第三話 ノアに喧嘩(?)を売った店

「最初に言うが、有用な情報は無かった。まあ、この手の情報を集めるにはスラム街に行くしかないしな。で、分かった情報は二つ。一つ目は、その裏組織のアジトはこの街だけでも複数ある。二つ目は、貴族がその組織の後ろ盾になっている。ま、こんなところだな」


「まあ、その二つは予想していたことだからな。だが、貴族が絡んでいるという情報はありがたいな。これで、マリアの話の信憑性が上がった」


 俺はソファに転がりながら、そう言った。


「俺はこれからスラム街に行って、情報収集をしてくる。それでさ、情報量を払わされるだろうから、ちょっと金をくれないか?」


「分かった。ほいっ」


 俺は銀貨五枚が入った袋をマジックバッグから取り出すと、ケインに放り投げた。


「おう……て、すげぇ。銀貨じゃねえか。これだけあれば、かなり情報を集められそうだ」


 ケインはそう言うと、革袋を懐にしまった。


「で、明日からの予定だが、鉱山で戦闘訓練兼鉱石集めをするぞ。あの鉱石があれば、強力な手札を手に入れられる」


 俺はニヤリと笑うと、そう言った。


「頼むからあのおぞましいやつは止めてくれよ。あいつらを治療しようとした治癒師が、治せないことに困惑していたぞ」


 ケインは頭を掻きながらそう言った。


「いや、そういう系じゃないから安心してくれ。単純に強いやつだから」


「なあ、どんなやつなんだ? 教えてくれよ」


「そうだな。それはな――」





「じゃ、行ってくる」


 ケインはそう言うと、スラム街へ向かった。


「俺たちは夕食を食べに行こうか」


「食べるー!」


 ノアはベッドから起き上がると、目を輝かせながらそう言った。


「やっぱり、ノアはノアだな」


 俺はそんなノアを見て、笑みを浮かべると、宿の外に出た。


「メグジスの人気飲食店はさっきケインに教えてもらったんだ」


「そうなんだ~ 楽しみ」


 ノアは嬉しそうに笑うと、俺の手を握った。


「行こうか」


 俺はニコッと笑うと、教えられた道を通って、飲食店へ向かった。




「ここか……」


 到着したのはドラゴンの焼肉亭という店だった。何と言うか……ノアに喧嘩を売っているような店だな……


(あいつ……店名を教えなかったのはこれが原因か……)


 この店の店名は何としてもノアには隠した方が良いだろう。

 隠すのであれば、この店には入らない方が良いのだが、店の扉を開けてしまったので、流石にここで帰ることは出来ないと思った俺は、店名がノアに見えないように隠しながら、中に入った。

 そして、そのまま二人席に座った。


(……店名通りにドラゴンの焼肉があるわけじゃないんだな……)


 まあ、そもそもドラゴンが討伐されることが、下級種含めても数年に一度しかないので、むしろある方がおかしい。


「ん~……俺はオーク肉の生姜焼きとご飯、ポテトサラダにしようかな」


「え~と……私はミノタウロスのステーキと、ご飯にする」


 俺達は店員を呼ぶと、それぞれ注文した。




「こちらがオーク肉の生姜焼き、ご飯、ポテトサラダになります」


「こちらがミノタウロスのステーキとご飯になります」


 十分後、ようやく食事が俺たちの元に届いた。

 俺は木箸を手に取ると、オーク肉の生姜焼きをご飯と一緒に口に入れた。


「うん。偶にはこういう味も悪くないな」


 俺は生姜焼きの味を堪能しながら、ノアの方を見た。


 ノアは、貴族に引けを取らない手さばきで、ミノタウロスのステーキを、フォークとナイフで切ると、ご飯と一緒に口に入れた。


「ぱくっ もぐもぐ……うん。美味しい~」


 ノアはご満悦な表情で、そう言った。





「はぁ~美味しかった……」


「うん。満足した」


 俺とノアは夜道を歩いて宿に帰っているところだ。この街も、ゲルディンと同じように、夜になっても明るくにぎやかだ。早寝を心掛けている人からしてみれば、いい迷惑だが、夜道も安心して歩けるのはいいことだろう。


「じゃ、宿に戻るか」


「はーい」


 俺達は手を繋ぐと、宿へ向かって歩き出した。

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