第10話公爵夫人1

 愚兄の秘書からの有り得ない報告書で届きました。愚者の愚かすぎる行為に頭痛がします。

 元婚約者にプロポーズ?

 有り得ないでしょう!

 しかも既婚者のままで……。離婚するつもりなの?そんな兆候なかったでしょう!?

 ダイアナお姉様の呆れ果てている姿が目に浮かぶわ。

 いいえ、お姉様だけではない。子爵家にも同じでしょう。


 それとも、私が気付かなかっただけで愚兄はずっと後悔していたの?

 だから元サヤを狙っているの?

 本当にバカなお兄様だわ。


 せめて……男爵令嬢の存在がもっと早く分かっていたら……。

 兄の恋人。

 学園という一種の治外法権で行われた情事。





 12年前――





「フール男爵家では貴族教育をしていないのか? 貴族令嬢に貞淑さを求められるのは当たり前の事だろうに」


「それをいうならヘンリーもですわ……。一体今までの教育は何だったというのかしら?閨房技術を学ぶ以外に関係を結ぶなど。結婚前に異性と関係を持つのは恥ずべき行為だといいますのに……」


「ヘンリーの話では合意というが……」


「そういう雰囲気になってしまった、というヘンリーの世迷言を信じていらっしゃるの?」


「まさか。体内検査をして調べているが何も出てこん。媚薬を使ったとしても恐らく初期の段階だけだろう。聞けば3年前から関係を持っていたというではないか。せめて3年前に申告してくれていれば証拠が出てきたのだろうがな」


「気付くのが遅れてしまったせいですわね。せめて影を付けておくべきでしたわ」


「いや、それはムリだ。学園でそれをすればスパイ行為とみなされて、最悪、王家に反旗ありと捉えられかねん。そなたも知っているだろう」


「ええ。まさか乳兄弟であるロビンまでもがヘンリーの肩を持っていたなんて……見込み違いでしたわね」


「全くだ」



 父も母も愚兄のやらかしに頭を抱えています。ムリもないこと。婚前交渉を行って相手の女性を胎ましたのだから。しかも愚兄にはダイアナ・シャールトンという素晴らしい婚約者がいる身ですよ?信じられません!フール男爵令嬢もよく婚約者持ちの兄を恋人として選んだものだわ。身分違いもいいところでしょう!

 しかも今回の件を隠す素振りが全くありません。

 お父様ではありませんが本当に貴族令嬢でしょうか?

 自分自身で「尻の軽い傷物」だと風潮しているようなもの……頭がおかしいのでは?


 まさかダイアナお姉様に取って代わろうとでも?


 血統主義の我が国でそれはムリだわ。

 勿論、例外はあるけれどダイアナお姉様に取って代わる価値がフール男爵令嬢にあるとは到底思えない。


 我が国の貴族は男女関係に非情に厳しい。もっとも「未婚の」と枕言葉がつきますけどね。そう、未婚の貴族については「貞淑であれ」と法律で定められているのです。令嬢は結婚まで清らかであること、子息は閨教育以外の女性と関係を持たないこと、といったもの。これだけ聞けば「男には清らかさを求めないのか」と文句をいう女性もいるかもしれません。私だって文句を言いたい派ですもの。ただ男性の場合はであるかを調べる過程も含まれているますから、人によっては屈辱に感じる方もいらっしゃいます。




「なにはともあれ、明日になればハッキリすることだ。本当にフール男爵令嬢が懐妊しているのか、そして子供の父親が誰であるのかも含めてな」


「ブライアンが父親の確率は何パーセントですの?」


「さあな。フール男爵令嬢は人気があるようだから分からんな」



 不穏な言葉の連発……どうやらお腹の子の父親はお兄様でない可能性が大いにありそうですね。



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