八 霧島殺害事件

 霧島は自分の不祥事が報道されるのを見たくなかったため、TVニュースを見ていなかった。茂木が殺害された事を知らずにいた。


 逮捕されて元警視庁警視霧島修の名が報道されて以来、霧島がは昼は出歩けなかった。顔を見られるたびに罵倒が飛び交い、いろんな物が飛んでくる。だからこうして、夜、人目を避けて出歩くしかない。

 妻子は霧島が逮捕された時から実家に戻ったまま帰っていない。無理はない。逮捕される前から、霧島は家でも素行が悪く、妻は手を焼いていた。全て妻任せだった霧島は洗濯もできず、ほとんど着た切り雀で、食事は弁当を買って済ませるしか考えが及ばなかった。



 十二月二十七日月曜。午後十時。

 茂木の変死体が発見された八日後。霧島は夕飯の弁当を買うため、東京都文京区関口三丁目の自宅を出て、自宅から離れたコンビニを目指した。

 コンビニで弁当と缶ビールを買って外へ出た。

 ベンチに座って、駐車場の照明の下で弁当を食う。

 何とかして、三島幸子警部(係長)と吾妻直輔参事官(警視正)に報復する方法はないものか?組織に頼む金は無い。自分でやるしかない。まず、武器を手に入れよう・・・。

 そう思って弁当を食い終え、ベンチから立って弁当の容器をクズカゴに入れた。

 弁当で何を食ったか記憶が無い。まただ。三島と吾妻を始末するまで、この感覚は正常には戻らない気がする・・・。

 霧島はベンチに戻って缶ビールを開けた。


 霧島の前に黒のSUVが停まった。助手席から黒いスーツの男が出てきて言う。

「霧島警視。臼田副総監(警視監)の指示でお迎えに上がりました」

 男は後部ドアを開けて、霧島の乗車を促している。


 何だ?!SPか?!やはり、上層部はオレを見捨てなかった。四方八方へ手をまわしてあの一件だけでなく駐車違反や速度違反を揉み消したのだから、警視監や警視長は俺に恩がある・・・。

 霧島は缶ビールを飲み干して空き缶入れに入れ、SUVに乗った。


「そこに飲み物があります。よかったら飲んで下さい。緊張がほぐれます」

「これから、緊張するような事があるのかね?」

「はい。それ相応のポストを用意しています」

「そうか・・・」

 上層部へ恩を売っておいて良かった・・・。

 霧島は、用意してある酒の中からウィスキーを選び、グラスに入れて水割りにすると、ぐっと飲み干した。

 久しぶりにうまい酒だ。二杯目を作ってこれも飲み干した。

 実にうまい。これはなんだ?何杯もいける・・・。

 ところでどこへ行くのだろう?警視庁とは方向が違う・・・。

「どこまで・・・・」

 そう言った霧島の意識が薄れた。


 黒のSUVは首都高速5号池袋線/ルート 5 を進み、首都高速都心環状線/C1 に入って 千代田区 2 の六本木通り/都道412号 に向かう。霞が関で首都高速都心環状線/C1 を出る・・・。そのはずだが、車は首都高速5号池袋線/ルート 5 を進み、首都高速都心環状線/C1 と 羽田線/首都高速1号/ルート 1 に入って 品川区2の都道316号に向かった。鈴ケ森で羽田線/首都高速1号/ルート 1 を出た・・・・。



