第4話 通しサイン
「今日はいい天気ね、リアル世界では三時頃に曇りになるらしいわよ」
会長が唐突にそんな事を言いだした。
今日は一日晴れ予報なのに何言ってんだこの人は、と思わなくもないが。
仕方ないので、会長から見て下家の俺はサンマンを切った。
「ポンっ!」
会長が俺の切ったサンマンをポンして場に二枚切れている北を捨てた。
会長はすでに自風の
そして俺の下家のコブリンマジシャンが……ギャウギャウ言いながら赤ウーマンを切る。
「ロンっ! ダブ
「ギャワァァァ」
会長の親ッパネで点数が飛んだゴブリンマジシャンが消えていく……。
そして残ったゴブリンナイトとのサンマへと移行する。
……。
……。
「お疲れジャン君、快勝だったわね!」
「お疲れです会長、そうですねー」
「私とジャン君の相性が最高だからよね? これはもう告白待ったなしじゃないかと思うのだけど……もう少し先にあるゴールデンウイークのお泊まり予定も決めないとだし、早くしてほしいなー、チラッチラッ」
会長がチラチラ言いながら俺を見てくる。
今は同盟機能を使って会長の謎空間部屋にお邪魔している。
お互いの見た目は学生服だ。
「というか会長」
「なーにジャン君? あ、おっけーだよ!」
「何がおっけーなのか知りませんが、さっきの魔物相手の麻雀の話です」
「告白じゃないの? ちぇー、……さっきの麻雀は問題なかったし特に話す事もなくない?」
「ゴブリンくらいの魔物だとこちらの言語を理解出来てないみたいですし、通しサインだか何だか知りませんが天気の話をする必要ありますか? 麻雀の対局中に晴れになったり雨になったり曇りになったり雪になったりする会話がちょっとつらいんですけども……」
「あれは漫画で調べた古き良き麻雀の作法なのよ? それとも野球のサインみたいに体を触る位置で決める?」
「ですから、普通に白をポンさせてーとか言えばいいじゃないですか、どうせゴブリン程度なら言語を理解出来ないみたいですし」
「それは駄目よジャン君! そーいう直接的なのは反則らしいわよ? 本当なら目と目で通じ合うのが一番なんだけども……」
「同じ事を前に会長が言って、魔物相手のペアカードバトルの時に一切相談に応じてくれなくて、危うく俺が負けそうになったんですが?」
「だって夫婦の阿吽の呼吸って憧れるじゃない!」
俺と会長は別に夫婦でも何でもないんだけどなぁ……。
「魔物がパーティ戦を仕掛けてくるようになったから、こちらもそれに合わせないといけないのに……俺には会長しか頼める知り合いがいないんですから真面目にやってくださいよ……」
「ふふ、ジャン君には私が必要なのね! 次のお休みは遊園地デートでどう?」
おかしいな、会長とはたまに言葉が通じないみたいなんだが……。
誰かこの人をどうにかしてくれよ……学校ではクールビューティな生徒会長と思われてる人なのになぁ……。
「はぁ……真面目にペアバトルをやってくれるなら遊園地でも水族館でも映画館でもボウリング場でもファミレスでも連れて行ってあげますから……」
「おっけー私は超真面目です! 普通にやるわ! でも……言語を理解する相手のためにも漫画で通しサインは勉強しておきましょうね? そしてデート先に、やる気のなさげなファミレスをこっそりと混ぜないでね、ニッコリ」
く……バレたか、耳聡いなぁ会長は。
遠出しなくていい楽なファミレスを笑顔でつぶしてきた。
それと恋人じゃないんだから、デートじゃなくお出かけと言ってほしい。
「しかし魔物が単体以外でも攻めてくるようになるとは思いませんでしたね」
「んー私はあり得ると思ってたわよ? ゲームには最初にチュートリアルがある事も多いし、中盤から新しいシステムが加わってさらに敵が強くなるなんて普通じゃないの」
会長って意外にゲーマー思考なんだよね。
不思議メニューではカードバトルゲーを選んでいるけど、別にそれだけが得意って訳じゃないみたい。
たぶんうちのゲーマー両親と会ったらすっげぇ仲良くなりそうなんだよなぁ……なので今の所両親と合わせる気はない。
「そうなるとお出かけ先でぬるくない難易度な魔物に出会うかもですよね……良し! 危険なので遠出はやめておきましょう会長!」
「ハ? ……イマサラソンナ言い訳がツウジルトデモ? ソノ話をマダ続ケルノナラ……デートの最後にラブなホテルを強制追加スルワヨ?」
氷のごとき冷たさが会長の周囲に湧き出てきている。
あ、これは逆らっちゃ駄目なやつだ……会長はたぶん本気でやる。
「あ、はい……次のお休みのお出かけ、タノシミデスネ会長……映画館でいいですか?」
「……そうねジャン君! 午前は映画館で午後は水族館で夕方にホテルのレストランでご飯を食べて、そのまま良い流れならお泊まりしましょう!」
「……あ、次の授業は集中したいので、この空間から抜けますね会長、おつかれっしたー」
「待ってジャン君! 冗談だから! 私も生身でお泊まりはまだちょびっと早いと思っているから! 待ってー-!!」
その言い方はどうなのよ……生身じゃないお泊まりなんて……そういや、こっちの謎空間で会長と朝までゲームで遊んでいる事も、会長の中ではお泊まりになっているのだろうか?
