第6話 もふもふ活躍

 山場を超えて一息をついた万吉はじっくりと獣人たちを観察する。

 ゴールデンレトリバーに似た顔つきで普通の犬よりは人間、小学生くらいの体つきににている気がする。開腹した感想は犬の腹腔内そのものだったが、もしかしたら骨盤や肩周囲の構造は異なる可能性がある。全身毛だらけで、皮膚は可動性が高く、これも人間の皮膚よりも犬の皮膚に近い。治療として皮下点滴なんかは使えそうで良かったと安心する。

 バイタルも安定して眠っているので、もう一人の方のもう少し見ておきたい検査も行うことにする。気絶しているようなのでそのまま優しく抱きかかえ全体的にレントゲンで確認をする。幸いなことに骨には異常は認めなかった。

 重体だった子はのちの検査で肋骨に整復を必要としないレベルのヒビを認めた。



「骨盤はたった感じだけど、基本的な構造は犬だね……とにかく、二人が目覚めるのを待つしか無いね」


「この神域、そして神威を帯びた治療を受けていれば直ぐに目を覚ますニャ」


 もふもふは器用に手術器具を洗浄し、乾燥機に並べている。

 万吉も手術室や処置室の片付けを行いながら二人の回復を待った。

 もふもふの言う通り、軽症だった子は間もなく意識を取り戻した。


「ここは……」


「安心するニャ、驚異は去ったニャ」


「だ、誰だ!?」


「我が名はもふもふ、そして何者かは、わかりやすくしてやるニャ」


 もふもふの全身がまばゆく光り、存在のプレッシャーが増す。


「か、神様……!?」


「の、遣いニャ。理解したかニャ? だから、この男にも敵対しないようにするニャ」


「目が覚めた? どこか痛むとか目眩とかない?」


「に、人間っ!!」


 獣人は身構え万吉に襲いかかろうとする。


「止めるニャ!」


 バンッと波動のようなものが獣人に当たる。


「こやつは人間だが獣神様の御遣いニャ。次は許さないニャ」


「に、人間が……神様の遣い……?」


「お主の身体、傷を癒やしたのはこやつニャ」


「もふもふ、もしかしてこの世界、人間は嫌われているの?」


「そうみたいニャ、だからこそ万吉は人間として獣人を癒やすことに意味があるニャ。そうじゃなきゃ儂みたな存在を送り込めば終わりだったニャ」


「確かに、師匠の腕前のもふもふがいれば、もう、俺なんて……」


「馬鹿万吉、お前もちゃんと役に立つニャ。そのマイナス思考を止めるニャ」


「ごめん……」


「あー、と、いうわけで、この万吉はお主たちの敵では無いニャ。

 色々と思うことはあるニャろうがまぁ、じっくりと監視するといいにゃ」


「!? キッカは!?」


「ああ、もう一人の子はあっちに……」


 飛び出そうとする子を万吉がすばやく抑える。


「な、何するんだ!?」


「ちょっと待って、点滴を止めるからさ。体調は大丈夫? 痛みとかはない?」


「……痛くねーよ。……その、世話になったな」


「これでよし、食事とか取れるなら外すからちょっとだけ我慢してね」


「ああ……」


「それと、お友達? は寝てるからあんまり騒がないでね。

 ああ、それとかなりの怪我だったから傷を見て驚かないでね」


「わかったよ」


 静かにベッドを降りてペタペタと集中治療室へ歩いて行く。

 その可愛らしさに万吉は笑顔になった。

 そもそも患者と話せることにも少しニヤニヤしていた。


「主治医としてきちんと説明してくるニャ」


「わかってるよ」


 少しして万吉たちも部屋に入る。


「大丈夫なんだよな?」


「お腹の中で傷ができていて危なかったけど、ちゃんと治療した。

 今はゆっくり休んで回復していると思うよ」


「よかった……こんなとこで、アイツに遭うなんて思わなかったから……

 なんとかキッカだけでも逃したかったのに、俺をかばって……」


「キッカちゃんっていうのか……君は?」


「カイ、ゴルレ族のカイ」


「カイくんね。俺は万吉、市川万吉だ」


「万吉、ありがとう俺たちを助けてくれて」


「ぎりぎりだったよ、もふもふが見つけてくれなかったら危なかった」


「もふもふ様もありがとうございます」


 カイはもふもふに向き直ると膝をついて礼を尽くす。


「よいよい、獣神様のお導きニャ」


「ずいぶんと扱いに差が……」


「感謝はするけど、人間は……敵だ」


「仕方ない、そういう世界なんだな」


「万吉は、違う世界から来たのか?」


「ああ、別の世界では死んじゃったんだけど、獣神様に拾われてね。

 君たち獣人とかを助ける? ことが使命なんだよ」


「本当に、御遣い様なのか……神様はなんだって人間なんかを……」


「もしよかったら、この世界のことを教えてくれないかな。

 正直右も左もわからないんだ」


「……わかった。ただ、キッカが動けるようになったら早く村に戻らないと……」


「普通の見立てなら3・4日だと思うけど」


「ここは神域、それに投薬には神威を帯びているニャ、明日にはピンピンしてるニャ」


「それは凄いな」


「もちろん、適切な処置をした場合に限るニャ、万吉先生の腕にかかってるニャ」


「もふもふだって診断できるでしょ「出来ないニャ。儂の神威はあくまでも万吉の助手に限るニャ」


「……そうなんだ、肝に銘じておく。ちょっと甘ったれてた」


 万吉は自分の頬をベチンと叩く。


「ここは万吉の城ニャ。深々と肝に銘じておくニャ」


 それから場所をリビングへと移動する。

 その豪華さにカイは目を丸くする。


「王様の城よりも豪華だ……」


「もふもふ、カイ達の食事は……?」


 人間や神獣となったもふもふと違い動物には与えてはいけない食事がある。

 犬の場合は有名なのはネギ類、チョコレート、アボカド、ぶどう(レーズンのほうが危険)などがあり、注意が必要なためにも万吉はふもふに確認をする。


「あやつらは犬系の動物に準拠するニャ。ドッグフードがベストニャ」


 万吉はお皿にドッグフードを入れてテーブルに並べる。


「な、何だそれは?」 ぐーーーーーぎゅるるるるるるる


 漂う香りを嗅いだカイのお腹が激しく音を立てる。


「多分君たちにはこれがいいはずらしいんだけど、食べる?


「いいのか?」


「どうぞどうぞ」


「ど、毒とか入ってないよな……!!!!!!????」


 一口ドライフードを口に含むと、一心不乱に一気に平らげた。


「……こ、こんな美味いもの、食べたことがない!!」


「お、落ち着いて食べなさい。あと水あげるけどガバガバ飲んじゃだめだし、激しい運動もだめだからね」


 両手で器用にコップを持って水を飲む。


「う、うまい!! こ、これ本当に水なのか?」


「落ち着け落ち着け、胃捻転でも起こされたら困る」


 ゴールデンレトリバーなどの大型犬が食後や飲水後に激しく動くことによって、胃の内容物が激しく動き、振り子のようにぐるんと一回転してしまい、胃捻転を起こすことがある。非常に危険で、すぐに整復をしないと命に関わる。

 立位ではどう動くのかの予想がつきにくいので、興奮するカイを万吉は必死になだめるのであった。



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