第14話 幼馴染から借金
ハルキの助言に従うため、早速俺はブーギーの店に鉄の棒を探しに来ていた。
「なるほど、それで鉄の棒ねー。在庫でよければこういうのがあるよ」
ブーギーは奥から2mくらいの鉄製の槍を持ってくる。穂先だけでなく、柄まで鉄でできているようだ。
「それどんくらい重いんだ…?俺持てる…?」
軽々しくブーギーは持っているが、俺にはどうだろうか。
「大丈夫でしょ、ほら」
「投げるな!?」
慌てながらもなんとかキャッチしようと身構えたが、横から伸びた腕が何気なく片手でキャッチする。
「紳弥が持てなくてもいいのよ。私が持てれば良いのだから。あの木もそう言っていたでしょう」
「お、おう、ありがとう」
かなりの重量だろうに、彼女は軽々と持ち上げて見せる。さすが転生者の身体能力と言うべきか。
「その子が紳弥が会いたかった幼馴染?」
ブーギーがレイアを見て言う。
彼女にはそういえばさらっとだが事情を話しているのだった。
俺はブーギーの問いにうなずくと、彼女はレイアをまじまじと見る。
「確か転生者って言ってたよね。アタシ転生者初めて見た」
「あまり物珍しそうに見ないでもらえるかしら。見世物じゃないの」
少し尖った返事をするレイア。
てっきり当たりが強いのはハルキに対してだけだと思っていたが、そうでもないらしい。
元の世界ではあまり友好的でないにせよ、こんなつっかかるような言い方をすることは少なかったと思うが。
「ああ、ごめんなさい、そんなつもりはないの!」
普段人間から奇異の目で見られることが多く、まさしくそのことで苦労しているブーギーは慌てて頭を下げた。
そんなリアクションが返ってくるとは思っていなかったのか、レイアは少し驚いたように、
「こちらこそ言い過ぎたわ。ごめんなさい」
と素直に謝罪した。
微笑ましくその光景を見守っていると、レイアがこちらにやってきて、小声で言う。
「紳弥貴方、この世界に来てから随分女の子の知り合いが増えたみたいね。案外エンジョイしてるんじゃないの」
「え、もしかして妬いてるのか?」
「調子に乗らないで。ただ異世界デビューをキメようとしているならやめたほうがいいと思うわよ」
「異世界デビューって…ははは…」
そんなにこの世界に来て格好つけてるように見えるのだろうか…。
「ところで用はそれだけ?ただアタシの店でいちゃつきに来ただけなの?」
ふいにブーギーからそんな声をかけられる。
「いやそんな邪険にするなよ」
「ふふふ、冗談よ。仲良しでなによりだわ。再会できて良かったわね」
彼女は俺とレイアを見て微笑みながらそう言ってくれた。
「おう、ありがとな」
「いえいえ、貴重な人間のお客さんだからね。ゆっくり見てって」
ブーギーはそう言って店の奥に引っ込んでいった。
まあ、そうは言いつつも、ぶっちゃけ見るものはほとんど無い。
自分の武器は持っているし、それにもし仮に何かほしいものがあったとしても金がない。
というか、最初に来たときは調査団からもらった金で武器を買ったが、今回はその金はない。
あれ?この槍の支払いどうしようか。
「…レイア、金持ってるか?」
「最低よ貴方」
とても冷ややかな目で見られた。
とはいいつつも、なんだかんだレイアが支払いを持ってくれた。
飾りっ気もないただの槍だったので、だいぶ安かったが、金額は問題ではない。
店に連れて行ったのに実は金が無くて借りたという事実が問題なのだ。
でもしょうがないじゃないか。調査団から給料出るのかは知らないが入団してまだ2日しか経ってないし、そもそもこの世界に来てまだ数日しか経ってないのだから。
ただ、しょうがないで済む問題ではないのではないか。よくよく考えれば、寝床や食事はどうするのだ俺は。
「なあレイア。俺、レイアの家で暮らしてもいいか?」
「だめよ。同棲になってしまうじゃない」
「元の世界でもほぼ同棲みたいなもんだったろ?」
「いいえ。確かにほとんどの時間を紳弥の家で過ごしていたかもしれないけど、泊まったことはほとんどないはずだわ」
確かに家が隣なのもあって、どんなに遅くなっても礼亜は家に帰っていた記憶がある。
「野宿か…?」
「癪だけど、あの木に頼ってみなさい。それで駄目なら一緒に考えてあげるから」
「うい」
俺は端末を起動して、ハルキを呼び出す。
呼び出し音が鳴る間もなく、ハルキに繋がった。
「もしもしハルキ、教えて欲しいんだけど、俺の寝食って調査団で保障してくれたりするか?」
「ああ、そういえば君、入団した後のレクリエーションとかやってなかったもんねえ。大丈夫、寝る場所は調査団の寮があるよ。食事も、朝と晩は出る。もちろん料金は発生するけど、最初の一ヶ月だけは無料さ」
福利厚生は完璧だった。ありがとう調査団。
「ん?最初の一ヶ月はってことは、もしかして月給制か?」
「そうだね、働きに応じて支給されるよ」
「おお!」
「つまり成果がなければ雀の涙ほどしか支給されないけどね」
「俺、調査頑張るよ」
「はい、頑張ってね」
ハルキは笑いながら通信を切った。
「頑張って平伏の黄原の調査しような」
俺はレイアに微笑む。
「目的を見失わなければなんでも良いわよ」
しかしレイアは呆れていた。
「話聞こえてたんだけど、お金が必要ならいい話があるよ」
店先で電話していたから聞こえていたのか。ブーギーが店から顔を出す。
「いい話?」
「うん。アタシら姉弟の目標に関する話なんだけど…まあ、とりあえず食堂来て」
「姉弟?弟がいるのか?」
「ええ、食堂は弟が経営しているの。まだ見てなかった?」
「前回はちょっと急いでたし、今度来てみようと思ってたんだ」
「あらそう、ならちょうど良いじゃん。こっちきて」
「おう」
俺はブーギーの後をついて行く。
相変わらず温泉の入り口みたいな分かれ方をしている道を、鍛冶屋ではなく食堂の方へ行く。
すると、食堂の暖簾がかかっていて、営業中であることが分かる。
暖簾をくぐると、飯時も過ぎているからか、それともあまり繁盛していないのか、客は少ししかいない。
厨房で働いていた男性…いや男の子というべきか…は、俺たちの姿を見つけると、カウンターの脇を抜けてこちらへやってきた。
「ごめんなさい、なかなか手が離せなくて。呼びつけてしまいました」
申し訳なさそうに頭を下げる彼に、ブーギーは、
「呼びにいったアタシにも感謝しなさい」
と偉そうにしていた、どこの世界でも姉は尊大だ。
「うん、ありがと姉さん」
律儀にお礼を言った彼は客がいない隅の席に俺たちを案内する。
「どうも、初めまして、メーシィと言います」
席に着くと、メーシィと名乗った彼は頭を下げた。
一体どんな話をしてくれるのだろうか。
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