第41話 特別任務の完遂(?)

 「えっ、そんなこと可能なの?」


 ようやく我に戻ったフィオナは、驚愕の表情を浮かべながら、俺に聞いてきた。


 「まぁ、ブレスレットの耐久が持つかどうかは怪しいけど、魔力調整を緻密にやっていけば、理論上可能だよ。この前の付与は、フィオナのことを考えて、かなり制限してたし。」

 「あはははは・・・。ユリウスって、本当に何者なの・・・。」


 現在、ルキフェール神聖国の国家首席魔法師ロイ・アダムズ卿が確か20万で世界最高らしい。フィオナには、彼を軽く超えてもらおう。そして・・・。


 「レティシアにもあげるからな。」

 「「えっ!?」」


 ・・・レティシアが驚くのは分かるが、なぜフィオナまで?


 「本当によろしいのですか?」

 「もちろん、これから一緒に『黒南風』を倒していく仲間だからな。それに、自分の身を守れるようになってほしいし。」


 俺の言葉を聞くと、レティシアは碧眼を輝かせながら、俺の手を握ってきた。


 「ありがとうございます、ユリウスさん。これからも、よろしくお願いしますね。」


 ・・・俺には、美少女の素晴らしい笑顔は、ちと眩しすぎるぜ。


 「レティシアも、付与するのはフィオナと同じ魔力量で構わないか?」

 「もちろん。ですが、それ以上でも構いませんよ?」


 レティシアはフィオナの方を軽く一瞥したが、どういうことだろう。なぜか、フィオナは俺を睨んでいるが。


 「了解。まぁ、ブレスレットの耐久性を見て、付与する魔力量を決めることにするよ。」

 「分かりました、期待していますね。」


 レティシアは、ニコッと可憐な笑みを見せ、再び俺の手をギュッと握った。だが、それと同時に、凍てつけるような、殺気の帯びた視線を感じた。新たな「黒南風」かと思ったが、その視線の正体は、般若のような厳つい顔で俺をギロッと凝視する、フォオナであった・・・。


 ・・・何でそんなにブチギレてるんですか、フィオナさん・・・。やだ、もう、早く帰りたい。


 「よ、よ~し、さっさと『ダンジョン』に巣食う閻魔種たちを倒すぞ~。」


 俺は身の危険を感じ、速攻で特別任務を終わらせようと、「ダンジョン」がある場所へと全速力で向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 俺たちは、パメラが吐いた「ダンジョン」の隠し場所に到着した。だが、そこには鬱然と生い茂る草木しか存在せず、「ダンジョン」と思しき迷宮への入口は見当たらない。

  

 「何もありませんね・・・。」

 「あの女、まさか嘘をついたの?」

 「いや、そんなことはないと思う。」

 

 拷問魔法で、―意図したわけではないが― 人格を破壊した上で情報を聞き出したのだ。その状態で、虚偽の内容を吐いたとは到底考えられない。それに、この感じは・・・。

 

 「では、どこに『ダンジョン』の入口があるのでしょうか?」

 「ちょっと待っててくれ。えーと、確か・・・」


 「『ラディウスビジュアライズ』!」


 俺は光属性の超級魔法「ラディウスビジュアライズ」を唱えた。この超級魔法は「可視化魔法」で、「不可視魔法」である「インビジブルザラーム」に、唯一対抗できる魔法と言われている。

 ただ、「インビジブルザラーム」の使用者よりも魔力量が多くなければ、可視化できないという条件はある。だが、俺にとっては、そんなの関係ない。俺の魔力量は、伝説の勇者を遥かに超えているのだ、可視化できないわけがない。


 「なるほど、不可視魔法がかかっていたのね・・・。」

 「そういうこと。」


 俺の可視化魔法で「インビジブルザラーム」は解かれ、眼前に地下へと通ずる巨大な岩石の階段が出現した。生前のゲームやアニメでよく見た、いわゆる「ダンジョン」への入口にそっくりである。


 「でも、よく分かりましたね、不可視魔法がかけられているって。」

 「まぁ、俺がよく使う魔法だからな。」


 ザハールも以前、俺の不可視魔法を見破っていた。「黒南風」が奇襲攻撃のときに、よく使用するということで分かったのだ。今回も、俺はザハールと同様に、自分が慣れ親しんだ魔法だからこそ、見抜けたと言える。だが、正直、それ以外にも不可視魔法が使われていると、確信を持てた理由があるのだ。


