第16話 一等白星勲章

「国王陛下、王妃陛下、第一王子殿下のおなーりー!」

侍従長の声と共に入ってきたのは、真っ白な装いに身を包んだ国王、王妃、アルフレッド王子の三人だった。それまでざわめいていた人々が、水を打ったように静まり返った。静かになった広間に国王が手を広げ、新年の挨拶をする。

「皆、旧年中は各々の働きを見事に成してくれた。神の御力添えもあって、去年は魔物達の襲撃を無事に切り抜けることができた。此度の新年報奨会は主に、その時に働いてくれた者の労をねぎらう意味も多い。一人ずつ名を挙げ、我が手で勲章を授けるに足る者が多くいてくれたこと、嬉しく思う」

国王はそう言って立ち上がり、侍従長が用意した勲章をまず一つ、手に取った。

「まずは、この場にいない一人へ。『無貌の予言者』へ、この勲章を。彼の者はその《力》の特異性ゆえ、この場に列席しないことを許された。しかし、あの者の予知がなければ我々は魔物達に対して先手を取れなかった。だからこそ、《一等白星》勲章を授ける」

その勲章は誰の胸にも与えられる、侍従長が預かった。クリス・アシュクロフトの予知は国王と伯爵の間でのみやり取りされていて。その正体は秘匿されていた。クリスの身近な存在(家族と学内で縁のある者達……ライアンや義兄になる予定だったアルフレッド等)はそのことを知っているが、社交界のパーティー等ではクリス・アシュクロフトは父と同じ風霊使役の力を持っているとされている。ちなみにカラクリは単純なもので、父であるアシュクロフト伯爵が使役している風霊の一体を息子に与えて「息子の言うことを聞くように」と言い聞かせているだけだった。それでも正規の主ではないからと彼女の気まぐれで言うことを聞かないこともあるが、「まだ父のようにはいかなくて……」と言えば周囲は納得してくれる。

「では、出席者への勲章を授与する。《一等白星》勲章の該当者は前へ。―――アンジー・スライ嬢」

《一等白星》勲章は、この場で与えられる勲章の中で最上級のものだ。人々の目が一気にアンジーに刺さるが、彼女はその無遠慮な目線を跳ね除けるように完璧なウォーキングで歩き出した。

「平民の実の上で、彼女は強力な治癒の《力》を持っている。そしてその《力》を襲撃で傷ついた者達に使い、死者も後遺症で苦しむ者も発生させなかったという功績を出した。その栄誉には、平民ではあるが最上級の《一等白星》勲章こそが相応しいと我々で判断した。スライ嬢、こちらへ」

「はい」

上ずりそうな声を抑え、アンジーが壇上に上がる。壇上と言っても、王族の椅子がある位置よりは一段低いところだ。先例の勲章授与を生で見ることができなかったのは痛手だったが、事前に勲章授与の作法は打ち合わせ済。頭が真っ白になるようなことさえなければ、問題なく授与される。

「スライ嬢、その治癒の功績を讃えて勲章を授ける」

「感謝いたします、国王陛下」

国王の手が勲章を取り、カーテシーで一礼したその胸にドレスと同色で張られたリボンにピンを通す。布地を痛めたり、不必要に授与者に触れないための服の作りだった。彼女のドレスに、ダイヤモンドとプラチナで作られた美しい星型の勲章が留められる。

「……その重みはどうかね」

「とても重く感じますが、大変誇らしゅうございます」

もう一度頭を垂れて、アンジーは自分のいた位置に戻っていく。その姿に遠慮なく刺さる視線の主達を、アルフレッドは感情の見えない目で見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る