お疲れさま会
トーナメントが終わった後、一行は竜の昼寝亭にいた。
「全部良い試合だったぜテメーら!! あれだけ見てたらお前らが優勝だって誰でもわかることよ、今夜は優勝祝いのつもりで奢ってやるからたくさん食ってけ!! がっはっは!」
顔の怖い宿のおやじも今夜ばかりは仏顔でそう言い、店の評判料理を次々と提供してくれた。分厚い霜降りステーキやコショウの効いた鳥もも串焼き、新鮮チーズたっぷりシチュー、色とりどりのサラダには何種類ものソースとドレッシングがついている。
今夜は
今日一日の戦いを互いに労って、美味い料理と酒に舌鼓を打つ。
最高の夜だ。
「賞金さえ貰えれば………」
ぽつり、呟いたグロリアの声に、全員の食事や酒を進める手が止まる。
「まっ、まあまあ、店のおやじさんもだし、皆ボクたちの優勝は間違いないって太鼓判推してくれてるんだし……!」
「でも賞金は出ませんよね……」
「……試合の妨害さえなきゃあなぁ」
エールを傾けながらニコラが悄然と呟く。
祝いの宴のはずだが、どこかしんみりしてしまっている。主にグロリアのせいだが。
試合中に突然モンスターが召喚された件は、ギルドは何者かによる大会への妨害、嫌がらせだと判断した。犯人どころか手がかりもまだ見つかっていないらしい。
「もしかして……犯人を捕まえれば賞金が出るなんてことはありませんか?」
「だからグロリアさん眼が怖いよ……っ!」
「せめて試合をもう一度できりゃあな……ただもうすぐ王都の祭りの中でシルバー級のトーナメントをやるっていうし、ギルドのスケジュール的にも厳しいだろうな」
グロリアは嘆息した。
その様子を見かねて、ルカが料理を勧め出す。
「ほ、ほらっ、グロリアさんもお店の料理食べようよ! フィリアナさんもすっごく食べてるし……!」
グロリアの横で、フィリアナは数々の料理に舌鼓を打っている。
普段食べることのないワイルド系の料理を堪能できて、フィリアナは嬉しそうだ。
その笑顔に癒されたのもあって、グロリアも料理を食べ始める。
「今日は皆さんとお会いできて本当によかったですわっ、グロリアがお世話になってる方たちですもの、ちゃんとお礼も言いたかったですし!」
「いやぁ~、ボクたちグロリアさんにはむしろお世話になりっぱなしで」
「はは、こっちから礼を言いに行くべきだったのかもな」
「そう、グロリアさんはいつもすごくって、私たちの目標なの……!」
突然フィリアナは顔を赤くし、もじもじし始めて、皆の視線を買う。
「グロリアが皆さんに褒められているのを見ると、なんだか私まで照れてしまいますわ……!」
笑い声。
そんなやりとりをフィリアナと
借金のこともあってあまり仕える家については彼らに打ち明けてこなかったが、それはグロリアの方から無意識で一線を引いてたのもあるかもしれない。
仲を縮めるということがどういうことか、グロリアにはよくわからなかったのだ。
それについては、フィリアナやニーナたちが実践して教えてくれた。
(仲良きことは……ですね)
「うみゃいっ、うみゃいっ!」
グロリアの足元で、餌のボウルに頭を突っ込んでいるザカリアスも上機嫌そうだ。
『今日は動物も解禁するぜぇー!!』と店のおやじが許可を出してくれたのだ。
普段食べられない豪華な肉や魚の食事にザカリアスも舌鼓を打っている。
だが、たまにルカがザカリアスの方を気にする素振りをしているような気がした。ルカにそのことを訊ねても、あまり歯切れのいい回答が返ってくることはなかった。
「よう、
そのときかかった不敵な声。
歓談を止めてニーナたちが振り返ると、そこにはヒューゴたち
「優勝、逃して残念だったな。さぞがっかりしてるだろうと思ったぜ」
「ヒャハハ! ご愁傷様だったなぁ!」
「なんだよ! また絡みに来たのか!」
その場にいるだけで威圧的なヒューゴがふんぞり返ってると、ニーナが席を立って向かっていく。
「あの時点でどう考えてもボクらの勝ちだってわかるだろ! ルカのあの魔法、忘れたとは言わせないからなっ」
「そういきり立つなよ。俺らは一言、お前らに言いに来ただけだ」
またもや一触即発。
誰もがそんな空気を感じ取ったとき。
ヒューゴは腕を組み、ニーナを見下ろしながら――。
「今度は――
ニカッと白い歯を見せて、笑みを浮かべた。
ニーナは一瞬、考え込んだ。だが、すぐに意味を理解して、同じく笑い出す。
「くっ、ふふ、あははは……!」
「だーっはっはっはっは!」
反り返りそうなほど笑い合うふたり。
