第18話 一番の親友

 わたしがリハビリをおえたころ、ぞろぞろとクラスメイトがやってくる。そして、わたしの一番の親友も、陸上部の朝練からもどってきた。


「おはよう、露花ろか!」

「おはよう、遊梨ゆうり!」


 磐井いわい遊梨ゆうりはこの学校に転校してきて最初にできた友達。というか、転校する前からの友達だ。彼女は陸上、しかも高跳びの選手。つまり、わたしのライバルだった。数少ない中学生の百六十センチジャンパーだ。

 遊梨ゆうりはめちゃくちゃ背が高い。クラスで、いや、学年の女子のなかで一番背が高い。身長は百七十センチをこえている。


「TikToK観た?」

「え? なにそれ知らない!」


 遊梨ゆうりは、わたしとよく似ている。負けず嫌いで、頑固で、わりと思ったことが顔に出る。でも、だからこそ気が楽だった。遊梨ゆうりはわたしに同情をしない。障害を同情してはくれない。


「リハビリの調子は?」

「うん、先週から負荷をひとつあげたんだけど、左手は、まだキツいな。右は、結構いい感じ」

「ふむ、ではお手並み拝見といきますか」


 そう言うと、遊梨ゆうりは、わたしの机に右腕のひじをつける。それに合わせて、わたしも右手をついて、遊梨ゆうりと手を組む。腕相撲だ。


「いつでもこい……」

「のこった!」


 わたしは、遊梨ゆうりのスキをついて思いっきり右手に力をこめた。遊梨ゆうりの手首が、ぐにゃんと曲がる。


「わ! ずっこい」


 でも、ダメだった。遊梨ゆうりは手首に力をこめて少しずつ体制を立て直すと、わたしの腕を、一気に机の上にたたきつけた。


「だめかー。うーん、そろそろ不意打ちのネタがなくなってきたんだよな」

「フッ。まだまだだね。ま、いい線いっていたけど。だいぶ筋力もどったんじゃない?」


 遊梨ゆうりは、わたしと真剣勝負をしてくれる。どんなことも真剣勝負をしてくれる。

 わたしは、それが最高に心地よかった。

 同情されても、わたしの身体はもう絶対にもとには戻らない。同情されても、足が動くようになるわけではない。でも、わたしがリハビリを努力すれば、腕の筋力はある程度の所までは戻る。


 最初は、お箸をにぎるのもやっとだったのに、今では腕相撲ができるくらいまでに回復した。だから、こうやって腕相撲で真剣勝負をしてくれる遊梨ゆうりは、本当にありがたい。わたしの、「腕相撲で、絶対に遊梨ゆうりに勝ってやるんだ!」って目標に、本気になって相手をしてくれる。


 本当にありがたい。


「左手の方はどう」

「まだまだ。ハンドグリップ十回が限界。二十回できるようになったら、指相撲で戦おう」

「いいね。ハンデはどれくらいがいい? わたしは目をつぶってやる?」

「それより、カウント数を減らしてほしい。一番知りたいのは、筋力の回復だから。どれくらいついたかを、遊梨ゆうりにチェックしてほしい」

「了解。いつでも相手になるから、リハビリがんばりな」

「うん。親指を洗ってまっていてよ!」


 遊梨ゆうりはずっとライバルだ。そして最高の親友だ。

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