第三十二話
その2
達也さん(仮名)が小学生だった頃に、かっちゃんと呼んでいる親友がいた。
ある日、新作のゲームが出たからみにいこうと、かっちゃんが言うので二人して近所の家電屋に駆け込んだという。
まっさきにお目当てのゲームが並んでいるコーナーに向かうが、達也さんはおろか、かっちゃんすらお金を持っておらず、ウィンドウショッピングするだけで終わってしまった。
目的を果たしてあとは帰るだけ・・・なのだが、かっちゃんがしきりに「あれもみたい」「これもみたい」という。
達也さんは二つ返事でそれを了承するが、それからずっと、かっちゃんがいまにも顔がくっつきそうなぐらい色んな商品に近づいて眺めている後姿を、側で見守っているだけだった。
帰りたがっている達也さんを、この日のかっちゃんは何度も呼び止める。最初は早く公園か自宅にいって一緒に遊ぼうと考えていたが達也さんだが、「もうちょっとだけ」「つぎが最後だから」などと、かっちゃんの呼び止めがあまりにもしつこいので痺れを切らしてしまった。
「かっちゃん! 先帰るわ!」
その怒声に、かっちゃんは振り返ることなく空返事するだけだった。
「いま思えば、変なんですよ」
家庭用ゲーム機のならぶウィンドウ、ミシンの箱、テレビ、・・・そんなものを眺めていた かっちゃん。その姿がどう思い出しても『くっつきそうなぐらい』どころか、『頭の前半分を商品にのめり込ませていた』ようにしかみえなかったという。
達也さんが かっちゃんと遊んだのはそれが最後で、翌日から彼は学校に来なくなり、家庭の事情で引っ越した・・・と大人に聞かされた。
「一つ、いまでも気になっていることがあるんですが・・・」
「あのとき、僕が『かっちゃん』と声かけたのは、本当に『かっちゃん』だったんでしょうか?」
「・・・というか、あのとき僕がアレを『かっちゃん』と呼んだのがダメだったんじゃないかなあ・・・って」
そう達也さんは締めくくった。
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