戦いを通じて、お互いの強さと信念を理解した者たちは、その後上機嫌で、テーブルを繋げ合ってさらに宴会の段取りをし始めた。
「というわけで、優勝を逃した残念パーティーに酒でも奢らせろよ!」
「いいぞー飲み比べだぁー!!」
「ヒャ――ハッハッハ! 楽しいぜぇ~!!」
ますます賑やかになる宴会。
酒の杯がぶつかる音に、むさくるしい笑い声が響き合う。
「いやー、俺も成人したついでにブロンズ昇格する気マンマンだったが、おたくらに阻まれちまったぜ」
「成人……?」
「おう」
「えええええーーー年下ぁ!!??」
「成人ってことは、私と同い年………………」
「ちなみにカミロもタメだぜ」
「随分と年季を重ねた見た目をしてらっしゃいますね………」
「ヒャハハ! よく言われるぜぇ~!」
(姉ちゃん呼びなのは揶揄とかじゃなくて本気でそう言ってただけなんだな……)
意外すぎる事実発覚。
呆然とするニーナたちに、悪党のような大笑いをするヒューゴたち。
「でも、若いうちから活躍してたんだね」
「ああ、俺たちゃ帝国の冒険者ギルド本部が昔やってた『冒険者育成計画』の参加者なんだよ」
「冒険者育成計画?」
聞いたことのない単語が飛び出す。
ヒューゴはエールを片手に、顎を撫で回しながら語った。
「貧乏だとか孤児だとかで、早ぇうちから労働が必要なガキを集めて教育して、優秀な冒険者にしようって計画が昔あったんだよ。俺とカミロはそこの出身でな」
「そんなことがあったんだ! 全然知らなかったや」
「俺たちゃ早いうちから頭角を現したが……、他は厳しい訓練に脱落して、却って犯罪に走る奴も増えたから、数年前に廃止になったんだけどな」
「ギルドも色々やってたんだな………」
「色々やってると言えば、トーナメントもそうだよな。興行化してショービジネスにしちまうんだからよ。ゴールドランクのトーナメントなんて帝国のホンモノの闘技場だから迫力段違いだぜ」
「そうそう、次のトーナメントといえば、王都の百年祭! まだ先だけど楽しみだよねっ、お店もたくさん出るだろうし、トーナメントではブロンズ以上の達人たちが世界中からやってきたりして……!」
ニーナがわくわくした口調で言う。
王国の百年祭。
建国から百年経ったアウロラ王国を寿ぐ、大規模な祭りだ。
祭りの話題になると、皆のテンションもいっそう高くなる。
そこにカミロがもったいつけた素振りで口を挟んできた。
「俺様の掴んだ重大ニュースを発表するぜっ! ギルドで耳を挿んだんだが、百年祭にはなんとあの勇者ロバートが来るってもっぱらの噂だ!」
「ええええーーーっ!!?」
その場にいる全員から洩れなく驚きの声が上がった。
「王城の式典に呼ばれたらしいぜ! ロバートが魔王を倒したときと、建国時期が重なるからなぁ。きっと盛大なものになるだろうな!」
「すっげー! それって生で勇者ロバートを見られるかもってことだよね!」
「わくわくしちゃうね……!」
盛り上がるニーナたちをよそに、グロリアの足元からザカリアスが顔を出す。
(お、おい、ロバートってまだ生きてるのかニャ……!?)
グロリアは少し視線を逸らしながら、
(そう、らしいですよ)
(さすがに生きすぎだニャ!!)
(人間の中ではかなり長寿の部類ですが、ロバートも今は大陸有数のお金持ちですし、高い医療技術のある環境に身を置いてるんでしょう。そんなに不思議でもないですよ)
(はわわ……!)
ザカリアスは人間の生命力に恐れをなしている。
グロリアは、何も驚かない。
「つっても、ロバートもギルドの運営からはもう手引いてるっていうし、式典に出るのはギルド運営を任されたロバートの曾孫って噂もあるぜ。さすがに120歳越えた老人だしな」
「うーん、それでも会ってみたいよねえー」
「ニーナ、お前『戦ってみたい』とか言うんじゃねぇぞ。それはもう老人虐待だ」
「いっ、言わないよ! さすがに!」
「でも勇者もヨボヨボのジジイになるのかと思うと少し萎えるよな~。国移動するだけでキツイんじゃねえの」
「うん、ゆっくり休んでてほしいよね……」
「最近流行りの英雄譚でもろくに聞かねえからなあ、勇者ロバート。昔の栄光より、今現役の伝説ってか」
「あっ、やっぱり最近流行りといったら『天に昇る船のリアナ』とか『ヴァーミリオンの魔女』とか、『ライジング・バイブル』とかだよね!」
盛り上がる一行。
そのときグロリアは、この話題にも関わらずフィリアナが静かだと気付いた。
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