第11話 GW中の出来事

「こんにちはお邪魔するわね、ジャン君」

「お、お邪魔します、ジャン先輩! おはようございます!」


「……いらっしゃい、おはようさん」


 玄関口で挨拶を交わす俺と会長と連ちゃんだ。


 ゴールデンウィークの半ば、学生だけのゲーミング大会も終わり。

 その後日に約束通り連ちゃんとの動物園だかに行く話だったはずのだが……。

 何故か俺の家に私服の二人がきている。


 あっれぇ?


 と不思議がっているが、どうにもゲーミング大会の帰り道での話合いでこれが決定されていて、俺にも同意を取ったらしいのだ。

 ……色々考え事をしていて二人の話合いを聞いていなかった時があったからな、たぶんあの時にこの話が出ていたのだろう。


 会長と連ちゃんとで俺の鎖骨がどうたらや匂いがどうたらなんて話をしていたので、脳が聞く事を拒否していたんだよなぁ……。


「えっとジャン君の恋人としてご両親に挨拶をしたいのだけれど、いらっしゃるのかしら?」

「ジャン先輩の親交深き後輩として是非私も御挨拶したいです!」


「俺と会長は恋人じゃありませんけど、両親はいませんよ」


「そうなの? お買い物とか?」

「顔見せ作戦が失敗です……」


「GWにゲーム関連のイベントがどれだけあると思っているんですか、俺と違って両親はアクティブなゲーマーですから、二人共各地のイベントを回っているんですよ」


 そう、俺はお休みの日は引き籠って積みゲーを消化する派なのだが、うちの両親は各種ゲームイベントに積極的に参加する派だったりする。


 ガキの頃はよくそういったイベントに連れ回されたっけか……。

 中学になって俺が一人で留守番を出来るようになってからは、両親も若い頃のように二人でお出かけするのが楽しいみたいだね。


 元々そういったゲーム関係のイベントで出会った二人だからなぁ……その時のノロケ話を何度も聞かされて、うんざりはしている。


 イベント会場で颯爽と助けられたとか母親は言っていたが……それを横で聞いていた父親は苦笑いをしていたし、絶対に思い出補正入っているよなぁとは思った。


 しかし両親が出かけてくれて本当に良かった……俺も今日のゲームイベントの情報を両親に流した甲斐もあるという物だ。


「くぅ……事前にご両親の予定を聞いておけば……ジャン君のご両親に認められれば恋人として既成事実化するし、ジャン君も素直になると思ったのにぃ!」

 素直になっているからこそ、諸々を否定しているんですがそれは。


「ジャン先輩のに会いたかったです……残念」


 ……何故だろうか連ちゃんののイントネーションというか……意味合いが違う気がしてしまうのは……俺の気のせいだよな?


