第9話:友達の姉ちゃんだけ来たんだが


「よっ、久々」



 ふわっとした半袖のシャツの下には、スポーツウェアなのか、スポーツブラなのか、なんかぴったりしたヤツを着込んでいるお姉さん。それがちらっと見えるのがエロい! ズボンはぴったりしたダメージジーンズ。


 金髪に少し近い茶髪はロングで、後ろで一つ縛ってある。そして、ここでニカッとした笑顔!モテまくりだろうけどなぁ。可愛いだけじゃなくて、カッコイイ。



「あたしのこと覚えてる?」



 ファストフードのテーブルだというのに、俺の隣の位置にきて身体ごとこっちを向いてる。


 彼女の名前は橋本珊瑚はしもとさんごさん。俺の友達、橋本貴行たかゆきの姉。あいつのうちには何度か遊びに行ったことがあるので、珊瑚さんとは何度か会ったことはあるし、話したこともある。



「も、もちろんですよ」



 彼女は確か1個年上。俺が知る高校時代の時の彼女と比べると、一段と垢抜けたというか、洗練されたというか、綺麗になった。



「んー……」



 めちゃくちゃ至近距離で俺の目を覗き込んでるんだけど……すげえ気まずい。


 この人メチャクチャきれいなんだよ。俺の顔は絶対真っ赤だ。こんなに近いってことは、こっち(2022年)の俺となんらかの交流があったのだろうか?



「あのー……」


「あ、ごめんごめん。懐かしくて」



 彼女は慌てて離れた。こんな自由な人だっただろうか。それよりも橋本(俺の友達の方)はどうした⁉



「あ、ごめん! ちょっとトイレ行ってくるね!」



 自由だ。とても自由だ。ノリとかがリア充のそれだ。俺とは根本が違う。橋本が来ないならすぐに帰りたいんだけど……



 *



「おまたせ~」



 ガラスの窓から外を見ていると肩をポンと叩かれた。



「あ、ちゃんと手は洗ってるからね!」



 そんな情報は要らないし。当然洗っててほしいし。


 相変わらず、俺の隣に座った。4人がけのテーブルを選んだのに向かい合わせじゃないんだ。


 この距離感……もう、浮気じゃないだろうか。万が一、藍子さんに見つかったらやきもち妬かれるパターン!?



「ねぇ、タイムリープってホント? そこんとこ詳しく!」



 珊瑚さんは珍しく若干鼻息が荒い。そして、顔が近い! それよりも、貴行の方はどうしたんだよ。



「あの……貴行は?」


「あ、あー、あいつね。寝てる」


「寝てる!?」



 LINEで呼びだしたし、会うって言ってたのに寝てるの!?



「あいつめー!」


「……あいつも色々あんのよ」



 そんな事はどうでもいいでしょう、とばかりに興味なさそうな珊瑚さん。結局、いまこの時間はなんの時間なんだよ。



「それよりも、大丈夫?」



 珊瑚さんが俺の髪を触る。距離感が近いよ!



「な、何がですか?」



 俺は身を引きながら答えた。



「いや、タイムリープなんでしょ? 色々変化ないの?」


「うーん、身体がだるいことくらいですかねぇ」


「ちょっと、大丈夫なの?」


「ええ、まぁ」


「飲み物は?」


「とりあえず、コーラを」


「え⁉ シェイクじゃなくて!?」


「え? まあ……」



 俺がシェイク好きって以前に言ったっけ?



「あ、ね! アカウント交換しよう」


「え? なんで?」


「まあ、いいからいいから。貸して!」



 俺はスマホを取り上げられ、アカウント交換されているようだ。なんだよこの人。自由過ぎるわぁ。



「うわっ! やっぱり!」


「どうしたんですか? あ、ううん、いいのいいの」


「はぁ……」


「ほいっ、じゃあまた連絡するから! あの女に見付かないようにね」



 そう言うと、珊瑚さんはそそくさと店を出て行ってしまった。「あの女」とは藍子さんのことだろうな。全然事情が分からないよ。俺はどうすれば俺の現在(2021年)に帰れるんだよ!?

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