第9話 色々中々大変だった

 あの後、色々大変だった。

 まずは祭りだ。

 フューレンの街をあげての大規模な祭りが未曾有の危機を脱したという事で3日3晩続いた。

 何度も途中で抜け出そうとしたけど、主役だからということで抜け出せなかった。

 フューリーも聖女だからという謎の理由でそれに巻き込まれたて付き合わされた。


 祭りが終わってやっと解放されたかと思いきや、今度はギルドの聴き取り調査が待っていた。


 そしてギルドの聴き取りが終わると。


「ティム! 飲もう!」

 ジェスカさんに拉致られた。


「なんか知らない間にフューリーといい感じになってるじゃんか。何かあったな?」

 ニヤニヤ笑いながら肩を組んでくるジェスカさん。


「……何もないですよ」

「そんな事言わずにお姉さんに話してみ」

「……と言われましても」

「いいから、いいから」

 結局朝まで付き合わされた。

 そして。

「あなたは何をやっているのですか!」

 フューリーに説教された。


 更にフューリーの説教が終わると。


「ようティム! 今日もよろしくな!」

 ギルド長と現地の立ち合い調査。


 ——結局、現地調査を行なってもあの災害級の魔物の群れが何処からやってきたのかも、何処へ消えたのかも謎のままだった。

 ロキが悪神とは知らなかったけど、神様のやることだもんね。

 人の常識では計り知れないということだろう。


 本当ならゼイルにパーティー追放の真相を確認するべく、すぐに王都へ旅立つつもりだったのに、ロキの戯れのせいで連日想定外の足止めをくってしまった。


 そんな折に王都からギルドに僕宛の使者が来た。


「ティム殿、ご無沙汰しております。その節はどうもお世話になりました」


 使者はなんとレイニャさんだった。


「お久ぶりです。レイニャさん」


 レイニャさんが手を差し出してきたので、握手するつもりで近づいていくと、レイニャさんはおもむろにハグしてきた。


「あの後も、色々と当家のために尽力してくれたと聞く、ティム殿にはいくら感謝してもし足りんな」

「……そんなことは」

 このハグはその感謝の表れなのだろうか。


 その様子を見ていたフューリーが。

「ティム……こちらの方は」

 笑顔で質問してきたけど、その笑顔には何故か怒気が篭っていた。

 

「連れがいたのか。すまなかったな。私は、スターフィールド公爵家が家臣、レイニャ・ハウだ王国騎士団

第1軍3番隊隊長を勤めさせてもらっている」

 そう言って僕の時と同じようにフューリーに手を差し出すレイニャさん。

 フューリーにもハグをするのかと思いきや。

「私はティムとペアで活動しているフューリーです」

 2人はがっしりと握手を交わした。

 その握手はやたら熱がこもっていた。

 ていうか、なんだろう。

 お互い笑顔なのだけど、滅茶苦茶空気が重い。


「——ところでレイニャさん、僕への要件ってのは? またジェラートですか?」

「違う違う、実は陛下が君に是非会いたいということでな、私を迎えにやったのだ」

「「へ……陛下が!?」」

 驚く僕とフューリー。


「まあ、陛下だけではなく、アゼス様も、ソフィー様も、イバニーズ様も、ガイゼル将軍も皆んな会いたがっているぞ。まあ、特に熱心なのはイバニーズ様とガイゼル将軍だけどな……」


 ガイゼル将軍が熱心なのはなんとなくわかるけど、イバニーズ様まで。

 ていうか。

「なぜ、陛下が僕なんかに?」

「ははっ、ティム殿に僕なんかといわれると、皆んな立つ瀬がないじゃないか。ティム殿はたった一晩で毒蠍団を壊滅させ、モルボを逮捕し、囚われていた領民まで救った王国の救世主なのだぞ」

