第43話「取り戻した未来」

「……あれ?」


 目を覚ました時、見慣れた天井があった。身を起こそうとすると、「痛ッ!」と染みるような痛みと熱さが体中を走った。包帯が巻かれていて、状況がわからず、目をぱちぱちと開く。


 プラモだらけの部屋。


 ここは光一の家だ。


 ちゃぶ台の上にはラップをかけた、サラダや唐揚げなどの料理を盛られた皿が円を描くように置いてある。真ん中は空いていて、これから何かを置くみたいだった。


「起きたか、夢月むづき


 そう言って部屋に顔を出してきたのは——エプロン姿の光一だった。両手にはショートケーキのホールを持っていて、なんでもないことのように、ちゃぶ台の真ん中に置いた。


 状況が呑み込めず、ぱちぱちと目を開いた。


「……おじさん、わたしは?」

「ああ、無理に動くなよ。火傷してるからな。まぁ、スーツのおかげなのか、表面だけで大したことはない。少しは痕が残るかもしれないが……」

「いや、そうじゃなくて! わたし、確かにあの時死んだはずじゃ……」


 言いかけ、夢月ははっと目を見開く。


「まさか、おじさん……!」

「おっと、チャッカマンを忘れていたな」


 話題を避けるかのように、光一がキッチンに向かおうとする。「おじさん!」ともう一度強めに呼びかけると、光一は足を止めた。


「時を越えたの?」

「……まぁ、な」

「わたしを助けるために?」

「まぁ、な」

「……〈リライト〉はどうしたの?」

「なんとかしたよ。黒乃くろのが助けてくれたんだ」

「黒乃さんが……?」


 信じられない、という顔つきでいると——いつの間にかチャッカマンを手にした光一が、ちゃぶ台の前についた。ケーキにロウソクを刺し、火を点けようとしたところで——「ちょっと待って」と手で止める。


「おじさん、これ何?」

「何って……誕生ケーキだが?」

「誕生ケーキ? 誰の?」

「何を言ってる? 君のに決まっているだろうが」


 言われ、とっさに〈ウォッチ〉を確認しようとして——どこにも見当たらなかった。「ほれ」と光一が差し出してきたので、すぐさま起動する。ヨルワタリのホログラムが出現し、ぴぃぴぃと『夢月!』と嬉しそうな声を上げた。


『目が覚めたのね。良かったわ……!』

「あ、うん、ありがとう。……ところでヨルワタリ、今日っていつ?」

『二〇二五年六月六日よ。誕生日、おめでとう』


 夢月は唖然とし――そのまま光一に首を向けると、「そういうことだ」と不器用に、口の両端をつり上げた。


「十七歳の誕生日だ。……おめでとう、夢月」


 その言葉の意味を呑み込むまで時間がかかった。


 じわり、じわりと実感がわいてきて——涙が両目からこぼれた。そして、体の痛みにも構わず、布団から起き上がって、思いっきり光一に抱きついた。


 懐かしい匂いと温かさを、たっぷりと味わうように。


「おじさん、おじさん、おじさん……ッ!」

「まったく。よしよし」


 光一は夢月の頭を撫でた。


「本当に君は泣き虫だな」と、呆れつつも優しい声で言ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る