第3話酒場の勇気

 夜の街道に出ると、これからどうするか考える。


「ナーゼ、お金を持っているかな、今後色々必要になって来るし、女神の仮初だろ、持っていないかな」


「昇陽、一通り困らない額は持っているわ。クロウに服を着せないといけないわね」


「昇陽様、呪いから生まれた騎士はあなたの影に収容できます。あなたの職業は召喚術師ではいかがでしょう。これから、役にたてると思います」


 元狼の死体なのに知的な印象が深いクロウは提案して来る。

 クロウを鑑定してみる。

 クロウレベル28 戦士

 HP978         

 MP245        

 力189          

 速さ475                               

 体力298         

 器用524         

 魔力134         

 幸運657

 スキル同期レベル10

 スキル夜目レベル8

 スキル鑑定レベル8

 魔法火、風

 耐性呪いレベル10

 耐性物理攻撃

 特技スキル疾風迅雷

 

 青い狼人は中々の強者だった。


「そうだね、ちなみにクロウが敵を倒すと騎士仲間になるのかな?」


「それほど、便利ではありません。あくまで昇陽の呪いで死んだ肉体が仲間になるのです。呪い師の職業も隠さなくてはね。冒険者ギルドが混乱するわ。あまりこの世界ではいい職業ではないから」

 ナーゼは説明して来る。


「成程、それじゃあ、町に行こうか、ああ獣人って普通差別や偏見の目で見られない?奴隷制度があるとか?」


「残念ながらあるわね、この辺の地域はそれほどじゃないけど、奴隷も存在するわよ」


 街道で話していると、向こうから騎馬の集団が向かって来る。何だろうと思っているとあっという間に取り囲まれた。


「どうやら盗賊に出会ったようですね」


 あまり衛生的ではない集団が、皮鎧や剣で武装して叫んでくる。


「こいつは上玉だぜ、黒い猫人とは珍しい。高く売れそうだ!!」

「お頭、青い狼人もいますぜ、残らず捕まえましょう」

「一人、黒髪の少年がいるな、まあ、女を味見してぶち殺そう」


 少年という、年齢ではないのだが、日本人だからか童顔に見えるらしい。

 女神の話では十代後半になっているはずである。鏡がないので確認しようがない。


 私も段々慣れて来て、多分ナーゼとクロウの方が強いだろうなと思う。だって、鑑定スキルで親玉が盗賊の頭レベル18しかない。

 僕は呪いで守られているのだから。


「ちょうど、服が調達できそうです。昇陽様、蹴散らしますか?」

 目を輝かせて青い狼人は姿を消す。周りから悲鳴と血しぶきが上がり、目で追えないかなりの速度で動き回り、盗賊達を蹂躙していく。特技スキルの疾風迅雷でスピード重視の狼人は、爪で喉笛を裂いて、絶命させていく。ナーゼも奪った剣で、盗賊を切り殺していく。普通の腕じゃない、達人のような剣さばきである。


 しばらく経つと、三十五名くらいの盗賊の集団の死体が積みあがる。血の匂いがする。あまり嗅いでいたくない匂いだ。


 他人の命とはいえ、殺さなければ殺されていた。軽い命だと思うが、自分達を守るためだ、納得するようにする。


「昇陽様死体は影に取り込みましょう。町で賞金がもらえるかも知れません」

 クロウは奪った服と皮鎧に身を包んでいた。


 ナーゼは普通に黒の短いドレスを着ている。女神の時とそのままだった。火魔法でわかっていたが、なかなか美人さんだ。


「クロウ、影に取り込むってどうしたらいい?」


「そうですね、影を水の様に意識することですね」

 そう助言されてやってみると、死体がずぶずぶと沈んで消えてしまう。


「さあ、盗賊の物品も影にしまって行きましょうか?昇陽」


「そうだね、コツはつかんできた」

 影に素早く収納する。馬があるので、クロウとナーゼと僕、ナーゼの後ろに乗っている。

 馬に乗ったことがないからだ。


「昇陽も馬に乗れるといいわね、後で練習しましょう」

 ナーゼが優しく微笑む。女神の時と変わらない表情だった。明るくなった街道を町の方向に向けて出発した。


 馬を走らせたどり着くと、中規模な街で門兵もいる。入るには通行手形を買うお金が必要らしい。お金はナーゼが持っていて、支払ったが、何故かナーゼを見る目がセクハラめいていて嫌だった。彼女は異世界でも特別美人の部類に入るらしい。それも色気も持っている。今後気をつけようと思い、町に入る。


 宿屋の前にゲームや本でよくある冒険者ギルドに立ち寄って登録することにした。書類に書きだして提出すると、条件があるらしい。受付嬢のお姉さん、今は自分が若い方だ。鏡を買って確認した。功績をあげなければ入れないらしい。盗賊の死体があると説明して、敷地で影から出すと、納得され、召喚術師の職業を得た。ナーゼやクロウは剣士と戦士の職業だ。


