドは腰の柄に左手をかけた。親指を鍔に乗せ、柄頭で何もない宙に軌跡を描く。柄を回し、突き出し、反転させて下を突く。順に戻してまた反転させ、軌跡で星々の座を指し示す。白銀のこじりが真逆の軌跡を暗夜に描く。設定座標"ALDEBARAN"。

 力みを捨ててゆるやかに振り向くと、ベルナルドは背後から迫る重く生臭い圧力に向かって刀を抜き放った。


 民俗武芸タカキ・シン流剣法、星辰抜刀スターリィ・ドロウ


一閃。黄衣の星の力を帯びた刃が、躍りかかった水棲人を両断。間髪入れず二の太刀が閃く。

 gFYiGyii…?と奇怪な声を鰓から発し、水棲人は四つの肉塊になって崩れ落ちた。瞼のない眼に僅かに残る人の名残りが、疑問を投げかけたように見えた。大海嘯後の水棲人は〈深きもの〉と同じ神蝕空間を微弱ながら有し、銃弾やナイフの刃程度は容易に弾く。

「なに、人の知恵と技術も馬鹿にならん、ということだ」ベルナルドは、足元に落ちた水棲人の断片に告げた。かつては人間であっただろうそれに、かすかな憐れみを覚えて。「いにしえの〈閉門者クローザー〉たちの技に比べれば、児戯にすぎんがね」

 天上を巡る星辰の力を地上の鞘の内に降ろし、常の手段では傷つけられない〈古く忘れられた統治者オールド・フォーゴトン・ルーラーズ〉の眷属を討つ技。現代においてはほぼ失われたそれを、神話人類学者ベルナルド・コーンウェルは洋の東西を旅して拾い集め、一部を復元していた。

 僅かに雲が割れ、月と星々の明かりが覗く。その弱々しい光が、岸辺の光景をかすかに浮き上がらせた。

 鉢状に窪んだ瓦礫の浜に、鎖につながれた老若男女が、皆一様に虚ろな目を海に向けて呻き、喚き散らしている。その周囲には、無数に散らばる水かき付きの手、鱗に覆われた肢、鰓のある瞼のない首……

「さすがにこの数となると、老骨には堪える」

 死屍累々と伏す水棲人の斬殺体を見下ろして、ベルナルドはごちた。この地で、クトゥルーの〈落とし仔〉との接触儀式を執行せんと集っていた水棲人の群れ。齢六〇を超えた身一つで相手取るには、少々辛いものがあった。しかし本国USAの神話災害対策機関センチネルは慢性的に人手不足で、現状、国土防衛以外に回せる余剰の人員がほとんどいない。いましばらくは、少なくともBTAC計画に目鼻がつくまでは、私が現場に出ねばなるまい。さっさと人類の危機など回避して、研究生活に戻りたいものだが。そのためには

「〈秘術の師ハイマスター〉の職などさっさと譲ってしまいたいんだがな」

『そうはまいりません』

 耳元の通信端末が、軽やかな声でベルナルドに語りかけた。

『博士には、我が国で戦士たちを教導いたたかねば』

「またその話かね? マーガレット君」やれやれ、声に出ていたか。ベルナルドはゆるゆると刀を鞘に納めた。「神性も持たぬただの老人に、妖精住まう貴国で何ができよう?」

 今いるこの土地、アウストラリスの政府機能は、大海嘯によりほぼ壊滅。現在は元の宗主国であるブリタニア連合王国の統治下にある。ダゴン秘密教団がここ、ニューキャッスル第13封鎖区画で、高位特定神話生物・クトゥルーの〈落とし仔〉との接触儀式を行うとの情報を入手した。という体で、ベルナルドはブリタニアに、この地域での活動許可を要請した。現在世界の裏層において、大海嘯発生の主犯と目されるダゴン秘密教団。その駆逐は国家を超えた人類世界共通の悲願であり、ブリタニア政府はベルナルドの要請を快諾してくれた。教団制圧の助勢も含めて。

 助勢に来るのは、良くてノルドの船棺戦士コフインシップ・ウォリアーか、せいぜいが対伝承存在機関(ALBEON:Anti Legendary Being Organisation)の情報部エージェントだろう。ベルナルドはそう考えていた。間違っても、彼の国の防衛の要である星辰装甲は出すまい、と。