「えっ、そうだったの?」

 レイニャさんの言葉に驚くフューリー。

 救世主とか僕も驚いた。

 ギルド内の皆んなもこっそりと話を聞いていたのか妙に騒つきはじめた。


「あ——それは結果的に? だから偶然だよ偶然」

「相変わらず謙遜が過ぎるなティム殿は」


 本当に成り行きの結果だからね。


「そんなわけなのだ。ご同行願えるかね?」


 うん、どちらにせよ王都には行くつもりだった。僕的には断る理由はないけど。


「フューリーいいかな?」

 パーティーメンバーであるフューリーに確認をとらないとね。


「いいもなにも、王命を断るわけには行かないでしょう」

「そこは大丈夫だぞ。王命を受けたのは私であってティム殿ではない、都合が悪ければ断ってくれても」


 いや……そんなと言われても普通の神経してたら断れないよ。


「分かりました。王都へ行きます。僕もフューリーも王都に用事があったんで」

「そうか、なら都合がいいな」


そんなわけで王都に行く大義名分ができた僕たちはさっそく王都に向けて出発した。

 一応陛下の賓客ということで、王都までは王国騎士団が用意してくれた馬車で行くことになった。馬車で行くと聞いて何故かフューリーが安堵の表情を浮かべていた。


 だけど馬車の中の席が波紋を呼ぶ。

 最初は僕とフューリーの二人だったから向き合って座っていたんだけど、そこにレイニャさんが乗り込んできて、なんと僕の隣に座ったのだ。


「レイニャさん……何故僕の隣に?」

「ティム殿は王の賓客だからな。私がしっかりと護衛しないとな」

「護衛にしては近すぎませんか!」

 と突っ込むフューリー。


「この距離だと、いざという時ティム殿の盾になれるだろ」

 なんて言いながらレイニャさんは僕に覆いかぶさってきた。


「ちょっ、ちょっと何をやっているのですか!?」

「実践して見せてあげただけだ」


 なんだか先行き不安だ。


 しばらくは平穏だった。

 だけど今日の宿場町に着こかというタイミングで。


「フューリー殿、単刀直入に聞くが、あなたはティム殿の恋人なのか?」


 とんでもない事を切り込んできたレイニャさん。


「こ、こ、こ、恋人じゃないです!」

 その質問に取り乱しながらも否定するフューリー。


「そうか、そうか、ならイバニーズ様もとりあえず安心だな」


 なんで、そこでイバニーズ様。


「い、イバニーズ様って誰なんですか!」

 レイニャさんに質問するフューリー。


「イバニーズ様はスターフィルド家の御令嬢だ。ティム殿に危ないところを助けられただけでなく、母君に掛けられていた厄介な呪いまで解呪していただき、ティム殿にご好意を寄せられておられるのだ」


 え、イバニーズ様が僕に!?

 ていうかそんなこと本人の居ないところで言っちゃてもいいの。


「まあ、その好意がなんの感情なのかまでは、私は分からないけどな」


 ですよね。好意っていったって色々あるもんね。


「フューリー殿はどうなのかな?」

「えっ! 私ですか」


 なんてことを聞くんですかレイニャさん。

 フューリーは過去に僕を振ってるんですよ!

 答えにくいですって。


「私は……その」

 やっぱり答えにくそうなフューリー。

 そりゃ本人を前にしたらね。


「私は異性として好意をいだいているぞ」

 口籠るフューリーをよそに、レイニャさんから爆弾発言が。

 えっ……こんな時僕はなんて答えればいいの? どんな顔すればいいの!?


「まあ私は一応わきまえているからな。イバニーズ様がはっきりと態度を示すまでは何もするつもりはないけどな」

 フューリーを挑発するようにそんなことを言うレイニャさん。

 なんだか変な空気になってしまった。


『マスター……凄く面白いことになってますね』

『面白くないよ!』

『何処らかしこで、種を撒くからそうなるんですよ』

『いや、撒いてないないから!』

『プチ修羅場中になんですが、マスター達が目指している前方の宿場町に無数の魔物の反応があります』

『えっ! それは本当なの?』

『間違いありません。そんなに強い魔物ではありませんが、一応ご注意ください』


「レイニャさん、フューリー、前方の宿場町に魔物の群れがいます」

「えっ」「何っ!」


 幸か不幸か、コーディネーターの忠告でこの嫌な空気からは脱することができた。


 警戒しつつ宿場町に近づいていくと、土煙が上がっていた。何かあったのは間違いないだろう。


 そして更に近づくと……大量のファングボアが町で暴れまくっていた。


「何故、町にファングボアが!」

 ファングボアは猪型の魔獣で警戒心が強く、レイニャさんがいう通り、人里に現れること自体珍しい。


「助けに行きましょう!」

「うん!」


 僕たちは急いで町へ向かった。

 さすがに範囲が広いのと住民が襲われているのもあって、いつもの雷撃&スパークは使えない。


 各個撃破していくしかない。


 魔法の誤爆とか最悪だ。

 だから僕は剣をチョイスした。

 立ち回りの速い二刀流だ。

 僕は斬った。

 斬って斬って斬りまくった。

 返り血を浴びるのも気にせず斬りまくった。


 幸いレイニャさんが護衛の兵を引き連れていたので、思ったよりも時間がかからず、ファングボアを掃討することができた。


「ティ……ティム……その姿は、なかなか衝撃的ですね」

 返り血を浴びた僕を見て驚くフューリー。

 自分では見えないけど中々のホラーだよね。


「そうだよね……」

 とりあえず、クリーン魔法でリセットしておいた。


「えっ、ティム今何を?」

「クリーン魔法だよ。知らない?」

「存在は聞いたことはありますけど、見たのは初めてです」

「え、そんなことはない筈だよ? だってエキスパートの頃、僕みんなに掛けてたからね」

「そうだったんですか!?」

「そうだよ」

「だから私たちは、激しい戦闘をしてもあまり汚れてなかったのですね」

「そうゆうこと」


 そんな話をしていると。

「どうやら片付いたようだな」

「「いっ!?」」

 恐らく僕よりも返り血を浴びたレイニャさんが、合流してきた。

 だって美しい彼女の金髪が赤色に、染まっているんだもん。

 僕は、そんな彼女にそっとクリーン魔法をかけておいた。


 それよりも大変なのはこれからだ。

 町中のファングボアの死体を片付けないといけないからだ。

 恐らく負傷者もたくさんいるだろう。

 

