憂鬱そうなヒロインと相席しました

坊主方央

1話

少しだけ散歩したつもりが、何故かラーメン屋に入店していた。


腹の虫には逆らえない。そして私は店員に案内されて、テーブル席へと座った。


「はぁ...」


私が椅子に座ってから、少し時間が経った頃だろうか。後から目を引くピンク色のトップスに白の花柄のスカートを着た大学生ぐらいの女の子が入ってきた。


憂鬱そうな、この世の物に渇望を見いだせずにいるような感じだった。何にせよ、元気がないのは明らかだった。


「あぁー、お隣いいですか」


生気のない声でそう彼女は言った。鉛で喉を圧迫されて、その辛さが神経にまで行っているみたいだった。


見た目だけ見れば、華やかで若さと青春が上手いことミックスされた可愛い子なのに、それに似合わない表情をしている。


「...ありがとうございます」


彼女が元気になったらどれだけ可愛いのだろうか。そんな軽い気持ちで彼女に話しかけた。


「大丈夫ですか」

「えっ...?あぁ、私、そんなに酷い顔してましたか。早く元気にならないと...」


見ず知らずの他人に心配されて、びっくりしているようだ。


「あー、お兄さんはここによく来るんですか?」


気まずそうに彼女は言った。愛想笑いをしているが、口角があまりにも上がっていない。


「初めて来ました」


彼女は初めて来た私に対して、警戒心が少し薄れたみたいだった。


「そうなんですね、いやーここのラーメンは美味しいから来て正解ですよ。私は小さい頃から来ているんだけど、やっぱり唐揚げ定食が1番美味しいんだよ」


食べ物の話になったら、彼女は少し明るくなった。テンションが上がっている所を見ると中身は子供なのだなと思った。


「お兄さんも唐揚げ定食にしましょうよ。初めてなら頼んだ方がいいって」

「ならそれにします」


そこまで言うのなら、ここの唐揚げ定食はさぞかし美味しいのだろう。


「じゃあ私も頼みますね」


店員が来て、彼女が私の分も頼んでくれた。


「浮かない顔をしていたが、何かあったのですか」


さっきまで少しだけだが元気になっていた彼女はまた元の憂鬱そうな顔に戻った。


「それは...ラーメンが来てからでいい?私の話、多分だけど途切れ途切れになってしまうと思うので」


途切れ途切れ、ということは憶測だが相当辛い事があったのだろうか。


「本題に入るの前の話ならいいよ。あ、お兄さんって、彼女とかいた事ある?」

「そういうのは秘密裏にしておこう」


別に秘密裏にしなくてもいいのだが、独身のろくでもない恋愛話なんて言うだけ無駄だ。


私がそうやって話をあやふやにしていると、彼女は悪い笑みを浮かべた。


「お、中々怪しい反応ですなぁ。その反応は今も昔もいないって事でしょ?」


私はそのまま黙っていることにした。


「何かナンパみたいになっちゃったけど、ナンパじゃないからね。あくまで話の前フリとして聞いているんですから」


プリプリ怒っている。本来の彼女は明るいおてんば娘なのかもしれない。


「それを聞いてどうするんですか?」

「どうするも何も、ただ聞いてみただけ。あはは、お兄さんって真面目ちゃんタイプ?」


彼女はただ好奇心で聞いただけなのだろう。


そして、真面目ちゃん。久方ぶりに聞いたその言葉に少し懐かしさを感じた。


「あ、そうだ。お兄さん良い人だし、特別に私の名前を教えよう。私は白浜蓮芸シラハマれんげ、よろしく」


警戒心を解いてくれたのかだろうか、はたまた偽名なのかは謎だ。


「私は名乗らないでおこう」

「えっ。お兄さんもしかして危ない職業の方じゃないですよね?」


白浜さんは私の発言を深読みしているようだが、理由はとても単純なものである。


「お兄さん呼びが嬉しいからだ」


私は若い時から老け顔で、青年の時でもオッサン呼ばわりされていたぐらいだ。だからこそ、実年齢とほぼ同じぐらいの敬称で呼ばれるのが嬉しいのだ。


「変なこだわりっていうか、なんというか。ごめん、これにはちょっとドン引き」


彼女は血の気の引いた顔から引きつった笑顔へと変わっていった。


「お待たせしました唐揚げ定食です」


そして店員が定食を持ってくると、彼女は目の色を変えて嬉しそうにした。百面相という言葉は彼女のような人にあるのではないかと思った。


「お、来た来た。ほら、ここの唐揚げ大きいし皮だってこんなに付いているし、めっちゃくちゃ美味しいんですよ」


大きい唐揚げをお箸ですくい上げて、彼女はウキウキしながら説明している。


「ラーメンが来たら、白浜さんは本題を話すと言っていたが」


私は彼女があんなにまで落ち込んでいた原因の話を聞きたかったのだ。


「ん?あぁ、そーんな事言っていたましたねー。よく覚えてましたよねー」


感心しているのか、それとも忘れていたのだろうか。そして彼女は話し始めた。


「私、今好きな人が居るんです」

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