 目が覚めると、霧島はパイプ椅子に手脚と腰を拘束され、局所麻酔をされていた。身体は動かないが周囲の音は聞える。


 黒覆面に黒い服装の男が霧島の横に立った。音声変換した声で言う。

「が買春か・・・。

 表の顔は法の番人の警察の警視。

 裏の顔は売春屋、買春組織から賄賂を受け取る悪徳警官とはな・・・」

「賄賂は受け取ってない」

 そう言っているが霧島の額から冷や汗がでている。


「金の代りに、毎晩、若い女をあてがわれてた・・・」

「そんな事は無い。金も女もあてがわれてない」

「お前は警視の立場を利用して、組対の捜査をじゃました・・・」

「じゃまなんかしてない」

「嘘を言うな」

「嘘じゃない」

「嘘を言うこの二枚舌は要らない・・・」

「やめてくれ・・・」

 霧島は小型高周波電流発生機を見て恐怖を感じたが身体が動かない。


「女をあてがわれていた上司がいるだろう?誰だ?名を言え」

「そんなのはいない!」

「上司の窃盗や違反を見逃しただろう。誰の犯罪を隠蔽した?」

「わかった。話すからやめてくれ」


「話せ。誰だ?」

「臼田警視庁副総監(警視監)と若松本部長(警視長)だ」


「副総監は何をした?」

「臼田は麻薬捜査を遅らせる見返りに女を斡旋された。我々には、スピード違反と駐車違反の揉み消しをさせた」


「本部長は?」

「若松は変態趣味が講じて組織から与えられた女を窒息死させた。我々が後始末して、女が自殺した事にした」


「本部長は独りで女と会っていたのか?」

「そっ、そうだ」

「嘘はいかんなあ。あの現場に、お前も居ただろう?」

「私は居なかった」

「嘘はダメだ。

 お前が組織から女をあてがわれ、お前の出世のために、変態趣味の若松と臼田を誘った。そして、組織の捜査を遅らせた」

「そんな事は無い!あり得ない!」

「そうかな?では、これならどうだ?」

 覆面の男がタブレットの動画を見せた。

「あっ・・・、なんてこった!」


「もう一度訊く。

 組織が臼田副総監と若松本部長に女を斡旋したあの現場に、お前も居ただろう?」

「ううっ・・・、私も居た。居たよ!」

「お前、やっぱり二枚舌だな・・・」

 覆面の男は黒革の手袋の手で霧島の顎を掴んで口を開けた。プライヤーで舌を引き出して高周波電流の電極で舌を鋏み、小型高周波電流発生機のスイッチを入れた。

「ウオッッッッッ・・・」

 電極に電流が流れ、舌が焼き切れてズボンの腹部に落ちた。焼き千切れた部位は焼きついて出血していない。


「これで舌は一枚だ。

 女の匂いが好きだろうが、もうこの鼻も、女の声を聞く耳も不要だ」

「うっうっうっ・・・」

 霧島が呻いている間に鼻が電極で挟まれて焼き切られ、耳も焼き切られた。

「あわわわわっ・・・」

「麻酔が効いてるから、痛みはない。

 もう、これも不要だな・・・」

 パイプ椅子に乗った霧島の両手が、あっという間にハンマーで潰された。

「うおっっっっっ」


「それと、女と寝る事もないから、これも不要だな」

 覆面の男は霧島のズボンの股間と下着を裁ちバサミで切り裂いた。絞首刑のロープのような結束部を持ったピアノ線の輪を股間の物の付け根に括りつけた。

「うっうっうっっっっっ」

 霧島はやめてくれと言ったが声にならない。そうしている間に、霧島は三階の踊り場から椅子ごと蹴落とされた。


 落下したパイプ椅子の霧島が、一瞬、一階のコンクリートの床から三メートルほどの高さで止まったように見え、そして、股間から血しぶきを飛ばしながら、霧島がコンクリートに落下した。霧島はパイプ椅子ごと尻からコンクリートの床に激突し、骨盤と背骨と首を圧迫骨折して全身をコンクリートに打ちつけた。床から三メートルほどの高さの、ピアノ線の末端に千切れた物があり、血の雫が垂れている。



 覆面の男は千切れた霧島の鼻と耳を踊り場から蹴落とし、小型高周波電流発生機と道具をバッグに入れて背負った。

 階段の支柱に固定してあるピアノ線の末端を解いて巻き取りながら階段を下りてピアノ線をポリ袋に入れ、一階のコンクリートの床に立った。既に股間の千切れた部分はピアノ線の末端から外れて霧島の傍に落ちている。

 覆面の男が霧島の頸動脈に手を当てた。鼓動は弱い。千切れた鼻の前に手を翳した。かすかに呼吸をしている。


 覆面の男は背負っているバッグを床に置いた。ピアノ線のポリ袋をバッグに入れ、食塩水入りのペットボトルを取り出し、霧島の出血が止まらないよう、千切れた股間に食塩水をかけた。霧島はまだ、麻酔が効いている。

 覆面の男は、霧島の腕と脚と腰をパイプ椅子に括りつけている結束バンドを切り取ってバッグに詰めた。バッグの中にはハンマーやプライヤー、小型高周波電流発生機と部品が入っている。覆面の男は周囲と階段を見た。遺留品は何も残っていない。

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