第18話 別邸

大公家の別邸で過ごすようになって三日が過ぎた。

ここに来てからもずっとジルから魔力を受け続けていた。

完全に魔力を戻して、そこから少しずつ自分の魔力が戻っていくらしい。


同じ部屋で過ごすことに抵抗はあったが、

私が動けるようになるまでずっと同じ寝台にいたのに今更と言われ、

それもそうだと思ってしまったことで押し切られてしまった。


魔力を使い切るということがどれだけ危険なのかわからなかった私でも、

ジルがあまりにも私から離れようとしないのを見て、

魔力が戻ってもまだ私の身体は危ない状態なのだと知った。



「ようやく俺の魔力で満たせたよ。これほど時間がかかるとは思わなかった。

 あとは少しずつ俺の魔力を消費してリアの魔力に変換されて行く。

 それが終わってリアの魔力が全部変換出来たら、あとは問題ないはずだ。

 ただ、これだけ魔力量が多いと、器が傷ついていないか心配なんだ。

 それに俺からだと説明しきれていないところも多いから、

 診察ついでに魔力について説明を受けるといいよ。

 明日大公家の医術師が来るから。」


「魔力の説明?今回のことだけじゃなくて?」


「ああ。どうやらこの国では常識なことでもリアは知らないことが多いようだ。

 でも俺だと説明が偏ってしまいそうだから、ケニー先生に聞くと言い。

 俺も幼少期からお世話になっている医術師なんだ。」


「そうね。隣国だし、そんなに違いは無いと思ってたけど、

 この国に来てから驚くことばかりだわ。

 一度きちんと説明を聞いてみる。」



次の日に会うことになったケニー先生は茶髪の髪を一つに束ね、

にこっと笑うと幼く見える不思議な感じの人だった。

ジルの幼少期から医術師だったというなら、いったい何歳だというんだろう。

年齢不詳な上に中性的なケニー先生に少し驚いたが、向こうもなぜか私に驚いているようだ。


「あぁ、なるほど。そういうことでしたか。初めまして、ケニーです。

 大公家の医術師ですが、普段は魔術具の研究を主にしています。

 何かあればこうやって医術師の仕事もしますけどね。」


「リアージュ・イルーレイドです。

 隣国から留学してきて、大公家でお世話になっています。」


「ええ。この国の魔力と結婚についての常識を説明するようにと聞いています。

 一通り説明しますので、その後に質問してもらえますか?」


「わかりました。」



「それでは、この国で特に高位貴族間での結婚では、

 魔力交換と属性の通知が行われます。

 魔力交換はお互いの魔力を半分ずつ交換することで、

 夫婦間の魔力の差を無くすことが目的です。

 なぜ魔力差を無くすかと言うと、魔力差があるままでは子供ができにくいからです。

 属性通知は魔力交換の際に知ってしまうので、これはおまけみたいなものですね。

 魔術を使っているうちにわかってしまうことも多いですし。

 まぁ、大ぴらに公表する人はいないので、夫婦間の秘密の共有みたいなものです。」


だから魔力を入れた時に属性を教えてくれたのね。

ジルの属性は水と氷と闇だって言ってた。闇か…私の光とは逆なんだ。


「この国には言い伝えがありましてね、昔話と言いますか。」


魔力の説明が続くのかと思ったら、ケニー先生は昔話を始めるようだ。

どうして昔話?


「あるところに高貴な生まれの少年がいました。

 その少年はとても魔力量が多く、結婚相手が見つかりそうにありませんでした。

 しかも闇属性を持っていたため、他の魔力とは反発してしまい、

 他人にふれることも難しかったのです。

 その少年が大きくなるまで、誰一人その少年を癒すことができませんでした。

 ところがある日、一人の少女がその少年にふれることができたのです。

 その少女は魔力量が少年と同じくらい多く、

 しかも闇属性を中和できる光属性を持っていたからです。

 少年は喜んで少女を嫁にもらい、二人は仲良く暮らしたとさ。

 めでたしめでたし。」


「…それは何の昔話ですか?」


「この国の王族の昔話ですよ。実際にあったそうです。

 この国が魔力重視の国なのはわかったでしょう?

