第7話


「よし…このくらいでいいかな…」


『生と死の剣』を収めて、俺は周りを見渡した。


あちこちに転がるモンスターとの死骸。


一時は村を覆い尽くすかというほどだったが、今は大部分が地面に倒れている。


「もう生きてる奴はいないよな…」


また息のある村びとも大方救った。


すでに死んでいる者を助けることは出来ないが、まだ息があり致命傷を受けて動けなくなっていたような村人は、全員『生と死の剣』で怪我を癒した。


今は体力を失ってほとんどが眠っているが、明日の朝には目を覚ますことだろう。


「さて…」


出来ることは全てやった。


俺はその場に寝転がって、目を閉じる。


当初の予定通り、俺も気絶していたことにしよう。


朝まで眠って誰かに起こしてもらうのを待つ。


もし何か聞かれたとしても惚けることにしよう。


「おやすみ」


俺は『生と死の剣』を抱えて眠りについた。




「グレン…!?大丈夫…!?グレン!?」


「ん…?」


翌朝。


俺は誰かに揺り起こされて目を覚ました。


「アンナ、か…」


「よかった!グレン!生きてたんだ!!」


アンナだった。


心配そうな顔が、俺が目を覚ますと途端に安心したようになる。


「どうなったんだ…?俺は何を…?」


俺は当たりを見渡す。


「うわっ!?なんだこれ!?」


そして周りに転がっていたモンスターの死骸を見て、驚いた演技をする。


「どういうことだ!?何が起こったんだ!?」


「私にもわからない…けど、誰かがこの村を救ってくれたんだと思う…グレン。その剣は?」


アンナが俺の抱いている『生と死の剣』を指差していった。


「あぁ…これはその…ひ、拾ったんだ…誰かが持ち出したんだと思う」


「そう…」


「そ、それより…アンナは大丈夫だったのか?怪我は…?その服についた血は…?」


「えっと…私もよくわからない…一度死にかけたような気がするんだけど…でも起きたら傷が治ってた…ねぇ、グレン。何かしらない?」


「さ、さぁ…?俺もずっと気絶してたからな」


「そっか……なんか意識を失う寸前に、グレンを見たような気がしたんだけど…」


「え、俺…?」


「うん…私、てっきりグレンに助けられたんだとばかり」


「いやいや、俺は何もしてねぇよ!?」


俺は内心焦りながら慌てて答えた。


「そっか…」


アンナは首を傾げながらも、それ以上追求してはこなかった。


俺は密かに胸を撫で下ろす。


「とにかくよかった。グレンが無事で」


「お、おう」


アンナが差し伸べてくる手を俺は取った。


村のあちこちでは、生き残った村人たちがモンスターの死体を片付けたり、死んでしまった村人たちの遺体を一箇所に集めたりしていた。


「アンナ。アレルは?」


アレルの無事を知りつつ、俺は一応アンナに尋ねた。


「うん…あそこに…」


アンナが指を刺した。


少し離れた場所に、木の切り株に腰を下ろして項垂れているアレルがいた。


「おーい、アレル…!大丈夫かー?」


俺は何やら落ち込んでいる様子のアレルに声をかけた。


「グレン…お前も、無事だったのか…」


アレルが暗い顔を上げながら言った。


「アレル!!お前も生き残ったか!!本当によかったぜ!!」


「あぁ…」


アレルの反応は芳しくない。


村の住人に多数死者が出たことを悲しんでいるのだろうか。


「どうしたんだよアレル…俺たち3人とも、生き残ったんだぜ…?」


「そう、だな…はは…」


アレルが自重気味に笑った。


それからチラリと俺の隣にいるアンナに目を向けた。


一瞬、アンナとアレルの視線が交錯する。


だが、アレルの方が逃げるように視線を逸らしてしまった。


「俺は卑怯者だ……くそ…俺なんか死ねばよかったんだ…」


「…アレル?」


「今は1人にしてくれないか?」


「…わかった」


どうやらアレルはアンナを置いて、逃げてしまったことを悔いているようだった。


俺は今はそっとしておこうと、アレルから離れる。


「アレルは大丈夫なのか?」


「一時的に落ち込んでるだけだと思う」


アレルを心配する俺に、アンナが言った。


「そうだといいんだが…」


「そんなことより…グレン。無事で本当に安心した」


「え…?」


「グレンが死ななくて、私本当によかった」


「お、おう…?」


アンナが俺に腕を絡めてくる。


ふよっと柔らかい感触が腕に押し当てられた。


「あ、アンナ…?」


「…」


俺がアンナの名前を呼ぶと、アンナは照れ臭そうに視線を逸らしてしまった。

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