第4話 子どもたちはどこに?

「ああ、あの事件ですか?学校には連絡してますよ」

 対応してくれた警官は言った。若い男で30歳くらいだろうか。指には結婚指輪をしていた。ほんの一瞬それが目に入っただけだが、先生はちょっとがっかりした。

「え、知りませんけど」

「本当は言っちゃいけないんですけど、子供たちのことを心配してくれてるので言いますが、、、いなかったんですよ。あの家に」

「え!?じゃあ、子どもたちは?」

「実家に預けたって言ってました」

「で、本当なんですか?」

「さあ。でも、電話もないような僻地で、あっちの警察も確認に行けてないんです」

「私、行ってみます!一応、学校の教師てしては、責任があると思うので。教えてください。実家の住所を」

「私からは教えられないので校長先生に聞いてください」

 警官はそれ以上は言わなかった。


 倉崎先生は、翌月曜日に現在の担任に相談することにした。今の担任は40くらいの既婚者の男性で、倉崎先生とは相性が悪く、明らかにやる気がなかった。


「校長先生から聞きましたが、あそこにいない以上できることはありませんよ」と、その男性(常田先生)は言った。

「でも、もしかしたら、殺されてるかもしれませんよ」

 倉崎先生は食い下がる。

「まさか。でも、そういう話なら、警察の仕事でしょ?」

「いいえ。どこにいるかわからないなんて、あまりにかわいそうですから、私、実家まで見に行きたいんです」

「随分熱心ですね。そうねぇ。じゃあ、聞きに行ってもいいけど」

 常田先生も、最後は人並みの良心を取り戻したようだった。

「私だって生きてて欲しいですけどね。今まで家にいないことさえ気付かれなかったほど、誰も興味を持たなかったってことですからね」

 常田先生も、子どもたちが死んでるんじゃないかと思った。今まで母親に会ったことはあるが、その時の印象もごく普通だった。子どもを殺すようには見えない。ちょっとだらしなくて、服がダサかったし、お金に困っているような感じではあったが。気になることと言えば、子どもが不登校だとしても、何とか通わせたいと言う熱意が全く伝わってこなかったことだ。


 倉崎先生は考え続けていた。

 子どもたちを田舎に行かせた理由は何だろう?

 お姉ちゃんが先に学校に行かなくなって、次いで弟が行かなくなって、2人は祖父母の元に預けられたなんて・・・。両親は子どもを手放して寂しくなかったんだろうか。両親が持て余すような悪ガキだったんだろうか?B君は明るくて面白い子だった。両親が不仲で離婚を考えているというなら、そういう状況がわからないでもないが、普通は母親が引き取るもんだ。


「お父さんもまだあそこに住んでるんでしょうか?」

 倉崎先生は常田先生に尋ねた。

「知らないよ。お母さんとしか連絡取れていないし・・・」

「子どもの資料を見せてもらえませんか」

「まあ、いいけど。コピー取ったりしないでよ」

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