 ですが、そうやって魔力を半分にしていくと、

 子どもは産まれても魔力量は少しずつ減っていきます。

 そうして王族の魔力が弱まっていくと、

 突然魔力がけた違いの男の子が産まれるんです。」


「ただの昔話じゃないんですね?」


「はい。そしてその少年は必ず闇属性を持っていまして、

 王族の血筋のどこかで産まれている光属性の少女と出会うんです。

 あまりに魔力量が違い過ぎると魔力交換に相手が耐えきれなくなって器が壊れます。

 まして闇属性は光属性以外の属性の者に流すことが難しい。

 運命の少年は運命の少女としか結婚できないのです。」


「闇属性と光属性…。」


「もうわかりましたよね?ジルアーク様は運命の少年です。

 産まれた時点でわかっていたので、王家は必死に光属性の少女を探していました。

 ですが、光属性であっても魔力量が普通だったり、

 魔力量は多くても光属性じゃ無かったり。

 今代は何か間違いがあって少年だけ産まれてきたと思われていました。

 ですが、隣国とは言えリアージュ様は王家の血筋です。

 隣国では魔力鑑定はほとんどしないと聞いています。

 ですから見つけることができなかった。

 リアージュ様が留学して来てくれて、本当に良かったです。」


「ジルと私が運命の相手だって言うんですか?

 それは、初対面でわかるものなんですか?」


だって、ジルは初対面の私に婚約を申し込んできている。

シャハル王子から助けてくれるために婚約したと思っていたけど、

もしかして最初から知っていて婚約した?


「ジルアーク様にふれて気持ち悪くなったり、反発するような魔力を感じますか?」


「いいえ?」


むしろふれていて気持ちいいくらい。反発するどころか引き寄せられるように思う。


「それだけでも運命の相手だとわかるものですが、

 ジルアーク様の結婚への障害はそれだけではないのです。

 ジルアーク様の眼鏡を外した姿を見たことがありますか?」


「はい、ありますよ?私と二人の時はほとんど外していますから。」


「ジルアーク様の目は魅了眼です。見た人を惑わせるんです。

 ジルアーク様自身は闇属性なので、惑わされたとしてもさわることすら難しい。

 なのに魅了された人間はジルアーク様を捕まえようとします。


 捕まえて閉じ込めて鑑賞しようとするもの、いっそのこと殺そうとするもの、

 まだ幼少期のジルアーク様をです。

 大公家の使用人は平民ではありません。それなりに魔力量も多い。

 それでもジルアーク様の魅了眼に抵抗できるものがいませんでした。

 だから今は平穏に暮らすために魅了眼封じの眼鏡を常時使用しています。

 使用人は数を減らし、一緒にいるリンとファンは侍従ですが侯爵家の次男です。」


「え。リンとファンって侯爵家なの?」


「そうです。下手に下位貴族の者では眼鏡があっても一緒にいるのが難しいのです。

 ご家族や高位貴族の者であっても、眼鏡がなければ会話もできません

 

 あの眼鏡の魔術具を作ったのは私ですが、

 魔力に制限をかける魔術具なのでつけているだけで苦痛があります。

 少しでも苦痛を和らげようと研究は続けていますが、魔力量が多すぎて難しいです。

 眼鏡なしで会話ができ、ふれても体調に影響が出ないのはリアージュ様だけです。

 お二人の時に眼鏡を外しているのは、それだけ安心しているということでしょう。」

 

「だから、運命の相手…。」


いろんな情報が一気に入ってきて、うまく感情が追いつかない。

もうすでにジルから魔力をもらっていて、属性も聞いていて。

ジルが結婚できるのは私だけで…。

うれしいのに複雑なのはどうしてだろう。


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