『重要なのは、何者であるかではありません。何をするか。何を成したか』

 歌うようなマーガレット嬢の声に重なるように、上空からの風がベルナルドの髭を吹き流す。見上げたベルナルドの目に映るのは、僅かな月の光にすら鮮やかに白く照り映える、優美なる甲冑騎士の巨影。右目のレンズにエーテルリンクからの開示情報が流れる。


 ブリタニア連合王国、アルビオン騎士団星辰装甲〈ともし火の掲げ手ランタン・ベアラー


『神性因子なんて、あれば多少便利、程度のものです。それに』全高5メートルの白騎士はベルナルドの頭上を跳び越え、昏い夜の海面に着水。巨大な鎗を振るって〈深きもの〉の一体を薙ぎ払った。『たった一人で、三十余体の水棲人を斬り捨てる御方を"ただの老人"とは呼べません』

 白騎士の振るう鎗、その六割ほどを構成する螺旋刃ドリルブレードが、高速で回転しつつ〈深きもの〉の表皮に喰い込み脊椎を砕き、内部組織を粉砕する。

 ブリタニアからこの地に派遣されてきたのは、彼の国の最高品位の星辰装甲とその乗り手。騎士級ナイトクラス〈ともし火の掲げ手〉とその騎手、マーガレットだった。

「この」ベルナルドは刀の鞘を軽く叩いて見せた。「星辰抜刀スターリィ・ドロウの技術であれば……」

 後進が育っている。と言いかけたところで、ベルナルドは息を呑む。マーガレット駆る〈ともし火の掲げ手〉のすぐ背後の海面から、一際大きな〈深きもの〉の個体が飛び出した。中空を舞うその巨体は、尾びれを含めて10メートルを優に超えている。大型亜種だ。ダゴン級ほどではないが、星辰装甲単騎で相手どるには困難な相手だ。

 ブリタニア連合王国アングリアの王統にして守護者として、兄の〈黒太子ブラックプリンス〉エドワードと双璧を成す王女マーガレット。彼女は優れた星辰装甲騎手として、ブリタニアの、特にアングリア系国民の人気を兄と二分する実力者だ。

 が、この状況は危うい。ベルナルドは刀の鞘に手をかけた。扱えるのは僅かばかりの魔術と〈閉門秘術クローザーアーツ〉だが、援護程度はできよう。ベルナルドが海へと足を踏み出しかけた。その時


 夜の曇天を衝くように、暗い海より青い逆雷が翔け上がった。


 水飛沫を振りまいて、青い異形の星辰装甲が夜空を舞う。長大な一本角に〈深きもの〉の巨体を貫いて。鋭角に形作られた頭部に、鰭となった両腕。揃えられた両脚部の足のあるべき部位には、これまたフィンがついている。

 異形の星辰装甲は〈深きもの〉を貫いたまま、イルカやシャチを思わせる優雅なフォームで海面に没した。

『紹介が遅れましたね、博士』白騎士から届く声は、手品の種明かしをするように愉し気だ。『エスカ、挨拶なさい』

 海面を裂き、再び青い巨影が跳んだ。その異形を指し示して、ベルナルドの右目のレンズに開示情報が流れる。


 アルビオン星辰装甲海戦特化試験騎、モノセロス。


 搭乗騎手はエスカ。種族は人か、はたまた妖精種か。

「!?」ベルナルドは騎手の記述に驚き、思わず目を瞠った。「そんなことが可能なのか?」

 キューキュキュッキューと、軽快なホイッスル音が耳の端末に飛び込んでくる。

『〈翻訳不能〉はじめまして、老いたる人オールド・マン』ホイッスル音と同時に訳語と、その音の主の映像がレンズに出力された。『わたしは〈翻訳不能〉。人は私の名を発音できない。マギーの言った、そちらの音でよい』

 レンズに記述された騎手の種族は、Tursiops truncatus。映像はその記述を裏づける。突出した吻に、頭部の両側にある小さな目。滑らかな灰色の体表。即ち、バンドウイルカ。

 盛大な音と水飛沫を上げて、星辰装甲モノセロスが海中に没し潜行する。海面と海中を自在に泳ぎ、長大な一角で〈深きもの〉を海上の空高く放り、貫き、屠ってゆく。その様は、大海嘯で極度にその数を減らした海獣の狩り、そのものだ。

 イルカが人に協力し、星辰装甲を駆って〈深きもの〉どもと戦っていた。

 白騎士〈ともし火の掲げ手〉が海面を駆け、鎗を振るうたびに〈深きもの〉が砕けて崩れ去る。彼女の背後、その死角を護るように、一角海獣型星辰装甲モノセロスが海を自在に泳ぎ、〈深きもの〉を貫いてゆく。ベルナルドのレンズに描画された〈深きもの〉を示す光点の群れが、水に漬けた綿菓子のように溶け消えていった。そして

 PhHHhhh'nnnnNnnNngg!!!

