第3話 思ったより怖い?

 大陸から数百キロメートル、海面には夏の日差しが降り注いでいる。眩しい光の世界。

 しかし、海面から200mも潜れば太陽の光がほとんど届かない闇の世界となる。この星の大半は海。そして海の大半は太陽の光が届かない闇の世界である。

 そんな闇の世界に僕らはいる。





 ニノの話を聞いて色々と分かったことがある。

 ニノは見たり聞いたり実際に経験したことを記憶することが得意らしい。その反面、思考したり指示を出したりするのが苦手とのことだ。

 従って思考したり指示を出すことが第一の脳である僕の役割だ。


 それからニノは第一の脳に接続した時に前世を含めた僕の記憶を共有したとのことだった。だから僕の知っている言葉でこちらの世界のことを話すことが出来るらしい。ニノはとても有能だ。


 ん? でもちょっと待って。

 前世の記憶ということは、過去の恥ずかしい出来事を全部知られてるということなのでは? 銀髪の美少女に。

 いやいやいや、それはマズイでしょう。こんなのに指示されたくないとか思ってはいないだろうか。転生したばかりで右も左も分からないんです。ニノ様、どうか見捨てないでいて下さい。


 そして、身体を動かすことも主にニノの担当だ。

 僕の仕事が少ない気もするが、気のせいということにしてほしい。転生したらヒモだったって人聞きが悪すぎる。


 つまり今までは動作担当のニノが現れていないから、自由に身体が動かせなかったということか。

 まだぎこちない状態ではあるけれど、ニノに指示を出せば動くことが出来るようになってきた。これで身動きの取れないどうしようもない状況からは脱出だ。


 まだまだニノに聞きたいことは、たくさんある。だがしかし、今の実際の姿は人間ではない謎の巨大生物。動けるようになった今こそ、まずはどんな姿なのかを確認してみたい。


---------------ニノ、明るい水面まで浮上して。


《はい。行きますよ》


 ニノは指示を聞くと、上手に身体を使って浮上を開始した。

 凄い勢いで海面に向かって浮上していく。こんなに泳ぐのが上手かったんだ。


ザッバアァァァァン!!!


 泳いだ勢いのまま飛び出すように海面へ上半身を突き出した。

 大きく海面が盛り上がり、大量の水しぶきが空中を舞う。さらには海面にちょっとした渦まで出来ている。自分が怖い。


 えっと、これは!

 思っていたより大きい! 思っていたより大きい!

 大事なことなので2回言った。

 海面から出ている部分だけでも10m近くありそうだ。

 そして水中は、その4〜5倍ぐらいはあるだろうか。


---------------思ったより大きいんだけど?


《そうですか? 最初に巨大だと伝えましたよ》


 確かに言っていたけれど。


 皮膚の色は焦げ茶色。日焼けではない。

 それに何か稲妻のような縞模様もあるようだ。今は水に濡れているので全体的に黒っぽく見えるだけなのだが。


 そんな焦げ茶の皮膚は、鎧ように堅そうでいてデコボコ、ガサガサしている。お肌の手入れがなっていない。


 腕は2本、身体の割には小さくて頼りない。しかも指は4本しかない。

 これで物を掴めるのだろうか? 不器用そうだ。


---------------腕、使い難くない?


《人間のようには使えません。ごめんなさい》


 責めているわけじゃないから謝らないで。ニノが少しシュンとしてしまう。一緒に腕を使う練習をして、少しでも使えるようになっていきたい。


 脚も2本。太くて屈強そうだが、とても短い。

 頼りない腕に対して、この頑丈そうな脚ということは、地上で二足歩行が出来るだろう。元人間としては嬉しいところ。常に四本脚で這いつくばっているのは、元人間としては辛すぎる。


 それから最も違和感があるのが尻尾である。人間には尻尾がないからなのか、なんとなくムズムズする。

 そして、その尻尾。とにかく長い。身長と同じぐらいの長さがありそうだ。頭から尻尾の先までの全長だと、100mを超えている?


 泳ぐのが得意そうだったけど、この立派な尻尾のおかげかな。もしかしたら便利なのかもしれない。


---------------人間には無いから分からないんだけど、尻尾は役に立つの?


《はい。便利です。使い道も多いですよ》


 今度は、ニノが少しドヤってる。可愛いな。

 使い道についてはおいおい教えてもらって、使えるようになっていこう。


 最後に気になるお顔は鏡がないからわからない。これもニノに聞いてみる。


---------------顔に特徴はある? イケメン?


《もちろんイケメンです。特徴は3本のツノです》


 イケメンって本当か。ニノさん、適当に言ってない?

 でも僕の記憶を共有しての解答だから僕好みの顔ということだろうか。僕好みの巨大生物の顔……うーん、全く分からない。

 それにしても3本のツノとは、少し厨二心をくすぐられるなと思ったり。ツノを触ってみようと思うが、そこまで腕が届かない。全くもって使えない腕だ。


 総合するとこの姿、絶対に怖い。超怖い。

 こんなのが前世で僕の目の前に現れたら腰抜かす。自衛隊にやっつけて欲しいと思うだろう。


 ともあれ今の姿はなんとなく掴めはした。

 しかし、なぜこんな姿になってしまったのか。一体ここはどこなのか。何が何だか分からない。

 不安も疑問も尽きないが、それでも暗闇で絶望していた時より、第二の脳〈ニノ〉が現れたおかげで前を向くことが出来そうだ。

 ひとまず現状を受け入れて、出来ることをやっていこう。

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