「まぁ中へどうぞ」

 来客用のスリッパを出してあげながら二人を家に迎え入れる俺だ。


 二人を誘導するように玄関口の側にある階段を上っていく俺。


「いきなり階段を上るって事は、自分の部屋に私を連れ込もうとしているのね……大丈夫! 色々買って準備は万端だからねジャン君!」


 その言葉を聞いて階段の途中で振り返る。

 会長は大き目の肩掛けカバンとは別にエコバッグを手に持っており、そのパンパンに膨れたバッグからはお菓子の袋の端っこが見えていた。


 コンビニにでも行って来たんだろうか。


 謎な能力でポイントを使って食料品等も買う事が出来るんだが、嗜好品はポイント消費がかなり高めに設定されているんだよね。


 ちなみに小麦粉や塩とかは世間の相場よりちょい上くらい、だけども大量には交換出来ない仕様だ。

 なのでお菓子なんかは普通にそこらのお店で買った方がお得という訳で、この謎な能力のせいで生産業が消えてなくなる事はない。


「……お姉ちゃんが、いきなりあんな物を堂々と買うから恥ずかしかった……」

 連ちゃんがポツリと言ったセリフに、俺は一切反応せずにそのまま階段を上がる事にした。

 藪蛇って言葉もあるしな。


 そのまま階段を上がって自分の部屋に二人を迎え入れ、すでに用意されている床に置いたクッションを指さして座るように促した。


 俺達は正方形のテーブルの三方面に座る。


「自室に連れ込むも何もですね会長、うちには客間が存在しないんですよ」

 席に着いて落ち着いたので、さっきの会長のセリフに対して応えてあげた。


「え? 三階建ての一軒家のお家に客間がないの? 普通に5LDKくらいありそうな大きさに感じたけども……」


 うちは普通の家じゃないからなぁ。


「普通の家ならそうなのかもですね、だけども……うちの一階には完全防音でネット環境や温度管理も完璧なゲーム用の個室があるんですよ……」


「えっと……ご両親と協力プレイでゲームを遊ぶ話を聞いた事があるのだけど……」

 ああうん、そういう話はしたよね。


「ええ、そういう時はネット経由のボイスチャットで繋ぎますね」


「びっくりだわね……」

「すごいね……」


 会長と連ちゃんがちょっと引いている。

 俺も昔はこれが普通だと思っていたんだけどねぇ……。


「まぁそれは置いておいて、準備しましょう」

 そう言って俺はテーブルの電源スイッチをポチリ、中央に空いた穴に麻雀牌を投入する。

 すぐさまガラガラとした音が俺の部屋に響き渡る。


「へー、これが個人で使う自動の……」

「麻雀教室の時みたいですねジャン先輩!」

 会長はそこそこ驚き、連ちゃんはテンションが上がっている。


 そう、全自動麻雀卓が俺の部屋に導入されたのだ!

 ……結構高かったなぁ……最近は貴重資源の買取価格がちこっと落ちているけど……まぁ必要経費だ。


 何故ならば、あの謎世界でのゲームも大事だが。


「まさか会長が麻雀団体主催の素人ウエルカムな大会に参加したいと言い出すとは思いませんでした」

「だって……ジャン君と連ちゃんは行くんでしょう? それなら私も彼氏と趣味を共有したいじゃないの……」

 彼氏じゃないけど、その気持ちは嬉しいです会長。


「むー……ジャン先輩と二人で行くはずだったのに……じゃぁお姉ちゃん、今日の生身でやる麻雀で賭けるのは……」

 え、賭け事? いやいやお金を賭けちゃ駄目だよ連ちゃん。


「ええ分かっているわレンちゃん、その大会会場への移動時にジャン君と腕を組む権利ね! 負けた方は一歩後ろを歩いてジャン君と手繋ぎなのよね?」


「そうそれで、じゃぁ、負けないからねお姉ちゃん!」

「ふふ、絶対に勝つわ! 待っててねジャン君!」

 ふぅ良かった、お金じゃないから安心だね。


 って待て待て。


「その勝負だと、俺が勝っても何も賞品がなくないですか?」


「ふむ、それは確かに……それじゃぁジャン君が勝ったら何でも一つ言う事を聞いてあげると言う事で……準備もきっちりしてきたし……もう、ジャン君ってばえっちなんだから」

「えーっとジャン先輩が勝ったら……え、えっちぃ事は駄目ですからね!」

 ……何故そういう方向に、あ、そうだ。


「じゃ、俺が勝ったら普通に健全に学生らしく適度な距離を保って歩くという事にしま――」


「ジャン君が勝ったら私と連ちゃんで両手に花で歩く事で決まりね!」

「男の人はそういうの好きだって言うもんね? 賛成だよお姉ちゃん!」


「「決定しました!」」


「……それって俺が勝っても負けても今までと同じじゃ――」


「さぁそれじゃ席決めしましょうか、どうやって決めるものなの?」

「えっと正式な物だと――」


 ……今日も今日とて会長も連ちゃんも、俺の意見は聞いてくれないようです。






 ◇◇◇

 ★を貰ったら続きを書こうと思って幾月

 やはり物語の中で麻雀しないと駄目なんだろうかと全自動卓を導入してみました。

 ◇◇◇

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