第4話 腐葉土





「杉の葉が枝の上に積もって、ながい、ながーい時間をかけて腐葉土になって、風とか鳥とかが運んだ植物を育てられるようになったんだ」


 どうしてこの枝はふかふかしているのか。

 新種の枝か、やっぱりここは異世界なのか。

 少年が少女に疑問を投げかけた返事だった。

 少年は目を爛々と輝かせて、優しく植物が生えていない腐葉土をなでた。


「すごいな。植物って。すごいな」

「すごいだろ」

「うん。じゃあ、このラベンダーも自然に育ったの?」

「違う。私が持って来た。巨大猪から守るためにな」

「食べちゃうの?」

「食べる時もあれば、踏み荒らす時もある」

「………怖いし、大切なものが食べられたり壊されたりするなら、この島から逃げればいいのに」

「まあ、美味いしな」

「食べちゃうんだ」

「ああ。美味いもんをたらふく食っているからな。美味いぞ」

「へえ」

「これも美味いぞ」


 少年は少女が指さす方へと顔を上げると、そこには真っ赤で小さくて丸い実がいっぱいなっていた。


「山桃だ。さっきおまえの額に当てたのは乾燥させた山桃の種だ」


 少女は一つ取って口の中に放り込んで食ってみろと言ったが、少年は激しく拒んだ。

 表面が苦手なウニのように、小さなぶつぶつがいっぱいあったからだ。


「美味いのに」

「いいよ」


 美味いのに。

 少女はもう一回言って、もう一つ二つと取って、一つずつ食べた。

 

 種は下に捨てていた。











(2022.7.13)


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