 「それに、魔力の波を感じたんだよ。澱みというか、変な感じだけどな。」

 「えっ、それって、魔法特有の波動を感知したってこと!?」

 「そ、そんなことが、ユリウスさんはできるんですね・・・。」


 フィオナとレティシアは、またも驚愕の表情を浮かべていたが、この2人にも、すぐに分かる時が来ると思う。なぜなら・・・。


 「おいおい、何言ってるんだ。魔力量が15万を超えていれば、魔力の波動は感知できるはずだろ?」


 ・・・「説明書」にそう書いてあったし。


 「えっ、初耳なんだけど・・・。」

 「私も聞いたことがないです・・・。」


 ・・・えっ、そうなの!?てっきり、この世界の常識かと・・・。


 「まぁ、2人とも。これが終わったら、その領域に達することになるんだから、すぐに俺の言っていることが分かるよ。」

 「私、何だか怖くなってきました・・・。」

 「私も・・・。人間でいられるのも、残りわずかって考えると、感慨深いわね・・・。」

 「そうですね・・・。」


 フィオナとレティシアは、現実逃避するように、しばらく遠くの景色を眺めていた。





 「というわけで、今から『ダンジョン』の閻魔種を駆逐するか。」

 「これが、最後の大仕事になるわね。」

 「私も微力ながら、援護します。」


 フィオナとレティシアは、やる気満々・気合十分といった感じで「ダンジョン」の中へと入ろうとしているが、どうして、そんな面倒くさいことをするのだろうか。一気に解決する方法があるのに。


 「あれ、どうしたのユリウス?」

 「『ダンジョン』へ入らないのですか?」

 「えっ、いや、何で2人とも、わざわざ『ダンジョン』に入ろうとしているの?」

 「「?」」


 フィオナとレティシアは、同時に首を傾げた。俺の言っている意味が分からないという感じだ。


 ・・・やれやれ、しょうがないな。


 「そんなことしなくても、こうすれば一瞬で全滅させられるでしょ。」


 俺は先程のパメラとの戦いと同様に、全身を巡る魔力に意識を集中させた。


 「ちょ、まさか、ユリウス・・・!?」

 「ユリウスさん、それはやめ・・・!?」


 フィオナとレティシアが何か言っているが、あとで詳しく聞こう。今は、この一撃に専念するべきだ。


 「『カアスアッルヴィオーネ』!」


 俺は「ダンジョン」の入口に、水属性の究極魔法「カアスアッルヴィオーネ」をぶち込んだ。「カアスアッルヴィオーネ」は、水属性のうち、最大の威力を有する魔法の1つと言われており、激甚な大洪水を引き起こすことができる。

 

 閻魔種を1体ずつ倒していくのは、非常に効率が悪く、時間がかかってしまうため、俺は「ダンジョン」ごと閻魔種を殲滅しようと考えたのだ。俺の初級魔法で瞬殺できる程度の魔獣である。魔力の質を高めた俺の究極魔法なら、例え水属性に耐性があったとしても、無事では済まないだろう。それに、ダンジョン自体が崩壊するのだ。「カアスアッルヴィオーネ」に耐えたところで、生き埋めになる未来しかない。

 

 我ながら、非の打ち所がない、完璧な行動だ。フィオナとレティシアもきっと、俺に羨望の眼差しを向けているに違いない。


 「どうだ、これで全て片付いただろ?」


 俺のドヤ顔に、2人は羨望の眼差し・・・ではなく、まさかの憐憫の眼差しを向けていた。


 「あれ、どしたの?」

 「ユリウス、あなたね・・・。」

 「ユリウスさん、私、知りませんよ・・・。」

 「えっ、何、怖いんですけど・・・。」


 フィオナとレティシアは、狼狽える俺の肩を優しくポンッと叩き、今まで見たことのない柔和な表情で言った。


 「ユリウス、師匠に殺されないでね。」

 「ユリウスさん、必ず生きて帰ってきてくださいね。」


 ・・・え、いや、ちょっと、めちゃくちゃ怖いんですけど!?俺、ナターシャに殺されるの!?


 周章狼狽する俺の眼前には、瓦礫の山と化した「ダンジョン」と、見るも無残な肉片になった数多の閻魔種の死骸が広がっていた・・・。

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