8:遭遇
学校から帰宅後、リビングのソファーの上でクッションを抱きしめながら、美憂が言っていたことを思い返していた。
『OLの人が言うには化け物が‥化け物が…って、手が4本ある化け物に飼っている子犬を食べられたって号泣しながら言ってたらしいの。』
あの時、私は忘れていたと思っていた夢の場面が頭の中で一瞬よぎった。夢の内容を全て思い出した訳じゃないけれど、化け物が子犬を手のようなモノで掴んでいたのだ。
それとも、話を聞いたから、その場面を想像してしまったのかな?う~わからないけど、モヤモヤする。だけどデジャブを感じたし…
「あ~~~もどかしいな」
漠然とした感じだけで、はっきりと夢の内容が思い出せないことに、つい声がでちゃった。
「茅乃何かあったの?」
「あ、お母さん何でもないよ。」
私は慌てて取り繕った。
「…そう?何かあるなら遠慮なく言いなさいよー。例えば彼氏とか!」
「ぶっ!なんでそうなるのよー」
全然思ってもみないことを言われてちょっとびっくりしてしまった。おかげで今飲んでた、アイスティーを吐き出しそうになっちゃったわよ!
「思春期の女子の悩み事っていえば、大抵は恋愛とか友達関係でしょ?だからそうなのかなって?」
うん、まあ一理はあるけどさ。
「残念でしたー。そういうのじゃないよ。」
「なーんだ。やっと彼氏でも紹介してもらえるのかと思ったのに…」
お母さんは本当にちょっと残念そうな様子だった。
「あ~悪いけど、今のところ、そういうのは全然ないから。」
「えーそうなの?あんた可愛いのに、奥手なのかしらねぇ?ちゃんと彼氏できたら言ってよーお母さんもコイバナしたいからさ。」
実はこれは今に始まったことではなく、お母さんからは何度も好きな人はできないのかと、聞かれている。期待に応えられなくて悪いけどね。
「はいはい、できたらちゃんと言うよー」
「じゃ楽しみにしてるわね。あ、話変わって悪いんだけど、そろそろジョンのお散歩行ってくれない?お母さん今食事の支度で手が離せないし。」
「あっうん、いいわよ。じゃ行ってくるね。」
私はリビングの端で寝そべっているジョンに、散歩を促した。
「ジョン~お散歩行こうか~~」
『ワフッ』
ジョンは床に寝そべっていたけれど、『散歩』という言葉に反応して、尻尾を振り振りしていた。はぁホント可愛い。
「フフいい子だね、じゃ今日は川原の方へ行こうね。」
外は日が沈みかけた夕焼けだった。うちは住宅街だけど、近くに川原があるので、散歩コースにはもってこいの場所なのだ。
「ジョン~お空が赤いよね~」
あれ?たまたまかな、今日はなんだかやけに夕焼けが濃いというか…気のせい?。それのせいなのか、私はまたフと美憂の話を思い出した。頭に浮かんだ化け物ををかき消すように頭を左右に振りまくった。
「結論がでないこと悩んでても仕方ないよね。」
『ワゥ?』
ジョンはまるで私の独り言に答えるかのように、小さい声を出した。
「ふふ、ジョン心配してくれてありがとうね。」
ヒューーーーウゥウ
風の音がする。ちょっと肌寒くなってきたかも。
「風も出てきたね。ジョンそろそろお家(うち)にかえろうか」
!!ゾクッ
なんだろう?急に寒気がした。
『ウゥゥ~~~』
ジョンも急に唸り声を上げている。
「ジョン?何か…何かいるの?」
なんだろう?悪寒が止まらない。胸がドキドキしている。何が何だかわからないけど、よくないことの前触れだっていうのだけは、はっきりとわかる!
私はキョロキョロと周りを見回した。
『ウ~~ワンワンワンワン!!』
ジョンは私に向かって吠えはじめた。
え……どうして…?
違う!!
ジョンの目は私を見ているんじゃない。私の後ろに向かって吠えてるんだ!!!そしてよくよく自分の影を見たら、それは私の影ではなく、明らかに人ではない形の大きな影だった。
…怖い、見たくはない。だけど確かめないと!私は意を決して自分の後ろを振り返った。
そこには_____
身体は赤黒いバサバサの毛で全身覆われており、腕が左右に二本ずつ身体の真ん中から生えていた。高さは男性の身長くらい?だけど横幅というか、まるで台形のように下に面積が広がって…足らしきものは見当たらなかった。顔辺りも体毛で覆われており、目も鼻もあるのかわからないけど、ただ顔があるらしい部分には、端まで開かれた大きな口があり、そこには鋭い牙が嫌でも目に入った。
『…OLの人が言うには化け物が‥化け物が…って、手が4本ある化け物に…』
私は、それを見た瞬間に思い出した。
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