【商人の子は算盤の音で目を覚ます】

「やっと終わった...早く帰ろう...」


 終礼が終わり、クラスの過半数が教室を出るまで机の上で何かをしている様な仕草をして過ごす。


 出来るだけ人と関わらないために。


 さっさと帰ってくれないかなー...


 みんな学校に用事なんてないだろ、学校出てから話せよ。


 時計の音と耳に優しい心音をしばらく聞いていると、クラスの中でもおとなしめな人しか居なくなった。


 帰るか...


 今日は一人で帰ることになったな。


 鈴彦さんは急ぎ足で教室から出て行ってたし、亀姫さんは先生に呼ばれてどっか行ったし。


 意外なほど軽いリュックを背負い、教室から出る。


 下駄箱まで、誰にも会わないように祈りながら、気持ち早めに廊下を歩く。


 二人組が来たら避けにくい階段を降りて一階へ。


 そんな階段にスペースを分け与えるべきなほど広い下駄箱につき、自分のを開ける。


 紙が入っていた。


 ...は?なんだこれ。


 手に取ってみるとそれは漫画でよく描かれるようなラブレターみたいな封筒だった。


 ラブレターとか言ったが、セロハンテープで止めてるあたり、愛情はゼロだろう。ただのレターだ。


 開けてみるか...


 中には、鈴彦さんからの手紙が入っていた。


 中身を要約すると、“今日遊ぼう”ということだ、亀姫さんも誘ってるらしい。


 私には亀姫さんの下駄箱を開ける勇気や度胸がないため確認はしなかったが、下駄箱に入れてるそうだ。


 場所は、一番近いショッピングモール。


「マジかぁ...」


 思わず声が漏れる、漏らしてしまった。


「へー、面白そうじゃん」


「ゲ、ゲンガー、そうだね...」


「行きたくなさそうだねぇ」


「だって疲れたし...」


「じゃあ私が行くー」


「ダメ!」


 お前絶対変なことするだろ。


「だったらお出かけしなよー」


 くうううううううめんどくせえええええ


 私の一日の最大活動量が限界を迎えてるんだよ!学校はメンタルも体力もSAN値も削れるの!


 でも行かなかったら絶対勝手にコイツが行くしなぁ...


「わかったよ...行く...うん」


「私も“ついてく、ついてく......。”」


「はいはい...」


 手紙を右ポケットに突っ込み、靴を履き替える、予定の時間までまだまだあるし、急がなくてもいいよね。


「...早く帰ろうよー!暴れるぞー!」


 ドッペルゲンガーがそう言って急かす。


 ため息混じりに息を吸い、歩き始める。


・-・・ -・・・- -・-・・ 


 下駄箱まで降りて来た。


 もう学校に残る理由なんてないし、街を徘徊していようかなー...なーんて。


 靴を取り出すために手をかけ開ける。


 そして。


 紙が落ちた。


 ん?なにこれ、お手紙?


 このお手紙、授業のあまりプリントで作ってある...


 授業中ゴソゴソしてたし、鈴彦さんかな?


 封を切るとやっぱり鈴彦さんの書いた文字があった。


 遊びのお誘いか...


・-・・・ -・-・- ・-・・ ・ ・・ 


 家が目前まで迫った頃、ふと思う。


 そういや鈴彦さんはどうしてラブレターなんかで誘ったんだろう、直接言えばよかったのに。


「ねーねーゲンガー、なんで鈴彦さんは手紙を書いたんだろう?」


「......うーん、わかんなーい」


「だよねー...」


 あー...夏の日差しはあまりにも熱い。


 髪の毛が熱くなっているのを感じる。


 やはり蝉の声は嫌いだ、太陽に焼かれてる時の効果音みたいで、ロウソクみたいに溶けている気分になる。


 帰ったら水筒の中身の様に生暖かくなっている部屋のクーラーをつけよう。


 きっと身体を癒してくれるはずだ。


 あとアイスも食べたいな...


 外出たくないよー...


 やっぱりゲンガーに行かせるのも良いかもしれない。

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