花火
「綺麗な花火⋯⋯」
寄宿舎から見える大きく開いた花火はとても綺麗でため息しか出ない。ここに来て2年目だが、こういった花火は何度見ても飽きない。
素晴らしさを日記に残しておこうと席に着いた途端、嫌な予感が背筋を駆け上る。あの花火はもしかして……。いや、まさかね。いやいや。まさか。いやでも、……。途端にメイドのエヴァの声が蘇る。
『お嬢様、21:00集合でお願いしますね。くれぐれも遅れませぬように』
頭の中で赤信号が一気に燈る。
お気に入りのピンクのパジャマのまま私は部屋が飛び出し、寄宿舎の裏にある森の中にダッシュで向かう。途中足がもつれ転んでしまったが、そんなの気にしてられない。
「4分33秒の遅刻ですよ、お嬢様。私遅れないように、と申したつもりですが……?」
目的地に着き肩で息をする私に、クラシカルなメイド服のエヴァが懐中時計を見ながら吐き捨てた。エヴァは私が小さい時から使えてくれているメイドだ。父親が戦災孤児だったエヴァを拾ってうちでずっと育てていたらしいのだが、そこらへんの詳細は聞いてない。ただプライドもあるのかかなり慇懃無礼だ。
「わかって、る、わよ……」
心臓がバクバクとなかなか収まってくれない。
「時間が押してるんでいきますよ」
そう言ったエヴァは踵を返して、森の奥へと進んでいってしまう。息もまだ整ってないのだが、私は慌てて追いかける。
「今日のターゲットはこいつです」
正面を見ながらエヴァは書類を投げ捨ててきたので、体制を崩しながらも受け取り、目を通す。
ターゲットの罪状は殺人。
髪は短めだが、両耳と鼻にピアスをし、人相が悪い。ファーストインプレッションで申し訳ないが、明らかに人を殺してそうな感じだ。
「読みましたね? さあ、汚い花火を打ち上げに行きますよ」
END
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