ゲーム2:電話でいいトークできるか対決①

 健吾は危機感を募らせていた。

 このままなら多分、結構ヤバい。このままなら負ける。本能だけじゃだめだ。相手のことを考えないといけないんだ。それと、作戦をたてないといけない。

 ――取り合えず、色々作戦立てて、まずは弘人をぶっ放す。で、勝太に追いつく。

 でないと、初恋を実らせることなど叶わないのだ。

 ――次のゲームは今日の十時から始まるって言ってたな。

 今が九時。休日だから遅く起きたが日課のサッカーの練習はできないかもしれない。それでも、初恋を実らせるには仕方がないか。

 健吾は急いで食卓に着いた。




 誰が早織を自分のものにできるか競うグループ

 参加者 健吾・勝太・弘人・いおりん♪


 伊織『こ~んに~ちは~!!』

 弘人『どうしたんすか、テンション上がってる』

 勝太『これ、どっかで聞いたことあるような』

 伊織『そんなことどうでもいいんです!! さて、本日は第二ラウンドです!!』

 健吾『ごめんなさい、もう始まってます?』

 伊織『ダイジョーブ。生徒副会長はいつも遅刻するもんだよ』

 弘人『いや、生徒副会長って普通遅刻する……?』

 伊織『いーのいーの』

 伊織『そうだ、昨日挙げた得点表見ました? しょーた君ダントツですよ~。で、二位争いヤバい! チョ~楽し~! 今日も頑張ってね』


 伊織『それじゃあ、今日のゲームを説明しま~す♡』

 伊織『今日は電話でいいトークできるか対決で~す♡』

 健吾『???』

 弘人『なんとなくわかっちゃったような……』

 伊織『ルール説明しま~す! これから、十分間、早織と電話してもらいます! もちろん、ビデオ通話です』

 健吾『嘘!! マジ!! でも、どうやってやるんですか』

 伊織『三人の家にランダムで行って電話かけるってこと。で、誰が一番いいトークできるかを対決してもらいます♪ 点数の判定は私で~す♡』

 勝太『なるほど』

 伊織『それじゃあ、ゲームスタート!! 鈴川伊織、家を出て誰かの家に向かいます♡』




 ピーンポーン

 インターホンが鳴った時、うわぁ、やっぱりか、と思った。

 弘人はソファから立って、ドアを開けた。

「ハロー、弘っちゃん。なんせ一番家近いんだからね」

「はい……」

「じゃあ、早速本題行こうか。心の準備は良い? 作戦考えた?」

「え、ちょっと待ってください!」

「早くして」

 落ち着け、落ち着くんだ。でも、何を話せばいいのだろう。縁もゆかりもない弘人が電話をかける意味などない。なのに……。

「はいじゃ~かけま~す」

「うえっ」

 トゥルルルル……。


『もしもし? 何、姉ちゃん』

「あれ。ちょっと協力してくれる?」

 それから、伊織は何か話してから弘人に変わった。

「はい、弘人君。あとは私見守り」

「えぇ~?」

「ほら」

『もしもし? 弘人君?』

「もしもし……」

『あれ。なんか元気ない? まあ、朝だもんねぇ。しかも休日の。だるいだるい。でさ、なんか話そうよ』

「え?」

『いいじゃん』


 そのまま、自分のサッカーの話とか早織の水泳とか陸上の話、最近好きな映画の話、あとはクラスの話など様々なことを話した。他愛もない話ばかりだが、最初はもじもじしていたのが徐々に打ち解けて話せるようになったのは進展だなぁと思った。


『それじゃあまたね。これから頑張ってね! 楽しみにしてるよ』

「え? あ、うん。ありがとう」

『バイバ~イ。切るね』

「あ、うん」

 通話終了。最終的にやっぱ戸惑いも多いけど。

「よぉし、それじゃあ次は健ちゃんのとこに行くぞぉぉぉ!!!!」

 え、まず健吾の家知ってるの?




 ピーンポーンピーンポーン

 インターホンが鳴った。

「はーい」

 母さんが出る。

『突然の訪問、申し訳ありません。実は私は生徒副会長を務めている鈴川伊織と申すものです。健吾君に話があって来ました』

 来た。そうだ、母さんはこの事情を知らない。伊織は生徒会の立場を悪用している。

「ハロー、健ちゃん。早速やるよ!!」

「はい。分かりましたよ」

「結構テンション低いね。恋人と話せるって言うのに?」

「え、ちょっと伊織先輩、冗談も休み休み言ってくださいよ」

「ハハハハハ。取り合えず、かけるね~」

 そう言って伊織は手っ取り早くスマホを操作した。


 トゥルルルル……。

「もしもし早織?」

『お姉ちゃん? どしたの』

「えっとね、早織。こんなことがあってね。それで、早織に協力してもらいたいの。こんなことがあるんだけど……」

 すると、伊織は何やら嘘の企画ということを早織に話した。

「それじゃあ、健吾君に代わるね」


「え、もしもし」

『もしもし、健吾君? サッカー県大会行くんだってね。いやぁすごいよね。こんなこと私にはできないわ』

「いやいや、早織ちゃんは水泳とかめっちゃ速いじゃん。俺はサッカーしかできない男だからさ、水泳とか体操とかできないのよ」

『健吾君は運動神経良いからきっとできるよ』

「そう言ってくれると嬉しいわ」

『勝太君とかめっちゃできるんだから、健吾君でもできるよ』

 え、勝太。早織の口からライバルの名前がこぼれてきたことに、健吾は動揺した。

『もしもし、健吾君大丈夫? なんか動揺してる?』

「いや、大丈夫」

『もっとサッカーのこと教えてよ』

「え、良いけど大丈夫? つまんねぇかもしれない」

『いいよいいよ』


 それから、健吾は早織にサッカーのことを色々教えた。自分のポジションとか、チームメイトのこと、監督のこと、有名な選手のこと、テクニックのこと、強豪校のこと……。

 ああ、なんだろう。この親切に相槌を打ちながら聞いてくれる天使のような女の子。一生聴いていたい。

 健吾の心臓はドクンドクンと大きく波打っていた。

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