第34話「光一の日記(4)」

 二〇二五年六月一日


 夢月むづきが死んだ。


 あの子の代わりに、炎の中に飛び込んだ。


 楽しかった。夢月と一緒にヨルワタリに乗って、空を飛んで。無邪気にはしゃぐあの子の笑顔が、とても眩しかった。


 だが結局、何も変わらなかった。〈リライト〉の連中を叩き潰しても。


 あの時、選択を突きつけられて、頭が真っ白になった。どちらかを選ぶなんて、俺にできるわけがなかったんだ。


 けれどあの子は自ら選択した。自分の死を。現在の夢月と、そして俺を守るために。


 なんて強い子だろう。


 なんて悲しい子だろう。


 幾億の夜を、幾億の時を渡ってきて、あの子は少しでも幸せを見つけられただろうか。与えることができていただろうか。自信がない。


 最後の瞬間のあの笑顔が、目に焼きついて離れない。


 そんな顔をしないでくれ、と心の底から思った。呪っているわけでも恨んでいるわけでもない、ただただ俺に会えてよかったって——そんな顔。


 変えたい。過去を。変えたい。未来を。


 もう一度見たい。あの子の本当の笑顔を。すべてを委ね、心の底から安心しきった顔を。


 そのためならばなんだってしよう。


 そう、たとえ世界中を敵に回してでも——

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