彼女が勇者に至るまで

色彩 絵筆

第0章 物語が始まる前

プロローグ

アークスは森を切り開いてできたちいさな村である。

それ以外に特徴らしいものがある場所ではない。

 背の高い木々が並び立ち、風が葉をくすぐる音が聞こえてくる。森に住む動物たちは、時折ふらっと顔をのぞかせては森の奥へと帰っていく。

 自然豊かと言えば聞こえはいいが特別に特徴らしいものもないこの場所が観光地になれるはずもなく常にゆったりとした時間が流れている。

 

 そんな村に少女は暮らしている。

ポツポツと並ぶ家々からは少し離れた小高い丘、手をのばしても届かないくらい空が高く、風は妨げられずに吹き抜けていく。丘には広大とまではいかないが畑が広げられている。そこに少女はいた。

 陽に照らされる髪は発色の良い赤色、世間一般的には珍しいとされる色だ。

 髪は桃色のリボンで一つ結びになっており彼女が動くたび、風と共に揺らされる。

 細い身体つきに反して手にしているのは鉄の刃を有した鍬。振り上げ一定の感覚で耕していく彼女の姿は手慣れており体の使い方は効率的だ。幼い頃からやっていることを容易に感じさせられる。

 彼女の名前はディアナ、世界に似つかわしくない少女である。

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