第36話 暗躍 × 『ama ama』

アントニオは正直に言うと楽しかった。


こんなタイミングはあるものか? と最初は否定をしたのだが、彼にとっては最高のタイミングだった。


アントニオは人生に『飽き』が来ていた。


様々な業種に手を出したのも、自らが飽き性であることを知っていたからだった。


eightersの動画は元々見ていたし、彼の『飽き』を満たすことができていたので好きだった。


そこに繋がりができた。


『これで飽きの来ない人生を送れる!』


そう思いながら、飲む赤ワインは最高だった。



……



1ヶ月後、アントニオの所に成果物が上がってきた。


『日本人? なぜeightersはこんな一般人を探したかったのだろう?』


『依頼内容の詮索はしないこと』

ワンと決めたルールだ。


彼は今まで感じたことのない高揚感を感じていた。


『この秘密を知るのは、全世界で今は私1人なのだ。これはやめられないな』


『こんな高揚感を得られるなら、どんなことでもしよう!』


『まだまだ人生を謳歌できるな』


アントニオは、こどもの様に喜んだ。


eightersの所に『e-to』の情報が送られて来た。

クリスティーヌとアンナがリン目掛けて、猛突進してくるっ!


クリスティーヌとアンナの予想通り『e-to』は日本人だった。


本名は『HIDETO KURI (英人 久里) 』


「そういうことか」

リンは理解できたので笑った。


オイトがクリスティーヌとアンナに日本語を説明している。


クリスティーヌはスペルは異なるが、同じ発音が入っていることを喜んでいる。


アンナはそれを見て、羨ましそうにしている。


サラとセレナは肩の荷が降りた気がして、ため息をこぼした。



……



実は、少し前のことだがサラとセレナは次第に居心地が悪くなっていた。


eightersのみんなをFamilia家族だと思ってるし、もうクリスティーヌとアンナだってAmigo親友だ。


でも、サラとセレナはリンとエミリオのことが大好きだ。


「もっと情熱的に愛情表現をしたいっ!」


サラがセレナに向かって、叫びにも近い声で気持ちを爆発させた。


eightersだけだった時には、リンがコルクソファに座っていたら、その上に乗っかりに行って、ハグキスしながら、ピンチョスとお酒をみんなで楽しんだりした。


でも、クリスティーヌとアンナが来てからというもの、『ama ama』(サラとセレナの中ではイチャイチャという表現らしい)ができない。


いや、実際はしてもいいのだが、サラもセレナも彼女たちの気持ちが痛いほどわかるため、2人がいるときは気が引けるのだ。


だから、サラとセレナは自分たちが自分らしく生活するためにも『e-to』が必要だった。


実は、その他のeightersメンバーも『e-to』が必要だと思っていた。


もちろん、彼らは日本に住んでいたので、日本人が大好きだ。eightersは混血8人で仕方ないが、純血の日本人が近くにいてくれると心が落ち着く。

そんな感覚で『e-to』が必要だと思っていた。


オイトとチルは、クリスティーヌとアンナに日本語を教えているが日本語独特の言い回しだったり、言葉のレパートリーが少ないためもどかしさを覚えていた。


タラータは、議論チャットの時間はみんなで集まるため、時間が足りなくなってきていた。


基本は、タラータが小道具や動画撮影に必要な材料を購入する。タラータも材料にはこだわりがあった。

『なるべく怪我しないもの』

だったり、

『動画で見た目がいいもの』

だったり。


だから、『e-to』が必要だった。


こうして、


リンとエミリオは、『世界を変えるため』


他の6人は、『友達として心を落ち着けるため』


クリスティーヌとアンナは、『愛するため』


サラとセレナは、『自分たちらしく生きるため』


そのために、『e-to』を求めた。


オイトが席を立つ。

「ちょっとトイレに行ってくるよ」


そのままトイレを通過し、自分の部屋に入り、携帯電話をおもむろに取り出す。


「もしもし、海斗だけど。大山 海斗」


「お~、海斗!久しぶりだね」


「ちょっとお願いを聞いて欲しいんだけど」


「僕にできることなら、いいよ」


「~~~」


「わかった。週末にやって送るね」


「助かるよ」


何やらオイトが暗躍するのであった。

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