 うーん。

 負傷者はフューリーになんとかしてもらうとして、この大量のファングボアは一旦僕の仮想空間で預かるでもしないと腐って大変なことになるよね。


「騎士様、御助力ありがとうございます。私はこの町の町長、ヤンと申します」


 どうしたものかと思案していると都合よく町長がレイニャさんに挨拶に訪れた。


「礼はいい、それよりも町の被害はどんな感じだ?」

「お陰様で、数名の重傷者はおりますが死者が出たという報告は今のところ聞いておりません」

「そうか……それは何よりだ」

 本当にそれは何よりだ。

 

 おっと、関心している場合じゃないな。

 この後のことを話さないと。


「町長、重傷者は私が診ますので、案内していただけますか?」

「あなたは?」

「私はフューリーと申します。聖属性魔法スキル持ちですのでお役に立てると思います」

「おお、では貴女がフィーレンの聖女様!?」


 僕に先んじてフューリーが負傷者の話をした。

 宿場町にまで名前が知れ渡ってるだなんて流石フィーレンの聖女様。

 

 フューリーの話が済んだところで次は僕の話だ。


「町長、ファングボアの死体は僕が一旦預かっておいてもいいですか?」

「それは、構いませんが……そんなことができるのでしょうか?」

 怪訝な表情をする町長。


「ご安心ください。ティムならできますよ」

「そうだな、ティム殿ならできるな」


 なぜかドヤ顔のフューリーとレイニャさん。


 町長の許可は得たけど、一体一体回収するのは流石に骨だ。


『コーディネータ、例の照準をファングボアの死体に合わせられる?』

『誰に物を言っているのですか。そんなの朝飯前です』

 自分のスキルにこんな物言いをされるのは世界広しと言えど恐らく僕だけだろう。


『……流石コーディネーター。お願いします』

『もう終わってます。後は放り込んでいただければ大丈夫です』

 仕事が早くて助かります!


 あらかじめ僕の考えを予測してたのかも知れないな。


 そんなわけで照準を合わせたファングボアを仮想空間に放り込むと町中が緑色の柔らかい光に包まれた。


「何事だ!」

「えっ、何?」

「なっ……」


 そして光が消えると同時に大量のファングボアの死体が消えた。


「回収完了です!」

「「「え——————————————っ!」」」


 事情知る2人も今回の一斉回収は驚いていた。

 僕も驚いた。

 あの光は照準のエフェクトだったのかな。


 ——とりあえずそのことは置いといて、怪我人の治療をするため町長の案内で町の診療所に移動することにした。


「これは……」

 フューリーが驚くのも無理はない。 

 怪我人が多すぎて中々の惨状だったからだ。


 町長からは重傷者は数名だと聞いていたけど、そんなもんじゃなかった。


 フューリーは診療所に入り、重傷者の治療を始めた。

 

 ていうか、なんで一人ずつ治療するんだろう。

 範囲じゃダメなのかな。


「フューリー、範囲は使わないの?」

 とりあえず聞いてみた。


「この人数だと範囲をつかうと、私の魔力量だと足りないの」

 なるほど、そんな事情があったのか。

 フューリーはファングボア退治でも魔力使ってるもんね。


 この人数……僕の魔力量なら全然足りそうだけど。


『マスターの魔力量なら大丈夫ですね』

『だよね。ありがとうコーディネーター』


 コーディネーターのお墨付きを頂けた事だし、ここは変わった方が効率いいよね。


「フューリー変わるよ、僕まだ魔力量に余裕あるし」

「えっ、ティムって治癒魔法使えたの?」

「使えるよ、フューリーほどじゃないけどね」


 そんなわけで、僕はフューリーに代わって範囲治癒魔法を使った。

 僕を中に怪我人達が眩い光に包まれると、人々は驚きの声をあげる。


「なにこの光?」

「温かい……」

「傷が癒やされていく」


 そして光が消えた頃には、怪我人はいなくなっていた。


 それと同時に歓声が上がる。


 そしていつの間にか僕の周りに人だかりができて、みんな僕に跪いていた。

 なんだろ、このデジャヴ。


 でも、1番驚いていたのはフューリーだった。


「ねえ、ティム……」

「なに?」

「私いらなくない!?」


 フューリーはお株を奪われたことにショックを受けたようで、この後なだめるのが中々大変だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る