 残るは、一際大きな〈深きもの〉の亜種が一個体。それが憤怒を滲ませた咆哮を轟かせ、水かきと鉤爪の前肢を振りかぶった。

 海面を蹴り、〈ともし火の掲げ手〉がモノセロスの背に跳び乗った。モノセロスはその意を察し、間髪入れずに一角を〈深きもの〉の亜種個体に指し向け泳ぎ出す。騎乗し鎗を構えた〈ともし火の掲げ手〉は、さながら馬上鎗試合ジョストの騎士のようで。

 海獣の泳ぎに、鎗を携えた白騎士が加速する。振り下ろされる〈深きもの〉亜種の右前肢。これを僅差でくぐり抜け、鋭いターンでその背後に回った。瞬間、白騎士と一角海獣は勢いよく空中に跳び上がる。

 〈深きもの〉亜種が振り向く間もなく、モノセロスの一角がその脊椎部を深く抉り抜く。更に〈ともし火の掲げ手〉が、モノセロスの背を蹴って跳び、真っすぐに降下しながら〈深きもの〉亜種の頸部を鎗で貫いた。鎗の螺旋刃が、高速で回転しながら〈深きもの〉亜種の背から尾部までを粉砕する。

 gYyiGi…i……

 砕けた喉から苦悶めいた音を発して、〈深きもの〉亜種の巨体は砕け、海に消えていった。

「王女は鎧をまとい、鎗を携え水魔グレンデルを討てり、か」

 ベルナルドは呟いた。〈ともし火の掲げ手〉は傷一つ負うことなく海面に立ち、その傍らには愛馬ならぬ愛海馬が控えている。ブリタニア国民がその勇姿に熱狂し、なかばアイドルスターのように扱うのも納得の華麗なる戦いぶりだった。世が世なら、吟唱詩人たちが歌を作り、辻で旅籠で歌っていることだろう。現にブリタニアでは、彼女を題材にしたポップソングもあると聞く。

 ブリタニアの妖精たちが造る星辰装甲は、今の世界の対特定神話生物戦において、最も先を進んでいる。というのがベルナルドの率直な感想だった。〈深きもの〉を始めとする大型の特定神話生物に対して、本国USAでは主に〈旧き民エルダー・ピープル〉と共同開発した対神装具エルダー・アームを運用している。が、場所を選ばず〈深きもの〉亜種を打倒できるほどの物ではない。

 更にブリタニアは、ニホンの新トウキョウ湾上にてあの起源体、神に準ずる存在とも言うべきクトゥルーの〈落とし仔〉を、実験騎体単騎で殲滅したとの報告も受けていた。情報の確度は高くも低くもない。真実ならば、いかなる手段を使ったのだろうか? 興味は尽きない。

「見事なものだ」ベルナルドは率直に述べた上で、訊ねた。「先だってのクトゥルーの〈落とし仔〉の殲滅といい、君たちは神話や英雄伝説でも再現しようというのかね?」

『……力ある者は義務を負います』ほんの僅かに間を開けて、マーガレットが答えた。『力なき民を護る、そのために戦う。というのもその一つでしょう。結果、人の領域をはみ出してしまうのだとしても』

「すまない。君たちのことを揶揄したわけではないのだ」マーガレットのほんの少し硬くなった態度に、ベルナルドは謝罪した。クトゥルーの〈落とし仔〉殲滅について聞きたかっただけだったのだが。「気分を害したのなら許していただけまいか。王女殿下ユア・ハイネス

