オー・マイ・ハヤタロー

目黒恵

第1話

むかし、国中を旅している坊様がおりました。ある日のこと、坊様はある村にさしかかりました。その村の村人達は元気がありません。毎年秋祭りが近づくと娘がいる家に白羽の矢が立ち、その娘を白木の棺に入れて社の神様に捧げないと、田畑が荒らされるというのでした。その日はもう秋祭りの日だったのです。


坊様は「そんな馬鹿な。神様が人間の娘を取って喰うなどと…。」と思い、何とか正体を見極めようと社の下にもぐりこみました。やがて白木の棺を担いだ村人達が影のように現れ、社の前に棺を安置しました。


夜も更ける頃、暗闇の中から三匹の怪物が現れました。怪物は「この事ばかりは信州信濃の早太郎(はやたろう)には知らせるな」と歌いながら踊り狂い、棺の中の娘を骨も残さず喰うてしまったのです。坊様は村人を救うには早太郎に頼むほかないと思って、すぐに信州へと出発しました。


しかし信州は広く、なかなか早太郎には会えません。翌年の夏も終わる頃、坊様はある茶店に立ち寄りました。そこでようやく、坊様は光前寺に早太郎という犬がいるという話を聞いたのです。坊様は早速光前寺を訪れ、山犬の早太郎にこれまでの事を話して聞かせました。そうして坊様と早太郎は、あの村に向けて出発したのでした。


坊様と早太郎はちょうど秋祭りの日にあの村へたどり着き、その年、白木の棺には娘の代わりに早太郎が入りました。その夜、何も知らない怪物達が棺の蓋を開くと、中から早太郎が現れたからたまりません。暗闇の中に唸り声や悲鳴が響き渡りました。


翌朝、坊様と村人達が社を開いてみると、年老いた狒狒が三匹死んでおりました。早太郎の姿はもうどこにもありません。村人達は今まで自分達を騙していた狒狒の死骸を声もなく見つめました。


信州へ向かう道に点々と血の跡が続いています。傷ついた早太郎は長い道のりをただ一人、光前寺へと帰って行ったのです。




















 宝屋敷詩は、長野へ2泊3日の林間学校へ行っていた。その一環として、光善寺へ行った。詩は、そこにあった霊犬早太郎の墓の前で立ち止まった。

「こんな伝説が昔はあったんだね」

 そう思った詩は少しの間、早太郎の墓を見ていた。


 その日の夕方、詩がバーベキューの準備をしていると、1人の女子生徒が他の同級生に言われてバーベキューのセットを1人だけ全部運んでいたのを目撃した。

「ほら、全部持てよ〜。これも!」

 男子生徒がそう言うと周りの生徒がせせら笑っていた。

 詩は、隠れてその様子を見て止めたくなったが、止めた後の事を考えると何も出来なかった。それに、その女子生徒を虐めている男子生徒らは教師のお気に入りのため、大事に出来なかった。


「止めろ!一実坊弁存!」

 そう声がして詩は周りを見渡したが、詩と他の生徒、教師以外誰もいなかった。

 詩は気にせず、止めようか止めないか悩んでいると

「だから、止めろ!一実坊弁存!」

「え?」

 謎の声がしてすぐだった。詩の体が勝手に動き、男子生徒らへ向かって突進した。詩は、特撮ヒーローよろしく男子生徒らを飛び蹴りして倒した。

 男子生徒らを飛び蹴りした後、詩はやっと体の自由がきき、虐められていた女子生徒に気付き、気まずそうにした。

「私…やっちゃった?」

 そう詩が聞くと女子生徒は何も言わず頷いていた。















[冒頭引用]


http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=72







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