第11話 瞬間移動




 ゆらゆらゆらゆらと。


 涼典は柚樹と一緒に黙って、枝にぶら下がる金魚の提灯を見つめていた。


 ゆらゆらゆらゆらと。

 心地よく動くのはどうしてか。


 金魚の提灯が喜んでいるからか。

 冷たい風が喜んでいるからか。

 巨大杉が喜んでいるからか。

 柚樹が喜んでいるからか。

 涼典が喜んでいるからか。

 この世界が喜んでいるからか。


 新たな世界を。

 新たな住物を。

 新たな友達を。


(ああ、でも一匹だけじゃ寂しかったかな。明日は黒の金魚の提灯を持って来よう。大きさは同じくらいで。またじいちゃんに一緒に作ってって頼まない)


「と?」


 涼典は蝶の羽ばたきのように瞬きを多くして、首を傾げた。


 おかしい。

 おかしいな。

 ここは祖父母の家の自分が寝泊まりしている部屋だった。

 だって、自分のリュックサックがあるし。

 畳んだ布団も部屋の隅っこにあるし。

 畳だし、襖だし、格子状の天井だし。

 夢。

 さっきまでの出来事は夢?

 それとも、瞬間移動。

 え、え?

 家に帰って作らなきゃって思ったから?

 え、え、えー?


「おー。涼典。帰った「じいちゃん!じいちゃん!僕!僕ね!瞬間移動ができたんだよ!だってね!さっきまで巨大杉の上にいたのに、急にここに戻って来た」「ああ。そりゃあ、秘密の扉の力だ」


 襖を開けて入って来た祖父の元まで向かっている時も立ち止まってからも、何度も何度も飛び跳ねていた涼典はピタリと止まった。


「え?」

「自由に行けるけど、いつの間にか帰されてんだ」

「え?」

「まあ、そーゆーアトラクション?だと思って。な。楽しめ」


 祖父は昼食ができたから居間に行こうなと言うと、涼典が寝泊まりしている部屋から出て行った。


「え~~~~~」


 涼典は祖父がもう一度呼びに来るまで、肩を落とし眉を下げて部屋にい続けたのであった。









(2022.7.28)


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