第3話 異世界メイドとコンビニ

 とりあえず俺たちは公園を出て俺が住んでいるアパートへ向かうことにした。

 魔力を消耗したアンジェリカさんには休養が必要なのでそこで休んでもらおうと思ったのだ。

 決してやましい気持ちは無い。いや……やましさが全くないかと言われれば自信が無いが命の恩人、しかも女の子を見知らぬ土地で一人にするわけにはいかない。

 移動する間どうやって彼女やオークがこの世界に来たのか訊いてみた。

 何でもアンジェリカさんは森で薬草を採っている途中でオークと遭遇、戦おうとした時に突然現れた魔法陣に飲み込まれて気が付いたらこの公園にいたらしい。


 彼女が生活する世界は『ソルシエル』といって、生命エネルギーであるマナというものが満ち溢れている所らしい。

 そのマナはあらゆる生き物や物質に宿っていて、マナがより攻撃的エネルギーに変換されたものが魔力なのだそうだ。

 ちなみにアンジェリカさんの感覚によると地球にはマナはあまりないらしく魔力を回復するのに時間が掛かるとのことだった。

 それと逃げたオークはそれほど離れた場所には移動しないはずと彼女は言っていた。きっとヤツはこの近くに潜伏しているに違いない。

 その間にアンジェリカさんには十分休んでもらい少しでも魔力を回復してもらわなければならない。


 俺たちは公園を抜けて閑静な住宅街に出た。ここまで来ればアパートまでもう少しだ。しかし、その前に行かなければならない所がある。

 さっきのオークとの戦いで俺はバイト先で購入した夕飯を台無しにされてしまった。

 そのため近くのコンビニで俺とアンジェリカさんの食べ物やその他に必要な物を購入する必要がある。


 そう……彼女は今日、俺の部屋に泊まるのだ。


「いらっしゃいま……せ」


 コンビニに入店すると男性スタッフが挨拶をしてきたが、アンジェリカさんの姿を見ると動きを止めた。

 メイドさんのコスプレが世間的に認知されて久しいが、それはそういう店や特定の場所での話だ。

 こんな片田舎の夜のコンビニにメイド姿の女性がいきなり現れたらそりゃ驚くだろう。

 俺もコンビニでアルバイトをしている時にアンジェリカさんのような人が入店してきたら、ここのスタッフと同じ反応をすると思う。


「アンジェリカさん、まずは食べ物を買いましょう。そう言えば向こうではどういうものを食べていたんですか?」


 俺は堂々とした態度で店の奥に進んで行く。店のスタッフも少し慣れたのか、そんなにアンジェリカさんを気にしなくなっていった。

 せめてもの救いだったのは夜もそれなりに遅い時間だったため客が俺たちぐらいしかいなかったという事だ。


「そうですね。主食ならパンやパスタでしょうか」


「そっか、それならよかった。他にも色々売っているので気になった物があったら言ってください」


「はい、ありがとうございます」


 夜も遅い時間なのでコンビニと言えど品数はそう多くはない。それでもアンジェリカさんは悩みながらいくつか商品を選んで買い物かごに入れていく。

 俺も弁当の他にカップ麺や菓子パン、ジュースを入れて食べ物関連は終了した。

 さて……ここからが本番だ。女性が生活するにあたって必要な物――服や下着類だ。

 シャツなどは俺の物を着てもらえばいいが下着に関してはそうはいかない。

 ということでアンジェリカさんに選んでもらっている。包装に書いてある説明文を確認している彼女を見てふと疑問に思った。


「そう言えばこっちの文字って読めるんですか?」


「文字は私の世界のものとは明らかに違いますが、不思議と意味が分かるんです。――それにしても、こちらの店舗は規模はそんなに大きくないのに生活に必要なものが揃っていますね。お陰で助かりました。こちらを購入してもよろしいでしょうか?」


 どうやら書いてある内容は分かるらしい。そして買い物かごに女性用下着が追加される。他にも気になる物があるのか、彼女はしげしげと眺めている。

 この辺りの品物は自分には縁が無いのでいつもは素通りしていたのだが、ふと見てみると衝撃的な物を見つけ手に取ってしまった。

 その小さい箱には『超極薄』とか『まるで着けていないかのような着け心地』といったうたい文句が書かれている。


「これは……まさか……大人のカップル御用達の……」


「何かありましたか?」


 アンジェリカさんが急にこっちを向いたので、彼女に見つからないようにその箱をかごの中に勢いよく入れてしまった。


「特に何にもないです。アンジェリカさんは他に必要そうな物はありますか?」


「いいえ、これで大丈夫だと思います」


 こうして俺はかごに入れてしまった箱を棚に戻すタイミングを掴めないままレジへと進んでしまう。

 淡々と会計が進んで行き、その様子をアンジェリカさんは興味深そうに見ている。

 頼む……あの箱の存在に気が付かないでくれ。あんなものを購入したということがバレたら、俺が下心満々みたいじゃないか。

 せっかく知り合いになった美女メイドさんから軽蔑されるような展開になったら生きていけない。だから気が付かないでー!


 何とかアンジェリカさんに気が付かれず無事に会計が済みコンビニを後にする。視線を感じたので男性スタッフの方を向くと俺に向かってサムズアップしていた。

 「健闘を祈る」じゃねーよ。店の中で彼女からずっと様付けで呼ばれていたし、店員さんに絶対変なプレイをしていると思われたよ。

 このコンビニはアパートから近くて便利だったのだが、次から利用しにくくなってしまった。

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