台所の雨音

超時空伝説研究所

雨降らし

「さて、ちょっと雨でも降らしてこようかね」

 幼いころ母さんはそういって、台所に立つことがあった。

 わが家では天ぷらのことを「雨降らし」と呼んでいた。

「ジャー」という油が立てる音を茶の間から聞いていると、夕立の音のように聞こえたのだ。

 一人暮らしをして自分で揚げ物を作ってみると、あんなに暑苦しい料理はない。

 いま思えば暑苦しい揚げ物を少しでも涼しげに思わすために、「雨降らし」なんてことばを使っていたのだろう。

 わが家の暮らしは豊かとはいえず、揚げ物といっても肉や魚を材料にすることは少なかった。

 天ぷらなら野菜。フライならコロッケが定番だった。とんかつや海老天は家で作れるものではないと思っていたな。

 母さんの天ぷらは美味しくて、中でもさつまいもの天ぷらは絶品だった。


 わたしは天ぷらの中で、さつまいもが一番好きだ。

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