「昇陽様、珍しい名前ですね。盗賊の退治の報酬に銀貨五十枚が支払われます。まだクエストはお受けされますか?」銀貨一枚で銅貨五十枚、銀貨十枚で、金貨一枚らしい。


「いや、今はいいよ。宿屋に泊まるつもり、また明日来る」


「そうですか、しかし、この黒い猫人と狼人レベル54と28はありますね。ギルドも人材不足ですから是非立ち寄って下さい」


「わかりました、私のレベルは12か、低いですね」

 どうやら僕のレベルが上がると、仲間のレベルまで上がるらしい。同期スキルのおかげだった。

「召喚術師でそれだけの高レベルの相手を使役しているなら十分すごいですよ」


 興奮したように喋る受付嬢のお姉さん。呪いもあるしな。食事と水を取ろうと宿屋に泊まることにした。


 町の宿屋に泊まり、三人分で十日金貨一枚払い食事を取ることにした。階下の酒場で初めて酒精のある物を飲む。硬いパンとチーズを振りかけたパスタと肉と豆の煮込み、果物のサラダ。口に合う食文化があってホッとした。


 木でできたジョッキを打ち鳴らし異世界生活の始まりを祝う。

「私はいいけど、クロウはやっぱり肉が好みなの?」


「そうですね、でもこの食事も美味ですよ」

 二人はたわいのないやり取りをする。


「ナーゼ、これからどうする、目的はあるのかな?」


「そうね、仲間を増やしていけば、冒険も楽になると思うわよ」


「人間の場合呪いの対象になるのかな」


「なるわね、昇陽の呪いは特別だから」

 二人で話していると、クロウが何か気づいたらしい。


「おいおいおい、そこの獣人と人間の小僧、お前召喚術師だって?」

「こんな奴に使役されている気が知れないぜ」

「レベル12だって、俺達が指導してやろうか?」


 酔っ払いの冒険者に絡まれてしまった。またナーゼに気があるのだろうか?


 長身のクロウが立ち上がる。酔っぱらいは、戦士レベル20ある。


「おっと、お前に用はねえよ」

「召喚術師様に用があるお前じゃねえ」

 

「この方は私の主人だ、馬鹿にするのは許さない」

 かっこいい台詞を吐くクロウ。


 私は正直呪いがあるとはいえ怯えていた。恫喝が震えるのだ。


「おいおいこいつ、震えているぜ、召喚術師様は勇気あるな」

「おい黒猫さんこっち来いよ、酌をしてくれ。こんな奴価値ないだろ」


 統合失調症患者の怯えに力がはいらない。でもナーゼを渡す気はなかった。立ち上がり両腕を広げて下を向く。


「渡さない、ナーゼは私の大切な相棒だ」


 ジョッキから酒が頭に被せられる。

「お前に価値はないと俺達が話しているだろ」


 顔を近づけて酒臭い息を浴びせる。


 精神病院でもそうだった。自分に価値はない。悪夢と戯れていたのがふさわしいかもしれない。でももう違う、呪われていても、精神の病気でも私は私だ。


「冷たい、何しやがる!!?」

 頭から酒を被っている冒険者。


 ジョッキで頬を強かに殴られる。それでも吹っ飛んだのは殴った本人だった。

「何かおかしいぞ、こいつ、魔法でも使っているのか!?」


 慌て始めた冒険者は逃げ出そうとする。クロウが私の肩をポンと叩く。


「かっこよかったですよ」姿は消え去り、入り口から外まで冒険者を叩き出す。


「私の主は召喚魔法が得意でね、二度と近づくな!!!」

 狼の咆哮を浴びせる。


 三人は転げるように逃げて行った。

 ナーゼが「支払いはこちらで持つわ。好きに飲んで」


「おおお、気前いいな、姉ちゃん達」

「ありがとう、あいつら、新人潰しで有名だよ」

 同じく獣人の女給がサービスで酒精を置いていく。


 まだ酒には苦手な私だがこの一杯は特別美味かった。


「昇陽、仲間を増やしましょう。これから、二人では対応できないことが増えるわ」

「魔法使いが入ると便利ですがね」

 ナーゼとクロウが話してくる。


「クエストを受けようか、ドラゴンなんか仲間になってくれると嬉しいし憧れだな」


「明日探してみましょう。クロウいいわね」


「主人の望みのままです」


 改めて乾杯して夜まで飲んでいた。早々に潰れ、ナーゼに運ばれて、部屋で休むことになった。装備品も必要かなと思い、明日武器防具屋も回ることにして眠りについた。


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