第4話:彼女にタイムリープの話をしたのだが


「(げほっげほっ)」


「もう! そんなに慌てなくてもいいのに。ゆっくり飲まないとぉ!」



 500mlのペットボトルのスポドリを勢いよく飲もうと思って、のどに引っ掛け、盛大にむせた。



 聖さんが心配してくれて口を拭いてくれた。彼女はどうもすごく甲斐甲斐しい。高校時代はそんな素振りはなかったのだけれど……これが付き合うって言うことだろうか!? 彼氏、彼女になるということだろうか!?


 そういう意味では、彼女には話していいのかもしれない。俺がタイムリープしていることを。



 *



「タイムリープ?」


「うん」


「隆志が?」


「うん。そうみたいなんだ。1年くらい前から飛んできたみたいで……」


「でも、さっきは……」


「ごめん、あれは話を合わせただけで……」


「……じゃあ、ケンカの話は?」


「ごめん。全然覚えてない」


「ホント!?」



 彼女は、むしろ喜んでいた。俺の記憶がないことを。そんなにひどいケンカだったのだろうか。もしかしたら、俺はそのケンカを事前にやめるために未来に来たと言うのか!?


 そうだとしたら、ラノベやマンガの物語と比較すると、えらくちっぽけなミッションのためにタイムリープしたものだ。



「ちなみに、2021年から2022年になって何が変わった?」



 俺はもう少し情報を集めたいと思っていた。単に倒れて頭を打っただけなら、聞いているうちに思い出すかもしれない。



「うーん、1年だからねぇ……そんなに変わってないけど……私と隆志が付き合い始めたでしょ?」


「うん……まさか、こんな可愛い子を彼女にしてるなんて、俺もやるもんだと思った」


「ホント!? 喜んでる!? 嬉しい!? 私が彼女で!!」


「そりゃあ、こんなに可愛くて、甲斐甲斐しく面倒見てくれて、心配してくれる彼女だったら嬉しいに決まってるじゃないか」


「ホント!? 嬉しいっ!」



 彼女は、また俺の首に抱き着いて、最大級に愛情表現する。やわらかいし、いいにおいがする。俺は抱きしめ返していいものか、まだ躊躇している具合だ。


 これまで彼女がいなかった俺としてはテンパってるけど、彼女からしてみたら俺はついさっきまでこうして普通に接していたのだろうから、俺がここで狼狽えるのは不自然だろう。



「あれ? 赤くなってるの? タイムリープってホントにホント?」


「ホントだよ。まさかひじりさんに抱き着かれるなんて……」


「聖さん! 久々に聞いたよ。いつもみたいに藍子あいこって呼んで」


「藍子……」



 俺にとっては「いつも」ではないので、益々落ち着かないのだけど。



「どこまで憶えてるの?」


「え?」


「その、タイムリープしたっていう隆志は、どこからきた隆志かなって」


「うーん、東京オリンピックは延期になった」


「そりゃあ、オリンピック延期は2020年だったからね。2021年に開催されたよ? 他には?」


「逆に、どんなことがあったか教えてよ。それで思い出すかもしれないし」


「ああ、なるほど。ちょっと待ってね……」



 そう言いながら、彼女はスマホを操作して、次々色々なことを言った。



「コロナは続いている。2021年より感染者数は増えたかな」


「え!? あれ以上増えたの!?」


「全国で10万人超えたよ」


「え!? 10万!? 福岡は!?」


「福岡でも1万2千人超えたね」


「マジか!?」



 地元福岡では、新規感染者は(俺の記憶では)多くて1000人とかだったので、驚いた。確かに、俺の知らない事実が存在する。



「あと、ロシアとウクライナの戦争が始まったしねぇ、ビットコインが値を下げて、半導体が品薄になって……」



 ウクライナってどこだよ。ロシアと戦争って穏やかじゃないな。ビットコインは興味がないから知らん。



「そうそう、2022年4月1日から成人が18歳になったよ」


「え? そうなの!?」



 おれ、俺は2022年では20歳……かな? じゃあ、どっちにしても成人!? あんまり関係なかった……



「あと、総理大臣がきっしーになった」


「誰? きっしー」


「岸田総理大臣」


「知らん……」



 確かに俺の知らないことが山盛り出てきた。やはり、俺はタイムリープしていると考えてよさそうだ。

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