第44話 洞窟大作戦

色々あったが、無事に次の日。

朝起床して、寮から出ると、何故か待ち合わせ場所ではなく、寮の前にヒナミとレイアがいた。

しかも、レイアはかなり疲れた顔をしている。


「ど、どうした?」


「この女…隙あらば進入しようとして…」


ヒナミは首をかしげているが、既に何度も部屋に侵入されている身からすると、その光景が目に浮かぶ。


「お疲れ様レイア…。それとありがとう…」


俺はレイアに握手して感謝した。

さて、そんなことがありつつも、集合場所であるブーギーメーシィの店にやってきた俺たち。

ブーギーとメーシィも準備万端で俺たちを待っていた。

2人ともいつもの格好では無く、作業服のような、厚手の服を着ているようだ。


「一応、これも骸具なのよ。ただ頑丈なだけな服だけど」


「それなら安心だな。じゃあ、早速行こうか」


俺たちは5人で洞窟を目指して歩く。

街の東には森が、西側には平伏の黄原があるが、南側には特になにもない。

木々もあまりなく、まさしく平原といった光景が続く。

そうして歩いていくと、岩山が壁のように行く手を塞ぎ、行き止まりとなるのだ。


今回見つかったその洞窟は、岩山の一部が剥がれ、そこに内部に続く道が発見されたということらしい。

片道3時間ほどの道のりを歩き、岩山までやってきた俺たちは、例の洞窟への入り口を探して歩いていた。


「にしても、本当に絶壁!って感じなんだなあ。山の向こうにはなにがあるのかとも思ったけど、これじゃ上れないわ」


俺は上を見上げながら歩く。

動物が住んでいる気配もなく、本当に壁のように岩山がそびえ立っている。


「ここまで壁みたいだと、人為的なものを感じてしまうわよね。ホント、この壁の向こうにはなにがあるのかしら!もしかしたら今回の洞窟がトンネルで、向こうに行けるかもしれないと考えると、いてもたってもいらんないわ」


鼻息荒く、岩山を見つめるブーギー。

興奮する気持ちも分かる。正直俺もわくわくしている。


「どのあたりで洞窟が見つかったのかは分からないのかしら。闇雲に探しても、時間だけを消費してしまうわ」


レイアは腰に手を当てながら山を睨んでいる。

確かに、探し始めてから数十分が経過している。

岩山は右を見ても左を見ても切れ目が見えないほど続いている。

しらみつぶしに探すとなると、数日かかりそうだ。


「一応ね、この辺だっては聞いてたのよ。でも全然見つからないわねー!」


「テンションおかしくなってるな」


うーん、5人で見ているのだから、見落としもないだろうし…。


「あれ、そういえば、その洞窟を見つけたのって、オカコ族って言いましたよね。飛んでいる最中に見つけたなら、上から見えるところにあるんじゃないですか?」


メーシィが恐る恐るといった感じで意見を出す。


「…ありえるな」


俺は改めて岩山を見上げる。

確かに絶壁ではあるが、上れる部分がない訳ではない。

洞窟の入り口ということで地面から地続きのものを想像していたが、入り口が縦穴ということも十分にあり得る。


「よし、良い作戦を考えた。レイアがヒナミを高く上に投げ、ヒナミが上から洞窟を探す。どうだ?」


この作戦の問題は、仲の悪い2人が協力するかというところだが。


「いいですよ」


「ええ、いいわよ」


「え!?いいの!?」


自分で提案したくせに、驚いてしまった。

ぶっちゃけ内容も適当に考えた冗談みたいな作戦だったんだが。


「じゃあ、行くわよ」


レイアが早速ヒナミを空高く投げる。

相変わらずすごい膂力だ。10mくらいは飛んでいる気がする。

と、見ていたら、身体が空中に吸い寄せられ始めた。


「うおおおおおおおお!?」


宙に浮かんでいく身体。

ヒナミの能力である引力によって引っ張られている!!