 海面に立つ〈ともし火の掲げ手〉の上体が除装され、騎手の姿が顕わになった。夜空を覆う暗雲が割れ、月明りがそのたおやかな輪郭を照らし出す。

 彼女がアングリアの王女にして騎士、マーガレット。歳は若く、まだ一八か一九だったか。マーガレットが獅子の意匠で装飾されたヘッドギアを外すと、結い上げた白金色プラチナブロンドの髪が流れ落ちた。真白い肌に整った鼻梁。際立った美貌の中でただ一つ、異彩を放つのはその瞳。こちらを見下ろす濃い赤の瞳の虹彩は、アーモンドのように縦長だ。彼女が、ゼウスプログラムによる神性移植者、しかも高品位のそれであることは、各国の対神話災害組織の間では公然の秘密だった。

「無用の気遣いです。博士」マーガレットの声は元の朗らかなものに戻った。「本国には、機関銃に奪われた騎士の栄誉を今の世に再び、なんて意気込む者たちもいるようですが。それはそうと先のニュー・トウキョウ湾で観測された起源体、クトゥルーの〈落とし仔〉は……」

「あんな博打。認められるものではないわ」高くも落ち着いた少女の声が、マーガレットの言葉を遮った。「あんなモノを実戦で運用するなんて。うまくいったのはただの偶然。あの列島ごと消し飛んでもおかしくなかったのに。ウルスラのやつ、騎手の情報まで封印して……」

 背後を振り返ったベルナルドの前に、絵画と見紛う白いブリオー姿の少女がいた。長い金色の髪から伸びる耳先は長く尖り、足には透き通った翅が生えて細かな光の粉を撒いている。少女が白く細い手を一振りすると、足の翅は瞬時に消えた。妖精の魔法だ。彼女はブリタニアの〈神秘の種族〉。白騎士マーガレットの擁護者、アヴァロンに住まう〈湖の貴婦人フェイ〉の一人。

「そこまで話していいの? ロウェナ」笑みを含んだ声でマーガレットが訊ねた。「私はほどほどで、はぐらかそうと思ってたのに」

「あ……」湖の貴婦人ロウェナは一瞬、しまったとばかりに緑の瞳を見開いたものの、すぐに落ち着き払った態度に戻った。「別に構わないわ。あんなモノ、真似される心配もないし」

「フム。危険なものなのかね? クトゥルーの〈落とし仔〉を殲滅したという実験騎体は」

「そうね。危険よ」ベルナルドの問いに、ロウェナは薄い笑みを浮かべた。「貴方たちが集めてるモノで、やろうとしてることと同程度には」

「湖の貴婦人、その目は誤魔化せませんな。レイディ」

 勝ち誇ったかのような妖精に言うと、ベルナルドは外套の懐に手を入れる。今更隠し立てしても仕方あるまい。計画について、果たしてどこまで知られているものやら。歯車の一つは、かの国ブリタニアにある。どのみち協力を取りつける予定ではあり、説明の手間が省けたとも言えた。

 ベルナルドは懐からそれを出すと、右手のひらに乗せて見せた。半透明の歯車が手のひらから僅かに宙に浮き、鈍い色彩で明滅している。歯車は動力源が何処にもないのにゆっくりと回転し、見る者の瞬きの度にその歯形と歯数、回転速度を変化させ、一瞬たりとも留まらない。

「アンティキティラの天動機、その歯車」マーガレットが言った。かすかに声を震わせて。「付属の仕様書プレートの記述どおりなら、それは……」

 ベルナルドは頷くと、歯車を懐に戻した。

「どこまで集まっているの? 博士ドクトル

 ロウェナの問いに、ベルナルドは答えた。

「この土地のダゴン教団から回収したこれで、七〇個目になる」

 ベルナルドがこの土地に来た理由は、ここ、アウストラリスのダゴン秘密教団の接触儀式の阻止。それも目的の一つではあったが、より重大な目的は別にあった。BTAC計画。全てはその遂行のため。ベルナルドらUSAセンチネルの探索者エージェントは、この六年余り、散逸した歯車を求めて世界中を飛び回っていた。

「歯車の総数は、主副合わせて七二個」ロウェナが言った。「残り二つの内の一つは我が国ブリタニアに。最後の一つ、目星はついているの?」

「ああ、先日うちの方位占術師ダウザーがようやく捕捉した」ベルナルドは大海の向こう、太平洋を越えた北東はるかにある故国を見晴るかす。「灯台下暗し、というやつだよ」

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