第4話 だから、してないって!

〇 和室――夜12時。

 桃子のスマホに謎のメッセージが入り続ける。何者かの気配に怯えつつも、なずなを守ろうと立ち上がるが、桃子の目の前になんだか妖しいものが……。一方、なずなは異変に気付かずにすうすう寝ている。


 ……。


 だれ……(*怯える声で)。


 一体、なんなの……。

 ……。


 え?


 何って……。

 ほら、いるじゃない、窓の近くに。


 見えない……?


 うそ……。

 ほら、あそこよ。月明かりに照らされて、ぼんやりしたやつが……。


 ほんとに見えないの?

 もやっとしたやつよ……。

 いやいや、タバコの消し忘れじゃないわよ。

 ――てゆうか、わたしもあなたもタバコなんて吸わないでしょ。


 ね?


 あなたまで混乱しちゃだめ。

 いるんだから、あそこに……。


 でも……。

 なんてゆうか……その……。

 なんとなくだけど、わたしたちには危害を加えなそうな気がするわ……。


 だって……。


 窓の付近にもやもやしてるだけで、わたしたちを驚かせたり、襲ってきそうな感じがしないもの。

 なんてゆうか、悲しげっていうか……。


(音)ひゅうううううう――冷たい風のようなものが吹く。


 ひっ!

 ご、ごめん、おもわず悲鳴上げちゃった。

 な、なに。

 何て言ってるのよ。

 てゆうか、あなた喋れるの?


(音)ひゅうううううう――


 え?

 う……わ……き……?

 なに、それ。


 ん?

 いやいや、なんかこいつが言ってるのよ。

 ……。


 え?

 聞こえない?


 ……。

 ほんとに?

 さっきから、あの窓のもやもやが喋ってるわよ。

 あなたには聞こえないの?


 ん?

 そもそも、窓のもやもやが見えない?


 ほんとに?

 ……。

 ……ほんと?

 うーん。

 なんか、よくわからないけど不思議ね……。

 てゆうか――あなた、わたしをからかってないわよね?

 さっきの復讐……みたいな。

 しつこくしちゃったわたしも悪かったんだけど。 


 ……。


 でも、切っ掛けはあなただからね。

 さっき、わたしをびっくりさせたし。

 ほんとに寿命が縮まるかと思ったんだから。


 え?


 ……そりゃあ……してないよ。

 最近。


 別に……あなたのことが嫌いじゃないんだけど……。

 忙しいのよ、わたしも。

 なずなのお世話が大変なわけよ。

 あなたにもかまってあげたいんだけど、睡魔が勝っちゃうのよ。

 だから、そんなんで怒らないでよ。


 ね?

 旅行から帰ったらしようよ。

 ね?

 

(音)ひゅうううううう!――なぜか怒ったように強めに吹く。


 え?

 なに?


 いちゃいちゃ……?


 えっと……。

 めの……まえで……いちゃいちゃばかりする……な……?


 ……。


 目の前でイチャイチャばかりするな?


 いやいや。

 別に、イチャイチャしてないけど。

 ねえ、あなた?

 そう。

 なんか、こいつがわたしたちに文句つけてるわけよ。

 わたしたちがイチャイチャしててウザいんだって。

 うんうん……。

 だよね。


 してないって。


 だって、……ないからね。最近。


 ――って、こんなこと言わせないでよ。

 なんか恥ずかしいじゃない。

 それに、ウザいって思うなら、ここから消えなさいよ。大体、そっちから現れたくせに、そんなんで文句つけるのっておかしくない?

 こっちは呼んでませんけど。

 あなたを。


(音)ひゅうううううう――少し悲しい感じに弱弱しく吹く。

 

 ん?

 前から……すき……だった……?

 誰を?


(音)ひゅう――


 わたし?

 いや、ちょっと、よくわからないんだけど。

 前からって、何よ。

 わたしはあなたのこと知らないし。

 そもそも、恨まれるようなことした覚えもないわよ。


 ……。


 うん。

 やっぱりない。

 ないわよ。思い当たる節は。

 ちょっと、あんたのために考えっちゃったじゃない。


 はあ。


 ……。


 え?


 山田くん?


 あなた、山田くんって知ってたっけ?

 なんとなく?

 別に、山田くんとは何にもなかったわよ。

 ……。

 ほんとだって。


 だって、山田くんじゃなくて、わたしはどっちかって言えば、その……あなたのことが好き……だったし……。


 ……。


 てゆうか、今この状況でこんなこと言わせないでよ。

 めちゃ恥ずかしいじゃない。

 でも、プロポーズはあなたからだもんね。

 最後はわたしの勝ち。

 でしょ?


(音)ひゅうううううう――悲しい感じに弱弱しく吹く。


 ん?

 ああ。

 まだいたのね、あんた。

 ……。

 また、イチャイチャ……しやがって……。


 だ、か、ら。

 ないって。


 どう見たら、わたしたちがイチャイチャしているように見えるわけ?

 ただの言い合いじゃない。

 まあ、夫婦ならよくあるいざこざよ。


(音)ひゅうううううう!――怒ったように強めに吹く。


 だから、イチャイチャしてないって。

 それに、何度もって言ってるでしょ。

 最近。

 恥ずかしいんだから、何度も言わせないでよ。

 それで、旦那が機嫌悪くなってるんだから。


 ……。


 最初はびっくりしたけど、なんか、あんたお呼びじゃない気がしてきたわ。

 てゆうか、もういいかしら。

 眠たいのよ。

 結構、遊んだし。

 紫外線も強かったしね。

 そのまま静かに消えてくれら嬉しいかな……。


 ……。


 ……。


 消えないのね。

 てゆうか、一体、何が目的なわけ?


(音)ひゅうううううう――恨めしそうに強めに吹く。


 デート……。

 ふんふん。

 デートだけして欲しかった……?


(音)ひゅうううううう――


 せい……る……?

 とく……ばい……せい……。

 徳梅聖流とくばい せいるさん?

 その人から容赦なくフラれたあと、優しくしてくれて……初めて、心の底から好きになった人があなた……だから……?


 うーん。


 ごめん、よくわからないわ。

 てゆうか、どこかであなたと出会ったっけ?


(音)ひゅうううううう――


 スーパー?

 モリモリフーズ?

 ……。

 そこ、わたし、働いたことないけど。




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