第7話:彼女を前にヘタレたいのだが

「(ごくり……)」



 無意識に息をのんでしまった。



「あ、ごめん。女があんまり前のめりだと引いちゃうよね!?」



 ベッドに座っている俺に対して、彼女は俺に覆いかぶさるように向き合っていた。俺は、彼女と付き合っていたのかもしれないけれど、それは未来(2022年)の俺だ。


 現在(2021年)の俺は、大学に入学してすぐの頃の俺。彼女とは付き合っているどころか、友だちとしての関係も怪しい。


 それでいきなり彼女とそう言うことをするとなると、躊躇するというか、罪悪感があるというか……


 彼女が一歩引いてくれて、ほっとしたような、ガッカリしたような……



「今日は、別々にお風呂入ろうね。ゆっくりね、ゆっくり」



 彼女が振り返りながら、いたずらっぽい表情で言った。ちょっと待て。俺は彼女と日常的に「一緒に」お風呂に入っていたのか⁉


 この1年で俺に何が起きた!? 童貞卒業は彼女とは別らしいし、急なモテ期が俺にも到来したと言うのか⁉ なぜ、俺はその時のことを知らない!? そこをスキップしたらダメだろ!


 藍子さんは、風呂場に入る前にドアの前で一旦ピタリと止まって、ちらりとこちらを見た。



「覗く?」



 ずるっ、ベッドの上で崩れる俺。



「すごい! 本当にいつもの隆志と違うんだね!」



 日常の俺がどんなリアクションをしていたのか気になるよ!



 *



 風呂に入った後、俺たちはセミダブルの二人で寝るには少し狭いベッドに横に並んで横になって、天井を見ながら話をした。


 彼女はその後、俺のことを揶揄ったりしなかった。ありがたい。彼女から「俺の日常」について教えてもらった。自分のことを他人に聞くというのは変な感じだ。


 俺は、この部屋で彼女と半同棲のような生活をしているらしい。俺と彼女が付き合い始めたのは大学に入学してから約半年くらいしてかららしい。


 つまり、俺の「初めての相手」とは大学に入学してから半年までに出会って、「いたした」ということか。高校の時のやつなんて橋本くらいしか つながりがなさそうだったけど、藍子さんとはどこで会ったと言うのか。


 共通点なんてなさそうだ。



「俺たちはどこで再会したの?」


「うーん、再会というか……大学で見かけて、私が声をかけて……告白したの」


「え⁉ 藍子さんから!?」


「もー、『藍子さん』とかやめてよぉ」


「ごめん、ごめん。俺の中では、まだ『聖さん』って感じでさ……」


「それも寂しいな……じゃあさ、今日は、手をつないで寝よ?」



 彼女の方を見てみると、少し頬を赤くしていて、はにかんでいるようだった。本当に可愛いと思った。


 俺たちは手を握って、俺は次第に眠りに落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る