考えてみたらゲームが目的とはいえ、女子と二人っきりで夜中から朝まで過ごしているような物?
……今までまったく緊張も興奮もしなかったから気付かなかったわぁ……。
「はぁ……じゃぁ会長、次の学校がお休みの日は繁華街まで出て午前に映画、午後は適当にブラっと買い物でもしつつ早めの夕ご飯を食べて解散、これで良いですね?」
「ええ! それでおっけーよ! ふふ……学校は抜かして生身では初めての二人でのお出かけね? すっごい楽しみだわジャン君!」
会長がキラキラ笑顔を俺に向けてそんな風に言ってきた。
くっ……この人すっごい美人だからなぁ、この笑顔は反則だろ。
……。
ってあれ?
最近はいつも会長と、この謎空間で一緒だったから忘れてたけど……。
リアル世界で女子と二人でお出かけって初めてじゃね?
あわわわ、どうしよう、胸がドキドキして、なんか急に会長を見るのが恥ずかしくなってきた……俺の顔とか赤くなっていないよな? 落ち着けー落ち着け―。
そうだ! 会長はペッタン、会長はペッタン、会長はペッタンなんだ!!!
……良し、少し胸のドキドキが収まってきた。
落ち着いた俺が会長の方を見ると、会長は首を傾げて不思議がっている。
どうしたんだろ。
「どうしました会長?」
「ああうんジャン君、えーとね……なぜだかジャン君を処さないといけない気に一瞬なったのよね……なんでだろ? ジャン君が浮気した訳でもないのに……むーん……謎だわね」
浮気っていうのは恋人同士に発生するイベントだと思うんですけど……俺と会長はただの同盟員ですよね?
俺はどっちかというと巨乳好きだから……どうにも会長と相性良くないんだよねぇ……。
俺の好みを知ったら会長は悲しむだろうし、それで悲しむ会長を見たくないんだよなぁ……だからこそ付き合う訳にいかないんだよ。
会長が泣く所なんて絶対に見たくねぇし!
「さて、それじゃどうしましょうか会長、解散ですかね?」
「んーそうねぇ……リアル世界の私達はちゃんと授業を受けているし、ここはちょっと新しいデッキ構成のお試しバトルに付き合ってくれない? こないだ植物系の魔物を撃退して、そっち系のカードが増えたのよね」
「それは勿論かまわないですけど……会長、俺はカードバトル下手なのに良いんですか?」
「良いのよ、私はジャン君が良いの! ふふっ」
そう言って会長は俺の腕を取って組んできた……この不思議世界だと会長はスキンシップが激しいんだよなぁ……いや、リアルでも良く腕を組んでくるっけか。
……もう少しお胸様があればね……俺も嬉しいんだけども……。
ギュゥゥゥゥゥゥ、腕を組んだ会長が急にすごい力を入れてきた、痛い痛い痛い痛い。
「痛い痛い! ちょ会長! 急に何するんですか!」
「あ、ごめんジャン君、んー、急にジャン君にお仕置きしないといけない気になったのよね……浮気した訳でもないのに……なんでだろ? ジャン君は心当たりある?」
あります、けどそれは会長が接触テレパスとかを持っている可能性があったなら、の場合なんですが……。
……。
「会長ってテレパシー能力とか持ってませんよね?」
「へ? どうしたの急に?」
どうやら持っていないらしい……じゃぁ女の勘って奴? ……こわっ!
◇◇◇
後書き
つい先日、この作品に評価がついてたんですよ
つまりその人は麻雀好きって事ですよね
な訳で、そんな麻雀好きの同志のためにさらに一話追加しておきました
相変わらず麻雀描写が少ない?
……冒頭に親のインパチあがっているので良し!
◇◇◇
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