第17話 勉強会

 俺は今、リアルな俺の部屋に座布団を敷いて座っていて、その前にローテーブルが有り、それを挟んだ向こう側には一人のスーツ姿の女性が立っている。


「ではジャン君、先生と一緒に学んでいきましょうか」

 俺に向かってそう言ってくるのは、フォーマルなパンツスーツに身を包み、見た目は女教師といった感じの会長だった。

 いつもは艶々の黒髪をロングストレートで靡かせている会長だが、今日はお団子にしてまとめている。

 地味な色のスーツといい髪形といい、そして度の入っていない眼鏡も相まって。


「今日の会長は、教育実習生としてやってきた大学生といった感じなんですね?」

 俺は会長の見た目と、先程の言動に対して素直な感想を伝えた。


「いい感じでしょ? ジャン君に勉強を教えるなら形からと思ってね~、どう? 美人女教師っぽくない?」

「ええ、こんな美人な先生見習いが、大学から教育実習生としてやってきたらクラスの男子達はソワソワするでしょうね」

 会長は美人だからなぁ、こんな教育実習生が先生として高校にやってきたら、惚れちゃう男子も出るよね。

 地味な色の服装なのに、まったく地味に見えないもんな……スーツカタログのモデルさんかな? という感じ。

 ……グラビアモデルとは言わないよ、うん。


「も、もうジャン君ったら! 美人でスタイル良くて愛嬌もある教育実習生に一目惚れしちゃいそうだなんて! んもう……仕方ないんだからぁ……実習期間が終わったら先生と付き合っちゃう?」

 会長はチュッと投げキッスを俺に向かってしながら、そんな言葉を投げかけてきた。


 俺は投げキッスの軌道を、首を傾ける事で避けながら。

「それって倫理的にどうなんです?」

 と、素で返事を返す事で諸々をスルーする事にした。


「先生と生徒が付き合うのは条例違反でだめです! だから年齢の近い私にしておきましょう? ジャン先輩」

 それまで俺と会長の会話を黙って聞いていた連ちゃんが、俺の真横に移動しながら会話に参加してきた。


 確かに先生と生徒は駄目だよなぁ?


「ちゃんと実習期間が終わったらって言ったでしょう? そうなったらただの大学生と高校生が恋人になるんだからよくない? というか、どさくさに紛れてなんでジャン君の腕に組み付いているの? レンちゃんってば油断も隙もないんだから……」

 確かに会長の言う通り先生と生徒の関係じゃないなら、って、ほんとだ、いつのまにか俺の二の腕に連ちゃんの歳相応のポヨポヨが押し付けられている。


 ちなみに今日の連ちゃんの服装は、だぶっとしたレディース用のパーカー付きトレーナーを着ており、そして太ももから下に生足が見えていて……まるで下に何も着ていないようにも見えるんだよね……。


 まぁ実際はデニムのショートパンツを履いているのだけど、連ちゃんの体勢や角度によってはそれがトレーナーの裾部分に隠れちゃうから、だぶっとした上着だけ着ているように見えちゃうんだよな……。


「へ、へー、そんな条例があるんだ?」

 ちょっとエッチく見える連ちゃんから視線を外した俺は、恥ずかしさをまぎらわせるように言葉を漏らす。


「青少年育成条例とかの事かしらね? まぁ、私が十八歳になったらジャン君の年齢があがるまでエッチな事は一旦我慢する事になるのかしらね? それとも同年代ならおっけいなのかしら? その辺よく分からないわよねぇ……」

 会長は首を傾げて真面目に考えているが。


 そこは掘り下げないでもよい話題じゃないかと思う。

 というかまるで日常的に俺と会長がエッチな事をしていたかのような表現はやめて頂きたい。


「それだと私もジャン先輩が十八歳になったら色々と法律を調べないといけないのかも? 結婚は確か……」

 俺の腕に組み付いている連ちゃんがボソリと小さな声で何か呟いている。

 今なんて言った? と聞いてはいけない気がしたので、スルーする事にした。


 というかさ。


「今日は勉強会なんですよね?」

 俺は今日の集まりの目的を二人に思い出させる事にする。


「っと、そうだったわね、ほらレンちゃん、ジャン君から離れて元の場所に戻りなさい、×××先生の授業を始めるわよ!」

「はい、お姉ちゃん先生!」

 俺から離れていく連ちゃんは会長の演技に付き合う事にしたようだ、なんだかんだで仲が良いよな。


 それなら俺もそれに倣うかね。

「よろしくお願いします会長先生」


「まかせなさい! ……それとジャン君には……放課後に二人っきりで恋愛の補習授業もしちゃうからね! なんちゃって」

 教師っぽい眼鏡をクイッとさせながらそう言った会長を、俺と連ちゃんはスルーしつつ、中間考査用の教材を準備し始めるのであった。


 ……。


「あ、あれ? ジャン君? レンちゃん? 何か反応がないと、この格好をした意味がないというか、ちょっと寂しいのだけど……」

「会長、勉強は真面目にやりましょう」

「そうだよお姉ちゃん、ジャン先輩が同じ大学に行けなくなってもいいの?」


「あ、はい……コホンッ……それじゃ試験に向けた授業始めるわよ~」


 さて、家で勉強とか、いつぶりだろうなーとかおもいつつ、会長先生の中間考査対策授業を受けていく俺と連ちゃんだった。





 ちなみに、謎空間の思考分割されたアバターの方でも会長先生による勉強会が開かれているので、記憶が合体すれば効果が二倍になるだろう事は間違いないのだが。

 ……この仕様って他の学生も使ってくるだろうから、アドバンテージにはならんのだろうな、と思った俺である







 ◇◇◇

 後書き

 新たな★の評価があったので、さらに一話投下します

 ……ついにリアルでも謎空間でも麻雀していない状況になってしまいましたが

 試験勉強は大事だから仕方ないよね

 ◇◇◇




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