1-7妹がピンチの時に駆けつけるお姉ちゃんになってしまった

「お姉ちゃん! また会ったね!」


 思わずイヴの頬が引き攣った。

 六階層に下りたとたんに、褐色マッチョの妹に出迎えられたからだ。


「そ、そっちのパーティはだいぶ前に六階層に降ったと思うんだけど……どうしてまだこんなところに?」


「この先に『致命的遭遇ファンブル』がいるんだよ!」


 五階層におけるゴーストハンドのような、その階層の中でもっとも対処が困難な脅威のことを、俗に『致命的遭遇ファンブル』などと称する慣例がある。


 このダンジョンは十階層まではそこそこ正確なマップと脅威図鑑が存在しており、不真面目すぎない冒険者は自分が挑む階層と、その一つ先の階層のデータぐらいは読み込んでおくものだ。


「この階層の『致命的遭遇』って、『トラップルーム』ですかっ!?」


 錬金術師が身を乗り出す。


 トラップルームというのはその名の通り『部屋』だ。


 入った者を捕らえて、中で出される課題をこなすまで閉じ込めておく。

 もちろんこの世界のダンジョンの方向性的に要求される『課題』は快楽責め、繁殖方面なので、トラップルームは俗に『セックスしないと出られない部屋』などと呼ばれたりもするのだった。


「……ところでウルサ、あなたのパーティメンバーは?」


「三人とも部屋に閉じ込められてるよ!」


「ええ!? 大丈夫なの!?」


「喘ぎ声が聞こえるから無事だと思う!」


 耳をすませばたしかに前方から獣のようなあえぎ声がうっすら聞こえる。


「ありゃあ『木馬責め』のあえぎ声だな」


 イヴのパーティのリーダーがつぶやく。

 慣れた冒険者になると喘ぎ声から受けている責めの内容を察することができるのだ。イヴとしては身につけたくない経験則だった。


「お姉ちゃん……お願い、私の仲間を助けるのに力を貸してほしいの!」


「ウルサ……でも、『トラップルーム』って中での『課題』が終わらないと外からは開かないんでしょう?」


「大丈夫だよ! 私が脱出する時に扉をこじ開けたから、それで扉に隙間ができてるの! そこから入れるんだ! でも……そのせいで『番人』が出ちゃって……」


「トラップルームの扉ってこじ開けられるものなの!?」


「筋肉に不可能はないんだよ、お姉ちゃん」


 じゃあそのまま『番人』を倒せばいいのでは……と思ったけれど、イヴは「そうなの、すごいわね」とだけ言うにとどまった。

 できたらやっているだろう。できないから協力を求められたのだ。つまり筋肉にも不可能はあった。


 イヴはパーティメンバーを振り返る。


「いいんじゃねぇか? やってやろうぜ」


「…………危険そう。行きたい」


「トラップルームに使われている技術は失われた古代文明のものとも言われていて現代の魔技学とはまったく別の進化をたどった『別の世界の技術』だという話でありそこに使用されているさまざまな━━」


 異論はなさそうだ。


「わかったわ。ウルサ。レイドを組みましょう」


「お姉ちゃん! 大好き!」


 妹が抱きついてくる。


 ウルサはかわいい妹の金色の髪をなでながら、『このままだとトラップルームの番人より先に妹に締め殺されそう』と思った。

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