浮気性の妻

連喜

第1話 Aさん

 コロナが俺の生活を変えてしまった。オフィスに出勤するという、当たり前の習慣がガラっと変わった。うちの会社はオフィスを縮小してしまい、全社員が同時に出勤したら、席がないという状態になっている。コロナ寡に中途で入社した人なんて、1年以上経っているのに、まだ数回しか実際に会ったことがない。


 以前の俺の楽しみと言えば、職場で出会う派遣さんとのデートだったが、コロナのせいで新たな出会いがなくなってしまった。うちの場合、派遣は全員契約終了になってしまったからだ。結婚相談所にも登録しているが、事情があって婚活もやめてしまった。

 しかし、女性に会いたいという欲求は止められない。


 俺はアドレス帳整理を口実に、携帯に登録している女性全員に連絡していた。もちろん、完全に仕事だけという人は除いてだ。


『お久しぶり。江田だけど覚えてる?アドレス帳を整理してて送ってみたけど、まだこのアドレス使ってるかな?』


 こんなメールを見て、普通の人ならナンパだと気付くだろう。既婚者でまともな人なら返信しない。



 取り敢えず、あいうえお順に送っているのだが、今回はかなり期待できそうな女性にメールを送った。10年くらい前に親密だった女性で、半同棲のような時期もあった。当時30代半ば。既婚者で子どものいない女性だった。ちょっと昔のトレンディドラマに出て来そうなワンレンの美女。お洒落で生活感のない人だった。事務の派遣だったけど水商売の人のようだった。奔放なタイプで浮気は俺が初めてではなかったようだ。


 やはり10分後くらいにメールが来た。


『使ってるよ。お久しぶり。元気?』

『今、どうしてるの?』と、俺。

『専業主婦。毎日暇すぎて死にそう』

『いいねぇ。コロナだし羨ましいよ』

『最後に会ったのいつだっけ?』

『10年くらい経つかも。でも、ずっと忘れてなかったよ。生活変わらない?旦那さん元気?』

『うん』

『旦那、仕事見つかった?』

『うん。今はコールセンターで働いてる』

『コロナで大変なんじゃない?』

 こんなやり取りをしばらくしていた。旦那がコールセンターで働いてて、奥さんが専業主婦で生活できるんだろうか。俺が前に勤めていた会社に派遣で来ていた時は、旦那がリストラされて生活が苦しいから働きに出ていたんだったと思う。住宅ローンがあって、生活がギリギリだったと聞いていた。きっと家を手放して賃貸なんだ。

『もしかして引越した?』

『ううん。前の家だよ』

『家は確か・・・〇〇だよね?』

『よく覚えてるね』

『だって何回も行ったし。確か、旦那さんが出稼ぎに行ってたよね。地方のダムに』

『そうそう・・・なつかしいね』

『なつかいしいな。君の家から一緒に会社行ったこともあったよね』

 俺はその当時のことを思い出して、まるで夫婦みたいだったとしんみりした。彼女は不幸を全身にまとったような女性だった。大学時代から付き合っていた彼と20代後半で結婚したそうだ。結婚までの間、彼女が留学したりして遠距離だったけど、彼が辛抱強く待ってくれて、この人しかいないと思ったらしい。


 彼も大企業に勤めていたし、お似合いだった。2人は将来子どもができることを見越して、一戸建てを購入。ここまでは順調そのもの。


 しかし、彼女は30くらいで子宮の病気になって子どもが産めなくなってしまった。それでも、旦那は彼女を愛していて、2人で生きて行こうと言ってくれたそうだ。その後、彼はリストラに遭う。転職したけどうまく行かなくて1年で退職。その後も何度か転職したが、すべて1年未満でやめていた。


 彼女は働きたくなかったけど、無理をして派遣で働くようになった。俺のいた部署は残業もあったけど、彼女は不満を言わずに真面目に働いていた。俺と一緒に遅くまで残っていて、一緒に夕飯を食べたりしているうちに親しくなってしまったんだ・・・。


 

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