イヴと異世界のエロトラップダンジョン

稲荷竜

1章 男女観念逆転世界の始まり

1-1 穴から落ちるとそこは男女観念逆転世界だった

 冒険者の運命は天上におわす女神がダイスを振って決めていると言われていた。

 それはたいてい平凡そのものの結果を出すのだけれど、たまに運命的な成功があって、同じように致命的な失敗もある。


 そういう俗説があるものだからダンジョンは基本的に男社会だ。

 女性が入ると女神が嫉妬して、恣意的に出目をねじまげるという話があった。


 ようするに、ただのゲン担ぎだ。


 だからイヴは怒っている。


『たかが験担ぎ』を、多くのダンジョン関係者たちがさも絶対の法であるかのように信じ込んで……

 あまつさえ制度上は『登録さえすれば誰でも入れる』ということになっているダンジョンに入るのに、無駄な苦労を大量にさせられたことが、気に入らない。


「冒険者どもがダンジョンでとれる薬草をもっと安く売ってくれたら、ダンジョンなんか入らないわよ! 貧乏人は死ねっていうの!?」


 薬草が必要なのはイヴではなく、彼女の妹だった。


 歳の離れた妹と二人暮らしをしていて、その妹は体が弱い。

 都市郊外に住まう彼女は基本的に小さな菜園でとれるもので自給自足をしている状態だが、それとは別に薬代も稼がねばならない。

 そのためには仕事をするしかないのだが、工事や冒険などの仕事はほとんど男たちに占有されていて、残る『稼げる仕事』は娼婦か、それに近い踊り子稼業ぐらいしかない。


 ところがイヴは敬虔な『ミタ教』の信徒なものだから、結婚相手以外との性交は教義もあって絶対に嫌だった。


 金髪碧眼で顔が小さく、腰の位置は高く、ふとももや胸に適切な肉が乗り、腰もよくくびれたイヴは、娼婦になれば稼げると言われたことも、一度や二度ではない。

 けれど顔立ちそのままの意思の強さでそれだけは跳ね除け、こうして冒険者として登録し、『男の世界』であるダンジョンに潜るに至ったのだった。


 薄暗い洞穴内をひたすら進んでいく。


 仲間はいない。

 験担ぎに夢中なアホどもは、女と一緒にダンジョンに入ることを極度に恐れ、誰も組んでくれなかった。


 それにイヴ以外の女性冒険者というのも存在しない。

 それなりに体力があって、戦いもできる女というのが世界にイヴ一人なわけがなかろうが、そういう人たちは実際にダンジョンに潜る前にある『冒険者協会の言いがかり』で折れてしまうのだ。


「まったく! 男どもに神罰が降りますように!」


 その願いを天上におわす『ダイスを転がす女神』が聞き届けたのかどうかは、わからない。


 けれど、怒りの勢いに任せてずんずん踏み出した彼女の着地点に蜘蛛の巣状のヒビが入り、ほんの一瞬あとに地面が砕けた。


 イヴは回復と格闘ができる武僧であったが、それはミタ教の武僧心得をもとに自主トレしただけであり、こういう事態に素早く対処できるほどの技術も反射神経もなかった。


 イヴはダンジョンを落ちていく……落ちていく……落ちていく……


 そして。


 彼女が次に目覚めたのは『よく知る世界と似た異世界』……


 女がダンジョンに潜るのが普通の、ある意味で彼女の望んだ世界なのだった。

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