「っ!」


レイアが咄嗟に俺を掴むが、かなり引き寄せる力は強い。

レイアもろとも空中に吸い寄せられてしまった。

空中でヒナミにキャッチされる。


「このまま2人で探しましょうか♡」


「いやこの高さは着地できない!落ちたら死ぬ!」


レイアの全力はやはりすごい。高度は15mを超えている。下にいるブーギーメーシィがどんどん小さくなっていく。


「分かってるんですよ、私を投げて、キャッチしないで殺すつもりでしたね?」


「死なないでしょうどうせ貴方は!」


そろそろ上昇が止まる。

即死しなければ、なんとかなると思うので、折角なので洞窟の入り口を探すことにした。


「あ、見っけ」


メーシィの言うとおり、一部平らになっている部分に穴が開いていた。なんだかこの世界に来たときの大穴を思い出す。

そして、目的は達成しただろうと言わんばかりに、身体が落下を始めた。


「足から着地すればなんとか…!」


でも、きっと死ぬほど痛いんだろうな。肉体はなんとか無事でもショック死したりしないだろうか。


「大丈夫、私が下で受け止めるわ」


そう言ったレイアは、ヒナミの身体を空中で蹴り、少し落下の速度を早める。

そうして俺より早く着地したレイアは、俺をしっかりと受け止めた。


「た、助かった…」


俺は汗を滝のように流しながら、地面に降りた。

2本足で立つことのありがたみを実感する。

レイアに蹴られたことで少し遠くに吹き飛んだヒナミは、ぐちゃりと不格好に着地した。

普通の人間なら間違いなく死んでいる。


「きゃああああああ!!」


ブーギーの悲鳴が響き渡る。


「大丈夫だ、ブーギー、ほら見て」


俺が指を指すヒナミを、恐る恐る見るブーギー。

ヒナミは、むくりと立ち上がり、何事も無かったかのように俺の隣にやってきた。


「楽しかったですね、空の旅」


「俺は死ぬかと思ったけどな」


「ええ…」


普通に話す俺たちを見て、ブーギーは引いていた。


§


「さて、さっそっく洞窟探検といきますか」


俺たちは岩山を少し登り、洞窟の入り口まで来ていた。

上から見たときは底が見えない穴に見えたが、近づいて見てみると、傾斜になっていて、降りるためにロープなどは不要のようだ。


「ヒナミ、先頭行けるか?」


「貴方と一緒なら…」


言うと思った。

まあ、この場でヒナミの次に死ににくいのは俺だろうから、前に出るのは妥当か。


「レイア、後ろ任せていいか?」


「ええ、分かったわ」


素直に殿を勤めてくれる。

前までのレイアだったら、自分が一番前に出て、俺を守ろうとしただろう。今はこうして俺を信用してくれている。


「私たちのこと、見ててくださいね」


「………」


ヒナミのことは目だけで殺せそうなくらい睨んでいるが。

ヒナミ、俺、ブーギー、メーシィ、レイアの順に並んで歩く。

洞窟内はひんやりとしていて、かなり涼しい。また、全体的に湿っていて、床や天井などは塗れていた。


「メーシィ、滑って転ばないようにね」


「大丈夫だよ。姉さんこそ、素材探しに夢中になって転ばないようにね」


姉弟が声を掛け合いながら進む。

洞窟内は光源がないため、事前に用意していたたいまつに火を付けて歩いていた。

先程言ったように足下が濡れていることに加え、素材になりそうなものないかどうかを確認しながらの行軍であるため、かなり足取りは遅い。

幸い、獣などはいないようで、戦う必要がない。こんなところで戦闘することになれば、転ぶし、剣も振れないし、最悪だろう。


「にしても、素材になりそうなものもないな」


ずーっと、岩のトンネルが続いているイメージだ。

今も斜面になっているため、岩山の向こうに向かっているというよりは、岩山の地下に向かっているような形になる。


「最近できた洞窟なのかもしれないわね。だから、まだ獣も居着いていないし、植物なんかも根付いていない」


「そうかもしれないな。偶然出来た通路って感じかな…」


「えー!そうなると、結局このまま何もありませんでしたってこともあり得るの!?」


「まあ、あり得るだろうなあ…」


俺はレイアとブーギーと話しながら進んでいく。

でも、ブーギーが言うとおり、何の成果がないというのも嫌だな。


「その心配はないみたいですよ」


一番先行していたヒナミが俺の手を取る。


「あ、本当だ」


通路の先に開けた空間が見える。

俺たちは少し歩くスピードを早めて、通路を進む。

通路から見える空間はかなり広く、またどこからか高原があるようで、たいまつが無くても明るそうだ。


「うわ、すごい」


メーシィが思わず声を漏らしてしまうのも分かる。

通路から見えていた空間は、俺たちが想像していたものよりもかなり大きかった。

天井部分は穴が開いており、ほのかな光が差し込んでいる。

さらに、周囲には赤色と青色に光る苔のようなものが生えており、それらも辺りを照らすことに一躍買っていた。


そして、一番目を引くのは、空間の中心に鎮座する湖だろう。地底湖とでも言えば良いのだろうか。かなり大きく、ここから対岸が見えず、さらには水底も見えない。


「これは…調査のし甲斐がありそうね!」


ブーギーのテンションが目に見えて上がっている事が分かる。それでも、急に走り出したりせず、周囲に危険がないか観察しているところは流石だ。


「獣はいないようね」


しばらく周りを見ても、それらしきものは見当たらない。

強いて言うなら、底が見えない湖が怖いが、かなり透き通っている水中の見える範囲には小さな魚しか見えなかった。


「よし、各自自由行動だな」


ある程度安全を確認したため、俺たちは分散して調査を行うことにした。

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